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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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さくらのはな。

「で?ヴィのカワイコちゃんは元気かい?」


珍しく日曜の朝から来てわがもの顔に座るプラチナブロンドの青年、家主の悠人やアーネストも長身だがそれより更に大きいレオンことレオンハルトはドイツ人。

アーネストから聞いているのだろう、ニコニコと悠人を見る。


「元気かって、元気に働いて貰ってます…よ?」


「ヴィは六花ちゃんが来てから、すっげー笑うようになったもんなー♪」


斎藤が配属されて既に2ヶ月が経過している、1時間早く出勤しているという斎藤は始業前にエクセルの勉強をしている。


「普通です普通」


7分袖のTシャツをまくって、3人分の朝食を用意する悠人は思ってもない言葉に詰まる。


「いやいやいや~、お前の部下たちはよ~~~~~っく見てるよぉ」


ニヤっと笑うアーネストは、サラダをテーブルに並べレオンとニヤニヤ。

仕事が少ないから、余計なこと考えるんですよ量を増やしてやらねばと、ブツブツ言う背後でニヤニヤの2人。


「もうさ、言っちゃえよ。俺たちから見たら、ヴィの顔見たら分かるんだよな」


サラダにフォークを突き刺し、かぶりつきながら言うレオンを睨みつける。


「んじゃ俺、斎藤さんにアプローチしていい?」


「……」


無視して朝食を食べ始める悠人へ、レオンも笑う。


「アーネストがアタックするんだったら、俺見物に行こう♪」


「勘弁してくださいよ…」





六花は、悠人から毎朝渡される書類をエクセルにて表を作り処理していくのが、最近の仕事になってきている。もっともっと、仕事ができれば隣で目を赤くしている課長の仕事が少なくなるのではないかと、チラリと見やる。長めの髪の毛で、目元が少し隠れている悠人だが、そんじょそこらの人間より絶対断然美形それに全く気付いていないのか、時折笑う笑顔のファンは余所の部署にも多数いる。


「ん?分からない」


六花の視線に気づいて、ふわっと笑い顔を向けるそれに顔を赤くして、書類を見せてチラリと見上げる。


「ぜーーーったい、相思相愛だと思うんだけど?」


悠人の部下が、2人に背中を向けてコピー機前で他のスタッフに声を掛けると、何人もがウンウンと頷く。


「なんかこの間も、2人で食事行ってるみたいだし?時間の問題じゃない?」


もう一人のスタッフも証言し、この先を予測する。

そう思われているとは、知らない2人は仲良く仕事の話をしているのだが…。


「~~~ッ」


「課長どうかしたんですか?」


涙目になった悠人が、目を真っ赤にさせてコンタクトを外す。


「めーちゃくちゃ染みて、目が痛い。」


愛用の洗眼セットを持ち洗面所に行こうとするが、目がショボショボして開かない。


「斎藤さん…申し訳ないけど、ちょっと連れて行ってくれないかな?」


ごめんね?と差し出された白くて大きな手を、六花が引いてソロソロと移動。


「どうしたー?」


男性スタッフが声をかけ、悠人の目の異常を言うと顔をゆがめる。


「病院行ってこいよ、それ絶対角膜とか傷付いてるぞ?コンタクト合わないんだろうなぁ、もう早退してしまえ~!」


最後は笑っていたが、目を洗ってもなお目がショボショボする悠人は謝罪しつつも駅前の眼科に行った。翌日六花が出社すると、悠人が2・3日休むと連絡があったと聞く。



「どうも、体の疲れとか眼精疲労とか重なって、とどめにコンタクトで角膜に傷が入ってるらしくてねー」


困った困ったと、課長の仕事を補佐に回す。

とりあえず、持っている仕事と補佐から回ってきた仕事を定時までやっつけようとしていると、同じスタッフの山元愛梨が椅子ごと近づいてくる。


「課長ね、一人で暮らしているらしいよ?どうするんだろうねぇ?あ、これウチの課の名簿ね♪」


六花は、名簿の悠人の住所を見ると自宅マンションから行けない距離でもない。

丁寧にその名簿を折りたたむと通勤かばんに入れた。






六花の前にそびえたつ重厚な門には、多少びびったが一人暮らしと聞いている。

玄関チャイムは、カメラ付きで押してしばらく待つと悠人の声が聞こえてきた。


「斎藤さん?どうしたの?」


「あ…あのっ、課長目が大変な事って聞いて御夕飯どうかなって」


「待ってて、行くから」



暫く待つと、大きな戸の横にある小さな戸が開いて悠人の顔が出る。


「中にどうぞ、でもダメだよ?男の一人暮らしに、女の子が来ちゃ」


「でも…心配だったし。」


門からだいぶ歩くと、やっと玄関があり和風の家がどっしりと建っていた。


「ありがとう、助かるよ」


玄関の扉を開けて、振り向いた悠人が笑う。

六花は、その笑顔に顔が赤くなるのが分かったが夜なので、きっと悠人には分からないだろう。


「ヴィ、お客さんか?」


六花が顔をあげると、そこには白髪に間違えそうなプラチナブロンドの長身の男性。


「そう、僕の仕事を手伝ってくれてる斎藤さん。心配してくれて、来てくれたんだ」


「優しいコだねぇ、アーネストも騒ぐわけだ」


クスクス笑って、レオンハルトですと六花に握手する。


「レオンハルトさん、大きいですねぇぇ。課長もアーネストさんも、大きいのに更に大きい」


「白いクマだよ、クマ」


台所を教えて、六花が準備しそれを手伝うレオン。

悠人は、レオンに言われてじっとソファに寝転がっている。


「六花ちゃん、ずばっと聞いていい?」


「はい?」


首が痛くなるほど見上げレオンを見る六花は、続きを待っている。


「悠人のコト、好きでしょ?」


ガチャン!と、鍋のふたを落とすがそれをレオンが拾う。


「かーわいいねぇ、うんうん。大丈夫だよ、頑張ってごらんよ。僕はもう帰るから」


ニッコリ笑って、レオンは直ぐに悠人の元へ行き仕事が残っていたから帰ると告げた。

レオンに言われ、変に意識した六花だが大学のころからの一人暮らしで自炊をしていた成果を発揮し、ちゃんと2人分の食事を素早く用意した。それは、悠人も喜んで食べ美味しかったよと、笑顔で言うほどだ。


「課長は、ここに1人で住んでらっしゃるって聞いたんですけど?」


「うん、そう」


悠人は、冷蔵庫にあったサイダーでアイスティを割る。ティーソーダである。

その先を聞いていいか迷った六花は、黙ってティーソーダを見つめる。


「もう10年かな?親父と母親が離婚してね、弟と妹の親権をあっちが持って僕の親権は親父が持ったんだよ。この家を残したいからって、こんなのでも一応本家ってヤツでね。」


「10年…、御兄弟とは会いますか?」


「会うよ?5回会ったかな~?イギリスにいるから、夏休みに来るからね親父の墓参りに。」


悪いこと聞いちゃたと言う六花に、悠人は苦笑する。


「優しいね」


クシャリと、六花の頭を混ぜて立ち上がる。


「送るよ、もう遅いから。それに、独身男性の家に一人で来ちゃだめだよ?誰が見ているか分からないし、噂が立って困るでしょ斎藤さんが」


車のカギを握って、玄関のカギを締めていると六花が悠人の上着を握る。


「噂…立ってもいいですよ?」


驚いて振り返る悠人に、キッと顔をあげた。


「あたし、和奈城さんが好きです。嫌いって言われたって、大好きなんです!」


一瞬びっくりした顔だった悠人だったが、直ぐに嬉しそうに笑い、六花はぎゅっと抱きしめられて、ポンポンと背中を叩かれる。


「先に言われちゃったねぇ、僕も大好きだよ」


六花ちゃん一大告白、六花視点の話も1本書いてみたいな…。

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