かいしゃけんがく。
六花ちゃんと、お付きの人間は本日不参加デース。
都心のオフィス街、昼過ぎに悠人は私服でとあるビルに向かっていた。
黒のⅤネックシャツにダークグリーンのパンツとスニーカーだ。しっかりサングラスは忘れずに。
どこか楽しそうに歩いて、受付に行けばしっかり厚化粧の受付嬢がはりついていた。
「会長秘書の青山いますか?」
「御約束はございますか?」
少し考えて、ニヤと笑う。
「ダウェルが来たって言ってくれたら、分かるかな?電話で言ってみて」
受話器片手に受付嬢が言えば、何か分かったらしく『少々お待ちくださいませ』とソファを示されるが、座る前に鬼のような形相で青山が走ってきた。社内ではキレ者やり手の青山と噂されているが、『ダウェル』と聞いてマッハで走ってきたのだ。その様子に受付嬢も目を見開く。
「何しに来た!」
「ばか言え、会社見学だよ。何?僕に秘密で会社乗っ取りでもするのか?」
「するか!」
「青山…」
「何だ?」
「喉乾いた、どうせ中元で美味しいお茶でも来てるだろう?のーみーたーいー。」
こう言う喋り方は、悠人と蒼太が青山をからかう時に幼少の頃からやって居た手だ。伸ばして喋るのがポイント、なぜだかそうすると青山は照れるのだ。
「来いよ、たまにゃお前の部屋も使えば?」
テクテク社内を歩き、珍しそうに視線を彷徨わせるがサングラスのおかげで分からない。
「結構…、利益出てる?」
「そうだな、利益が減る部署も最近の不況であるから、そっちの補てん…ってかソレ昨日の報告書で渡しただろう?」
知ってると言う悠人に、青山の眉がつりあがる。
青山に通された会長室…つまり、悠人の部屋には何もなく。重厚なデスクとソファセットが置いてあるだけ。
「そろそろこっちに座ったらどうだ?SEなんで遊びしてないで。」
パソコンで遊ぶ仕事だと、酷な評価をする青山を目線で黙らせ今日の報告を見て行く。
「あと少しは、いいんじゃない?その前に蒼太がこっちに来るだろ?その前に僕が就任したら、蒼太が突つかれる…研修にならないしな。」
ガチャリとドアが開き、青山が鋭い目線を扉に投げる。お茶出しで来た女性に、部屋にはだれも入れるなと言っていたからだ。部屋に入ってきたのは、壮年のオールバックの男性。
「悠人様…お久しぶりでございます。松永でございます。」
「久しぶり、元気していた?」
握手して、背中をポンと叩くと嬉しそうに松永は『御陰様で、すこやかに過ごしております』と。松永は常務だ、悠人が子供の頃には頻繁に出入りしていた重役で、父親にしごかれる悠人を陰から手助けしていた。
「受付で噂になっていまして、金髪男性が青山をからかっていたと。それを聞いて、悠人様だと分かりまして無礼を承知で参じました」
笑うと皺で目が消える、昔の記憶のままだ。
「たまには社内の様子でも見ようかな…ってね、今度修行でここに蒼太を送り込むから、ビシバシやってほしい。」
「蒼太様ですか?それでは、経営の経験ですね?社長を兼任しますか?」
いや…と、松永をソファに座らせる。
「営業に入れるつもりだよ、青山にも言ったんだけど。上から社内を見るんじゃなくて、内部を熟知しないと駄目だと思う。とりあえず、経営のイロハを知らない蒼太なら尚更。」
その後数時間松永と青山を交えて、今後の相談をする。
悠人の父親を知る人間は今現在社内では、松永と青山だけなのだ。信用出来る人間は少ない、せめて自分が会長職に戻るまでに必要な事を済ませたいと思う悠人だ。
松永と青山の話が白熱してきて、最初の頃に運ばれて来たアイスティを飲む。
「しっかしお茶がまずい。」
半分程に減ったアイスティ、紅茶の国の国籍保持者としてはゆゆしき問題だ。
このアイスティが、商談や何かで訪れた相手先に飲ませているとなると、まとまるものも纏まらなくなりそうで怖い。扉をそっと開けると廊下には誰もいない役員フロア。勝手知ったる自社ビル、給湯室まで行ってヤカンを探し出し湯を沸かす。
ゴソゴソ探せば、見慣れた黄色いパッケージ紅茶が発見出来て、ペリペリとめくる。自分の分も合わせて3人分…何かを思いついてもう1人分追加した。
「あの…?」
後ろを振り返れば、先ほどをお茶を運んで来た女性だ。綺麗に巻いた髪を、茶色に染めている。
「あぁごめんね、勝手に触っているけど。このグラスは耐熱かな?」
探し出した細身の長いグラスを指させば、女性は頷く。アイスコーヒー作るのに、このグラスを使うとも。氷を出してもらい、手洗いをした手でぎっちりグラスに入れ、空のコーヒーポットに抽出を代用して濃い目の紅茶を作る。グラスに注いで完成だ、会長室の扉開けますとその女性は付いてきてその音に、松永と青山がようやく顔を上げた。
「なっ!!何してるんだ。」
「いや?お茶いれただけ、君にもあげよう。次回はこれくらいまでには、腕を上げていて欲しいな?」
渡された女性は、常務にビビリ会長秘書の青山にビビリ、「まぁまぁ」と悠人に勧められたソファに座ってお茶を飲む。
「全然…味が違います、凄く美味しい。」
「美味しゅうございます、流石ですね。」
ふふふと笑って、自分で入れたアイスティを飲み干す。苦虫を噛み潰した顔の青山は、何か一杯言いたそうな感じだ。
「さぁ、青山君が怖いから帰ろう。じゃ」
軽く手を挙げて、さっさと部屋を出る後ろを慌てて青山が追う。
「君、今日の事は秘密にしておいてくれよ?」
美味しいねぇと、アイスティを飲みながら女性社員に言う。
「はい…あの、商談の方ですか?」
商談なのに会長室使いませんよね?と、小首を傾げる。
「あの青山君が、手の平で転がされるようなお方だよ。若いけど、素晴らしい方だ。」
無礼を承知で言えば、孫位の年の差だけどね…と、松永は言い部屋を出ようと促した。
兄ちゃんは、弟の為に会社を偵察するのであります…。




