ももいろ。
六花目線デス。
ポツンと。
いつも仕事している職場、いつも使っている席で私は一人で仕事をしているようだった。
左隣は大好きな人、掛け替えのない大事な大事なひと。
左を向けば、あの人はいない。
その代わりに、課長補佐の東氏が仕事をしている―――どうして?
カタカタ…キィーボードを叩く指先の音も違う、あの人はもっとピアノを弾くように楽しそうに打っていた。
「どうかしたか?」
メガネの奥から、切れ長の目が私を見る。
「あの?課長は?」
「俺が何か?」
課長?東氏が?いつから?
「あの、課長はいつから課長ですか?」
ふっと小馬鹿にされたような気がしたけど、東氏はカレンダーを見る。
「2週間目だな、君も覚えてるだろう?和奈城君の、結婚式…君の幼馴染だろう?新婦。」
「え…?裕子ちゃ…んですか?」
寒い…体が、ブルブルと震え始める。
左手の薬指、そうこれがあるはず…桜モチーフの指輪を見るが、いつもあった場所にそれはない。
慌ててトイレに逃げ込む。
どうして?
大切に大切にしていたのに、あの人は裕子と結婚したの?
どうして?
悲しくて、どうしようもなくてのたのたと個室の壁にもたれこむ。
ポロポロと涙が出て止まらない、このままじゃあ仕事にも出れない。
悲しい―――どうして、いないの?
パチパチと顔を叩かれ、痛みで目を開けた。
覗きこむ見慣れた金髪、オッドアイの目。
「ヴィンセント…?」
ほっとしたような顔で、私の顔を手で拭いてくれる。
「泣いていたよ、どうしたのかな?」
私は左手を見る、ちゃんとしっかりある指輪。
よいしょっと起き上がって、ぎゅーっと抱きつくと背中に大きくて暖かい手が直ぐに回る。
ポンポンと、安心しなさいと。そう言っているみたい。
ちゅ…ちゅと、顔のあちこちに小さくキスが落ちてきて嬉しくて嬉しくて、小さく笑って顔を見る。
「ヴィンセントが、夢の中で裕子ちゃんと結婚しちゃってた。」
「うーん、ありえないな。キャストミス。ほかに何か?」
「うん、指輪がなくて。東氏が課長になってた。」
「僕はどこ行ったんだろうねぇ」
少し呆れた声が聞こえるけど、そんなのいいの。
ちゃんと、手を伸ばせばココにいるから。
「よかった、夢で」
「夢だよ、安心して寝なさい?」
ちゅと、大きく音を立てて唇を離すけど、離れたくない。
「ヴィ?もっと…ちょうだい?ヴィの”ちゅう”だいすき。」
嬉しそうにヴィンセントが笑う”嬉しい事言うね”と、小さく聞こえたけど。
深く食べられそうな位唇を合わせて、記憶が薄れそうな位濃いキスを沢山したのまで覚えてる。
「おはよ」
良かった、朝になってもヴィンセントは横に居た。
「おはよ」
嬉しくて、にやけちゃう。
「唇は腫れてる…、マスクしなきゃね?」
人差し指で、私の唇をなぞる。
「そんなに腫れるほどしたっけ?」
呆れた顔していたけど、覚えてないもの。
「濃密なのを、戴きましたよ?」
今度は、休日前におねだりしよう。
夢でよかった…。
六花ちゃんは、キス大好きってゆうだけ?
その先は、皆さまのご想像にお任せします…。この先はムーンじゃないと無理(爆)




