あなたのえがお。
都会から少し離れた閑静な住宅街。
一際大きな門は、古く歴史を感じる構え。
白い塗りの長く続く塀からはみ出る樹木は、うっそうと茂っていてその隙間から瓦が延々と広がる純日本家屋の屋敷がうかがい知れる。
古くから住まう近所の住人は、「和奈城さんチのお屋敷」と。
その屋敷には、かつて7人住んでいた。
異人の妻を持つ、当主。
ハーフの子供たちは、3人揃って可愛らしく近所でも評判の良い兄弟だった。
子供たちが、17歳になるまでは…。
和奈城 悠人27才。
職業 サービスエンジニア(SE)。
スウェーデン系 英国人の母譲りの金に近いアッシュブロンドの髪と、先天性のオッドアイは左がグリーンで右がブルーだ。しかし、その髪色と目の色はヘアマニキュアとカラーコンタクトによって、栗色に変えられている。
悠人の仕事は、入社してからひたすらに睡眠時間を削りに削って努力したおかげで、ただいま出世街道驀進中の課長だ。
朝から晩まで、PCに向かい会社本店支店で使うソフトウェアの構築をひたすら開発…。
悠人の仕事はそれだけでなく、「課長職」である訳で部下が仕上げてきた書類の決裁や、相談から修正まで一切合財を受け付けているので睡眠時間は、良くて3時間悪くて1時間。既に睡眠ではなくて仮眠が常になってきている。
「かちょ…目が真っ赤ですけど?」
「知ってます」
コンタクトを長時間着用しているからだ、眼科の医師には『一日8時間しか、着用してはだめだ』と念押しされていて、コンタクトを買う為に検診を受けるとその都度ガミガミと説教をされる。
おまけに、細かい数字を朝から晩まで睨みつけているし、PCのモニタの照り返しも目の負担になる。
悠人の目が特殊な為に、上司から違和感のない色にしろと入社時に言われたのだ…。
外資系の会社のクセに…と、つぶやく。
国籍は英国籍を取得した悠人、英国人なのだが日本名を名乗っている限りには「日本人」になれとのお達し。一緒に入社した幼馴染なぞ、いっそ清々しいほどに「ガイジン仕様」。
フロアの端で、コピーを取っていたその幼馴染は真っ赤な髪。地毛だが。
真っ青な目を持つ、アーネスト・クレイグ。
悠人に言わせると「赤鬼」、人なつっこい笑顔のアーネストは友人が多い。
視線に気がついたのか、ニカッと笑って手を振ってくる、それを無視して机から洗眼液セットを持ちフラリと立ち上がる。
「目玉、ちょっと洗ってきます」
もう限界だ…と、炎症止めの効果がある洗浄液は悠人愛用。毎日15時は、必ず目の限界が来て目を洗うのが日課になっているので、部下たちも慣れた物だ。
「かちょ、今日は昼からゴルフでいないらしいですよー」
部下が天井を指差してそう言う、天井それはすなわち悠人にコンタクトと毛染めを言ってきた上層部がいる。理不尽な強制に、不満を持つ部下達は不在の情報を得るとそっと教えてくれるのだ。そうすることによって、真っ赤な目にコンタクトする必要もない。
洗面所で目を洗い、念のためコンタクトはピルケースの中へ水と一緒に入れる。
「ヴィー、今日も目玉洗いかー?」
鏡越しに見るとアーネストだ、珍しそうにコンタクトの入った容器を眺める。
「そ」
ドリンクコーナーで、レモン水を買ってボトルで目を冷やす。隣のアーネストは、「大変だな、日本名があると」と。
「仕方ないでしょう?和奈城の家を、潰す訳もいけないですし。僕しかいないんだから」
アーネストが、悠人の方越しに何かを見つけたのか腰を浮かせてのぞいている。
「なに…?」
「かわいこちゃん発見★」
スキップしながら向かう後ろ姿を、ため息と一緒に見送る。
「アーネスト!」
「んー?」
「レオンが、DVD返せって」
くりっと振り返り、おおそういえばと呟いた。
「んじゃ、俺今夜お前ンち行くから!」
なんで僕の家なんだと、ため息混じりに頭を抱える。自由過ぎる幼馴染に、苦笑しかでない。
悠人が席に戻ると、近くの席に見知らぬ若い女の子が座っていた。
「かちょ、さっき人事の人から紹介されて新しいスタッフです」
課長補佐が、その女の子を連れて来た。
くりっとした目が印象的な、小柄な女の子…20歳そこそこだろうか?
「斎藤 六花です、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げれば、長い髪もフワリと揺れる。
「こちらこそよろしくお願いします、課長の和奈城です」
「で、こちらの斎藤さんは課長の補助をして貰いまーす。」
はじめて聞いたのだろう、斎藤は驚き同じくはじめて聞いた悠人もギョっとした。
「聞いてませんよ?」
もっともらしく課長補佐も、頷く。
「だって、斎藤さんが持ってきた書類に書いてあったから」
ま・とりあえず、仲良くしてくださいねーと補佐はサクサク自席に戻りポツンと残った斎藤と履歴書を持ってミーティングルームに向かう。
「何がいいですか?」
ドリンクはセルフで、ずらっと並んだポットを指差す。
「あ、アイスティ貰います」
チョコチョコと歩いて、小さな手でセットしていく。
「課長は、何が?」
「同じので」
適当なテーブルに向かい合って座り、改めて履歴書を見ると新卒だ。
「今年卒業?ハタチ?22?」
「22才です」
資格のところを見ると、たいていこの会社を受ける人間が持っているハズのものがない。
「PCはどうですか?ウチの課は、エクセルが使えないと大変なのですが?」
「エクセルですか…?少しなら、触ったことがあるんですけど」
「少し?作ったのはどういうのかな?」
悠人が聞くと、本当に初歩の初歩を僅かだと判明。
黙ってしまった悠人を、斎藤は恐る恐る見つめる。
「僕の補助…ですよねぇ、仕事の量は調節して斎藤さんができる量を渡します。その代わり、頑張ってくださいね?」
少し笑って、斎藤を見ると真っ赤になっている。
「がががが頑張ります、宜しくお願いします」
座ったまま頭を下げ、勢いよく額をぶつける。
「痛い痛い、斎藤さん額が赤い」
ふふふと笑うと、斎藤がさらに赤面。
しばらく雑談をすると、斎藤がじっと目を見てくる。
「課長の目は?」
「よく聞かれます、本物ですよ。」
「じゃあ、外国の方なんですね~」
ほぇ~と、凝視する斎藤に悠人は苦笑する。
「本当はカラコンしてますが、今日はうるさい方はいないのでね。母親が、スウェーデン系の英国人です。」
「かーっこいい…、でも和奈城さん?」
IDには、和奈城悠人と印刷されている。
「カワイコちゃん、みーーーっけ♪」
アーネストである。
「見失ってて探してたんだよカワイコちゃん!」
「煩いよ、赤鬼」
イソイソと椅子に座り、ニコニコと笑いながら悠人の飲み物を勝手に飲む。
「俺ね、アーネスト!アーネスト・クレイグっての。お前ちゃんと自己紹介したの?」
「しましたよ」
うっとおしい…と、アーネストに背を向けて苦笑する。
「斎藤六花といいます、アーネストさん宜しくです」
ヨロシクねーと、アーネストが手を振り。
「用事があったんじゃないの?給料ドロだねお前は」
「違う!ヴィがちゃんと定時に帰れるか確認しに来たんだよ!レオンもお前んチに行くようメールしたから、今日はちゃんと定時帰宅しろよ!」
ビシィと悠人を指差し、足早に去っていくアーネスト。
「ヴィ?…あだなですか?」
クスクス笑って、斎藤が悠人から渡されたエクセルのテキストを眺める。
「名前ですよ」
「和奈城さんですよね?」
「隠すつもりはないですけど、僕は悠人・ヴィンセント・ウォーレス・和奈城っていうのが正式でして」
どこかのゲームキャラと、同じ名前らしいですがと笑う。
「アーネストとは、幼馴染でね。もう一人居ますが。」
さぁ部署に戻りましょうと立ち上がる。
頑張るぞと、小さくガッツポーズをする斎藤を視界の隅に捉え、悠人は小さく笑う。
和奈城 悠人→身長185センチ
アーネスト→183センチ
斎藤 六花→160センチ
大きく育ちました…。
これから、まだ何人か人間増えますのでよろしくお願いします。




