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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
25/158

ももいろ。

六花目線デス。

ポツンと。



いつも仕事している職場、いつも使っている席で私は一人で仕事をしているようだった。

左隣は大好きな人、掛け替えのない大事な大事なひと。


左を向けば、あの人はいない。


その代わりに、課長補佐の東氏が仕事をしている―――どうして?


カタカタ…キィーボードを叩く指先の音も違う、あの人はもっとピアノを弾くように楽しそうに打っていた。


「どうかしたか?」


メガネの奥から、切れ長の目が私を見る。


「あの?課長は?」


「俺が何か?」


課長?東氏が?いつから?


「あの、課長はいつから課長ですか?」


ふっと小馬鹿にされたような気がしたけど、東氏はカレンダーを見る。


「2週間目だな、君も覚えてるだろう?和奈城君の、結婚式…君の幼馴染だろう?新婦。」


「え…?裕子ちゃ…んですか?」


寒い…体が、ブルブルと震え始める。

左手の薬指、そうこれがあるはず…桜モチーフの指輪を見るが、いつもあった場所にそれはない。

慌ててトイレに逃げ込む。


どうして?



大切に大切にしていたのに、あの人は裕子と結婚したの?



どうして?




悲しくて、どうしようもなくてのたのたと個室の壁にもたれこむ。



ポロポロと涙が出て止まらない、このままじゃあ仕事にも出れない。



悲しい―――どうして、いないの?






パチパチと顔を叩かれ、痛みで目を開けた。

覗きこむ見慣れた金髪、オッドアイの目。


「ヴィンセント…?」


ほっとしたような顔で、私の顔を手で拭いてくれる。


「泣いていたよ、どうしたのかな?」


私は左手を見る、ちゃんとしっかりある指輪。

よいしょっと起き上がって、ぎゅーっと抱きつくと背中に大きくて暖かい手が直ぐに回る。


ポンポンと、安心しなさいと。そう言っているみたい。


ちゅ…ちゅと、顔のあちこちに小さくキスが落ちてきて嬉しくて嬉しくて、小さく笑って顔を見る。


「ヴィンセントが、夢の中で裕子ちゃんと結婚しちゃってた。」


「うーん、ありえないな。キャストミス。ほかに何か?」


「うん、指輪がなくて。東氏が課長になってた。」


「僕はどこ行ったんだろうねぇ」


少し呆れた声が聞こえるけど、そんなのいいの。

ちゃんと、手を伸ばせばココにいるから。


「よかった、夢で」


「夢だよ、安心して寝なさい?」


ちゅと、大きく音を立てて唇を離すけど、離れたくない。


「ヴィ?もっと…ちょうだい?ヴィの”ちゅう”だいすき。」


嬉しそうにヴィンセントが笑う”嬉しい事言うね”と、小さく聞こえたけど。

深く食べられそうな位唇を合わせて、記憶が薄れそうな位濃いキスを沢山したのまで覚えてる。







「おはよ」




良かった、朝になってもヴィンセントは横に居た。


「おはよ」


嬉しくて、にやけちゃう。


「唇は腫れてる…、マスクしなきゃね?」


人差し指で、私の唇をなぞる。


「そんなに腫れるほどしたっけ?」


呆れた顔していたけど、覚えてないもの。


「濃密なのを、戴きましたよ?」


今度は、休日前におねだりしよう。


夢でよかった…。

六花ちゃんは、キス大好きってゆうだけ?

その先は、皆さまのご想像にお任せします…。この先はムーンじゃないと無理(爆)

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