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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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さがしもの。

適材適所って言うけど、面接官も大変なのです。経験から言うと…。

張り詰める空気、ピンと張った空気の中で悠人は書類の陰で欠伸をこっそり噛み殺す。


『つまらん』


その言葉が、頭で一杯だ。この瞬間にも、手持ちの仕事がいくつ処理できるだろうか思案してしまう…。





―――入社試験面接中、面接官として駆り出されている最中なのだが。



部長・常務など、濁点ばかりの肩書がいる中で自分が紛れているのは所属課である開発課に、適した人材をこの段階で抑えるためだ。


昨今自由化と言われているらしい就職戦争も、この外資系の会社で少しは適用されているが、厳しいのは変わりない。他社に比べると、国際色豊かなのが違うくらいだが、それでも志願者の6割は邦人にほんじん


「今年も、男子が多いですねー」


途中休憩が入り、ノホホンと常務が部長に感想を言っていたりする。


「そうですね、営業とか事務系なら女子が攻めてきますが…和奈城君?SEに適した人材いそうかい?」


「SEだけ別枠で募集掛けたい位です、なんですか皆揃ってウチの課避けているように感じるんですけど?」


苦笑しつつ、残りの本日の面接人数を見るとぞっとする。グループ面接なのだが、1度に5人が限界だ。それを超すと、網目をくぐって妙な人材が紛れこむ。


「まぁ技術職の面接は、まだ募集しているし…ほらほら、ここにもプログラミングを経験しているのいるぞ?ひーふーみ…5人いるじゃないか♪」


嬉しそうな常務に、ニヘラと笑みを浮かべごまかす。


「なんだか僕が面接受けてる気分でして、受験者にあれだけガン見されると僕も疲れます…。」


「まぁ仕方ないじゃないか。そうだ!それなら、明日は営業2課のアレックスでも混ぜてみるか?」


営業で活躍中と噂のアレックスは、悠人の同期で金髪碧眼の『THE・ガイジン!』の見本のような好青年だ。彼にかかれば、難攻不落のお得意様も注文をせずにはいられないとか…。


「アレックスも、手持ちで一杯なんじゃないですか?僕この面接立ち会うのに、2週間残業しましたから。」



次のグループ入れますよと、総務の女史がドアを開ける。

こんな会話を展開されているとも知らず、志願者は緊張一杯の顔で面接室に入ってきた。




「あーもー、目が痛い。肩痛い…。」


ブツブツ言いながら、首をゴキゴキ鳴らして歩けばあちこちから苦笑する声が聞こえる。




『公爵様!』


小さいけど、聞きとれる声がどこからか聞こえた。

キョロキョロと見渡せば、先ほどの面接に居た外国人数名が悠人を見て軽く会釈をする。

クリクリのカールした髪が茶色で、緑の目をしたソバカスだらけの青年は、残りの人間に手を挙げて走ってくる。


『公爵様、こちらの会社にもいらしたのですか?サマセットの領地に住んでいる、ジョーイです。』


どうやら英国あっちの領地に住んでいる人間が、海外留学していたみたいだ。軽く笑って、握手する。


『悠人・ヴィンセント・ウォーレス・和奈城だ、残念だね?君の知っている侯爵は、僕の双子の弟だよ。』


ジョーイは目を剥いて驚き、マジマジと悠人の顔を見ると納得した顔。


『そう言えば、侯爵様と目の色が違いますね。申し訳ありません。』


シュンと雰囲気が小さくなるのを見て、ふっと笑う。


『今度言っておくよ、ジョーイと会ったって』


『いえいえ、とんでもないです!会えて感激です、ありがとうございました。』


悠人の差し出した左手を、両手でブンブン振りまわし何度も『ありがとうございます』を言ったジョーイは、待っていた数名の受験者に合流し皆で手を振って出て行った。



「なんだ?アレは?」


ヒラヒラと手を振っていれば、課長補佐の東が通りかかり青年達と悠人と見比べる。


「あぁ、弟のファンだってさ。間違われた。」


「同じ顔だからなぁ。どうだ?逸材はいたか?」


再び歩きだして、苦笑を禁じ得ない。

その意味を汲み取り、東は小さくため息を突いた。


「まぁ、あと5日間頑張ってさらしものでもするさ、1人か2人でもいいだろう?」


「…居ればな?」


デスクに戻れば確認依頼の書類から、メモリスティックから机のカゴに小山になっており、軽く眉を上げて悠人は通常業務にようやく着いたのだ。


日本人なのに日本語の使い方を間違える頻度が多い者には、喝と言う名の漢字ドリルコピーが渡され。ミスの多い人間には、メモに書き込んで貼り付けてから返却、メモの端に「馬鹿」と書くのは御愛嬌だろう。他の課長はネチネチ言うのだから、馬鹿の一文字で激昂する人間は課内には無し。漢字ドリル提出を食らった人間は、声なき悲鳴を上げていたのだが…。


以前その方式を採っていて、「馬鹿とは何ですか」と食ってかかった人間がいたが、『馬鹿に馬鹿と言わず、誰に馬鹿言うんだ。つまらん事言うなら、漢字と文法の勉強くらいしてこい大馬鹿者め』と、言いかえされテンプレートを使って客先に案内文を作った人間には『同じ人間ばかりじゃないんだから、それくらい考えて同じ文章で仕事するんじゃない給料泥棒。』と、コテンパンに言われた部下もいるのである。


ちなみに、後者が東氏であり、前者が東氏の次に腕が良いSEに向けた言葉であるのは、知る人ぞ知る話。PCの変換したままの言葉を使って文章を作り、悠人の鬼チェックに引っかかる人間もいまだいるのだ。国語辞典を買いなさいと、言われる前に買う人間もいるのだが、こうやって地道にする事により客先にも好印象を経ているのは事実である。


ちなみに、他部署の人間を含め皆は『和奈城課長は優しい』との評判。

事細かに仕事をチェックする姿勢は、そう評価されている。

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