みんなのえがお。
「家政婦さんが、住み込みでいるけど挨拶に行く?」
戻って来てお風呂に入り、夕食の準備をしようと考えていた矢先の一言。
リビングで青山と話していたらしいが、直ぐに帰ったらしく後から風呂に入った悠人の言葉に、どんな人だろう?とワクワクの顔。
「行くっ、お風呂大丈夫だったの?まだ薄皮じゃない?」
「ほら、薄皮なりに頑張ってるから。」
白い大きな手を見せてもらうと、血の流れの通りに紅白と皮膚の色が変わるが、別段ジクジクした感じは一切ない。もっと治癒に時間がかかるだろうが、悠人は回復が異様に早いのだ。
「でも、手を使うのはまだ待った方がいいかも?寝る時に軟膏塗ろうね?」
「僕あのヌタヌタしたのが苦手…。」
家政婦や使用人が居た頃に、使っていたと言う別棟の建物に行こうと階下に降りれば、既に彼女達は仕事をしていた。足音で分かったらしく『あ』と呟いて、会釈している。
「初めまして、家主の和奈城です。こっちが、斎藤六花。青山から話は聞いています、旅行中だったので遅くなりましたが、挨拶に。」
「まぁまぁ、和奈城様とお嬢様ですね?私が葉山で、こっちの若いのが加藤です。宜しくお願いします」
葉山は中年過ぎの70代前後で、加藤は60歳前後の女性だ。
「もうすぐ、お食事できますからお待ちくださいね」
青山からざっと説明されていて、離れも母屋も一通り留守中に大掃除が済んでいるとも、食事中に報告を受ける。
「葉山さん、加藤さんすーごくお食事美味しいです」
ニコニコして六花が嬉しそうに感想を述べると、言われた本人も嬉しそうに礼を述べる。
「住み込みで来てもらってますが、部屋に不備はないですか?ちょっと古いけど?」
「大丈夫です、家の周りも木に囲まれて凄く静かで過ごしやすいですよ?」
加藤が、マイナスイオン沢山浴びれそうですと喜ぶ。葉山も、静かなのが一番らしく頷く。
「そうですか?何かあれば、遠慮なく行ってくださいね?あとウチに半同居状態で、入り浸るガイジンが2名いますので、追々紹介しますね」
「あ、明日朝にお客様来るのだけどいい?」
先ほど部屋でメールをしていた相手だろうと、悠人はチラリと見て口角を上げる。
「いいよ?ご近所のお嬢さんでしょ?」
「やった!後で連絡しときまーす、そゆことで1名女性来ますのでよろしくお願いします。」
葉山と加藤は、了承しましたとホワイトボードに書き込んだ。
ピンポーンピンポピンポピーンポーン♪
「あらあら、せっかちな人が押してらっしゃる」
葉山が苦笑して、加藤が玄関に向かい扉を開ければ若い女性が立っていた。
「あり?和奈城さん宅ですよね?」
「そうでございますよ、六花お嬢様のお客様ですね?お待ちしておりますよ?」
「ひろーい…でかーい、固定資産税高そうー」
キョロキョロブツブツ言う裕子に、加藤は笑った。
「いらっしゃーい裕子ちゃん!」
「来たわよー!六花お嬢様になってるじゃーん!びっくりよ、アンタ出ると思ってピンポンのラリーしたら、違う人出てびっくりしたわ。」
手を握って、ピョンピョン跳ねる姿を、2人は暖かく見守りお茶が入りましたよ…と、席へ誘導した。
「イケメン彼氏は?」
「うん?さっきピアノ弾きに行ってたけど?」
手のリハビリを兼ねて、ピアノを使うと言ったのはかれこれ1時間前。ピアノ室でまだ弾いているのだろう。足音を忍ばせて、ピアノ室の窓から見ると何かを弾いている姿が見え、ジェスチャーだけでリビングへ戻ろうと裕子が示す。
「没頭してるねー、やはり王子ピアノがよく似合う。」
「私なんて、ドレミがあやふやなんだもん~。押さなきゃどれがドかわかりゃしないわ。」
「あ・そうそう、これお土産ね?英国行ってまいりました~。」
「おお、ハイソな!」
裕子に用意したのは、ダウェル家御用達の紅茶とアロマセット。
「このお茶がね、ヴィンセントのお宅で頂いてすごーく美味しかったの。」
「いいなぁ、2人で行ったの?」
「ううん、ヴィンセントのお友達2人と一緒だよ?レオンハルトさんと、アーネストさん。裕子ちゃんの知りたい情報的には、両方ともイケメン。今日来るかもねー、昨日はヘタってたけど復活してそうだし。勿論紹介しますよー♪」
含みのあるウフフ笑いをする裕子に、六花もウフフと笑う。
「お嬢様、あちらの方でしょうか?」
加藤が手で示すと、まさに縁側からずずいと入り込もうとしていた赤鬼。
「そうです…おはよ」
「よ!オハヨーサン、ヴィ居るか?」
ピアノ室だよと言えば、ズンズン突き進む。きっと和名城の間取りは、六花より詳しいに違いない。
「六花!凄いじゃない、OKよOK」
「六花ちゃんおはよ、赤鬼来た?」
ひょっと廊下から顔出すは白熊だ、裕子を見るとオハヨと挨拶+笑顔だ。
「来たよ~、ピアノ室に行っちゃった。」
レオンの身長に、家政婦も圧巻と感じたらしい。小さく『おおきいわねー』と囁いている。
「真っ赤な髪の毛がアーネスト、プラチナブロンドがレオンハルト。」
「レオンハルトさんって、超好み…何アレ?優しそうな顔でプラチナって!マンガの世界じゃない!」
「や、現実現実。ちなみに、ライターさんらしいよ?」
旅行中の写真を見せると、裕子が反応したのは『執事の集団』だ。執事カフェ開けるわよと騒ぎ、蒼太の顔を見てまた驚きキャーキャー騒ぎっぱなしだ。
美形には美形が引き寄せられるのか?とブツブツ言って、それでも写真を見る裕子を六花は楽しそうに見ている。
「でもそう言って、結構裕子ちゃんて慎重派なの知ってるもん♪口だけってのもね。」
「ほほほ、美形観賞は目のご褒美なんだもの。」
「お嬢様方、お昼はお素麺で宜しいですか?」
葉山が木箱に入った素麺片手に、2人に問うてくる時間を見れば11時半過ぎ。
「食べちゃっていいの?」
「いーよーぉ、素麺一杯あるの。葉山さん、ガイジン2名はすっごく食べるんです」
分かりましたと笑って立ち去る姿を見て、家政婦さんなのに品があるなと見送った。
「おぉ、合宿か?」
揃って素麺と天ぷら、握り飯食べている最中に縁側から青山が入ってきた。
「御坊さんじゃないんだから、縁側じゃなくて玄関から入って来い。」
「わりぃな、急ぎがあったから置いてく。」
書類が入ってるらしい束を、葉山に渡して急いでいたのか直ぐに去っていく。
「青山さん忙しいのね」
「アイツ年中忙しいフリしてやがる。」
アーネストの毒に、悠人が苦笑した。
「えーっと、藤岡裕子ちゃんね。私の幼馴染です、これからもちょくちょく来ると思うので紹介しまーす。」
「はーい、俺アーネスト!」
「レオンハルトです、レオンって呼んで?」
「裕子です、宜しくお願いします♪」
夏休み中なので、今から道場の窓を開けてくると悠人が走って行き、アイスティを作ろうと六花が台所に向かう。
裕子は2人と歓談中だ、盛り上がっているのか時折笑い声が聞こえる。
夏休み―――六花達は、明日から仕事である。
夏休みおしまーい、眼福な裕子はどうなるのでしょうかぁ。
ちなみに、そうめんは何年か寝かせると美味しいらしいですよ。




