おじょうさまとせいねん。
番外編に近いかな?悠人の親戚が出てきます。
奥山 忍 →お嬢様、高飛車標準装備。
秋も深まって、少し肌寒く感じるこの頃。
夏に手を火傷して以来、すっかり時間が取れればピアノを弾くようになった悠人。
「ちょっと弾いてくるね、お客さん来たらピアノ室に来てもらってください」
台所に声を掛けると、恨めしそうな顔で見る六花を見つける。
「…弾いてみる?」
「いいの?初心者だけど?」
ニッコリ笑って、おいでと手を差し伸べればしっかり握ってピアノ室へ。
ベンチタイプの椅子に座り、出入り口に近い方へ六花を座らせサラッと触りだけ、弾くと嬉しそうに六花は寄り添って鍵盤と悠人を見比べる。
「凄いね、綺麗ね」
「六花も頑張って弾けるように…ね?」
「じゃあ、この鍵盤のココをね、僕がハイって言ったら押して?」
「コレね?」
悠人が曲を弾き始めると、六花も知ってる曲で「はい」と言われて押せば曲がつながる。嬉しくてたのしくて、「はい」と言われるのをワクワクして待つ。
待ちわびながらの曲は楽しい、あっと言う間に弾き終えて次の曲も同じように押して曲に参加する。
「楽しい~、嬉しい~」
ニコニコ無邪気に笑って、見上げれば目を細めて笑う悠人がいて。
「じゃ、ここに座って?少し狭いけど」
椅子に奥深く座って、足の間にスペースを作って六花を座らせる。
「いい?僕の手に六花の手重ねて?そう…。」
「くすぐったい」
首にかかる吐息に首をすくめながら、嬉しそうに手を重ねればそのまま新しい曲を弾き始める。
「わぁ、私が弾いてるみたい…。」
悠人が動かすままに、六花が弾いているように手が動く。重ねているだけだが、よりリアルに感じてピアノが弾けない六花には、夢のようだ。
3曲弾いて、六花が知ってる曲の触りを口ずさんでその曲を、悠人が弾くのだ。
「何聞きたい?」
手を止めて、ゆるりと六花の後ろから抱きしめて小さな肩に顎を載せて、返事を待つ。
「う~ん、あらかた弾いて貰ったかも?あ!手揉んであげる!」
ちょこちょこ動いて、隣に移動して横から手をゆっくりほぐす。
「気持ちいい?」
「気持ちいい…、上手だね」
「手綺麗に治ったね、良かったぁ。こんな綺麗で長い指…、私も欲しい位よ」
「切れた?寒い?」
悠人が六花の唇を指でなぞれば、白い指先に血。
「今日お休みだから、薬用リップ塗ってないからかな?あ、駄目」
指先に付いた血を、ペロリと舐めるのを腕を掴んで引きとめる。
「なんで?まだ出てる…」
何が?と聞く前に、六花の唇を悠人の舌がなぞり血が出ている個所を、そっと舐めとる。
「んっ、や…痛いの……ッ」
ゆるゆると腕を伸ばして、片方は六花の背中へ片方は後頭部へとまわし、一度離した唇をより一層深く合わせてより味わうように後頭部に廻した手に力を入れる。
水音と、リップ音と息遣いだけが響く中、ゴトンと廊下から音が聞こえ目線を上げるとピアノ室の窓を、陰が写りこんでいた。
顔を離して、放心状態の六花の口から零れるのを指ですくって、ちゅっと舐めれば真っ赤になって悠人の服を握る仕草が、可愛くて仕方がないというようにクシャリと髪を混ぜて笑う。
「危ない危ない、押し倒しそう。」
なお一層真っ赤になり、プルプルと首を振るのを残して立ち上がる。
「誰か客が来たかも、ちょっと見てくる。六花は、ここで待ってて?」
こっくり頷いて、ポワーとした目で悠人を見送りハタリと椅子に倒れこんだ。その仕草をクスクス笑って廊下に出た。
廊下の先には、悠人を見て真っ赤になる少女―――奥山 忍だ、悠人の親せき筋の子で従妹にあたる。
「見たね?」
「見たくて覗いたんじゃありませんのよ、お兄様がピアノ弾いてると伺ったので向かったら…あのような事なさってるんですもの。」
クセのない真っ黒なロングヘアを揺らし、顔を赤らめて言う姿は年ごろの男性なら目を奪われる可愛らしさだ。
「えっちー、忍のえっち。」
「えっちじゃありませんわ!お兄様のほうが、破廉恥ですわ。」
クスクス笑って、ソファを勧めるとストンと座る。すぐに携帯の着信音が鳴り響き、忍が出れば何事か驚いた口調で短い会話をすると勢いよく立ちあがる。
「残念ですわ、あたくし帰らなくてはなりませんの。お兄様申し訳ありません」
「忙しいね、また遊びにおいで。」
「ええ、お兄様が破廉恥な事をしていない時に」
「破廉恥じゃないし、同意の上だし。」
玄関先で運転手が待っており、慌ただしく帰宅するのを見送った。
「生きてる?」
「なんとか。」
暖かい紅茶を渡し、六花と飲めば先ほどの件を聞かれる。
「あぁウチの従妹だよ、忍って言ってまだ高校生じゃないかな?何か用事あったみたいだけど、呼び出しで帰って行った。」
「そうなの?ご挨拶したかったなぁ」
その言葉を聞いて、小さく笑う。
「キスしてる時、忍が窓からこっち見えてたらしくてね。不本意だろうけど、…破廉恥って言ってた」
「破廉恥…、イケナイ事してるみたい。」
「お子ちゃまだからね…。」
クスクス笑って、暫くすればまたピアノ室からピアノの音が響き昼過ぎまでその音は、途切れる事がなかった。




