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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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ただいま。

幾分か赤みの引いてきた手に、六花がゆっくりと薄く火傷に効く軟膏を塗り拡げる。


「だいぶ効いてるみたい」


そっと、壊れ物のように悠人の手を触って、ゆっくりと包帯を巻いて行く。切り傷や火傷にも、薄皮が貼って来ているので痛みは少ないだろう。


「ありがとう、助かるよ」


少し厚めに包帯を巻くように、毎回言われているのでクルクルと器用にするのを悠人は楽しそうに見る。指先は軽い火傷なので、手のひらが中心だ。


「あのね?あの扉の時どうやったの?」


思い切って、聞いてみる。


「うん?…あぁ言ってなかったね、サイキックを使った。PKと同じでね、何度かはした事あったけど今回位のは初めてだな。手と、対象物を密着させると力が行き渡りやすいと僕は思ったから、まず水を掛けてあと手を保護するのと、より密着性を高めるために、クリームを山盛り付けてね。」


こんなのと、悠人が左手の手の平に右手の指で小山を描く。


「後は、エイヤーって!念じるかな?雷の要領だね、だからコゲたんだよ…こら、泣くな。」


焦ったように六花の肩を掴んで顔を覗き込めば、目にうっすら涙を溜めて見上げてくる。


「ごめんなさい…私がちゃんとしていたら、こんな事にならなかったのに…。ヴィンセントも、手が痛い。」


「かまわないよ、多分これが最善策だと思うよ?業者なんて呼んでいたら、町から重機持ってきても城に搬入するとなったら、もっと時間が掛かっていただろうし…何より六花が危ない」


「うん…。」


「だから、気にしない。ね?こうやって、皆の前でおおっぴらにイチャイチャできるし、僕は嬉しいよ?」


軽く冗談を言えば、泣きべその顔が少し笑みになる。


「お仕事できるかなー?」


「まぁなんとか出来るでしょう、マウスは出来ないけどね」


優秀な補佐きみがいるから、大丈夫だよと笑う。


「留守番の青山に、何と説明しようか悩みどころだけどね?家政婦さん達も、帰りを待っているさ」


「裕子ちゃん、お茶に招待しよっと。ここのお宅のお茶美味しくて、昨日買い物先で沢山買ったの!だから、ヴィンセントにも淹れてあげるね?」



夕方複雑な顔をしたローズや、日本に戻っても無理しないようにとキャロライや執事頭に口酸っぱく言われ、苦笑を浮かべたままの悠人達が帰国の途に付いた。


仲良しになったメイドに、ダウェル家特製ワッフルのレシピや、ケーキのレシピを貰いウハウハな六花はもっと離れがたい気持ちで一杯だ。


「あー、寂しいなぁ」


窓から暗闇の中町の光が見える景色を見て、飛行機内でポツリと呟く。


「また、来年来たらいいよ。何なら、年末もこっちに来る?」


お正月は、家にも来なさいって言われてるし…と唇を尖らす。


「まぁ、ゆっくり考えたら?時間は、沢山あるからね?」





レオンの運転で、久しぶりの我が家へと到着した。


夕方に到着して、玄関開けるなり青山が目を見開く。


「なんだその包帯?」


「事故。」


ざっくり言えばそうなんだが、詳しくは言わない。青山はサイキックを話していないからだ、訝しげな顔で悠人を見るとすぐに仕事の顔へと切り替えた。


「家政婦さんが来ているぞ、庭の使用人棟に住み込みで来ている。」


「そうか、後で挨拶しなきゃだな」


「外国人が主人だと、一応サラっと言ってあるけどな。」


ボスっとソファに座りこむのを確認して、青山は冷やし緑茶を出す。


「お嬢は?」


「六花?荷ほどきでもしているんじゃないか?帰宅メールでもしてるかも知れないな?」


指先だけでグラスを掴み、器用にお茶を飲む姿を眉を上げて驚く。


「全く…何してんだか?リラックスしに行って、怪我して帰国ってどうなのさ?」


「いい思い出じゃないか、…あぁそうだ、今じゃないが暫く先に蒼太が日本こっちに来る。」


「へぇ?で?俺に言うって事は、仕事がらみ?」


和奈城の会社を纏める『秘書』をしている青山には、多忙だろうがと前置きする。


「縁故で適当な会社に入社させてやって?そうだな、経営に関する部署ってどこだ?」


「どこって…手っ取り早く、営業だろうな?なんだ英国のお坊ちゃまは、武者修行か?」


皮肉な笑みを浮かべて、自身もお茶を飲む。


「まぁな、アイツ自身経営に携わるなんて、オヤジも思っていなかったから今英国あっちでアップアップしながらやってる。かぁさんが健在な今、こっちで修業して英国あっちに戻りまた修行すれば、次期のトップの参考になるんじゃないか?ってね」


「お兄ちゃまは、お優しい事で。んじゃま、営業にでも行って貰いましょうかね~。」

青山はちょっとニヒル?口の悪い執事兼秘書でございますネ。

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