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第十一話

 静寂が降りる中、透花先生は「これから二つ目のお題を発表します」と私達の目をみながら言った。


「向かい合った相手を思いやる分だけ髪の毛を引き抜いて下さい」


 一瞬にして教室がざわめきだった。だが、先程の透花先生か放った調査書という言葉の響きや、生きている間に無駄なことなんてありません、という発言がまだ私達の頭の中には重くのしかかっていたのか異を唱える者はいなかった。


「何も髪の毛を全て引き抜いて下さいと言っている訳ではありません。髪は、女性の命ですしね。私もそこまで鬼ではありません。そうですね、では十本としましょう。これから私が名前を呼んだ子は、こちらに来て下さい。そして、向かい合った相手を思いやる分だけ髪の毛を引き抜いて下さい。十本が最大、0本が最低の数字とします。ここでも、公平を期す為に、誰一人として漏れがないように総当たりで対面して頂きます。これから冬休みに入るまで私の授業では毎日これを行います」


 透花先生の放ったその言葉に、徐ろに皆が髪を触り始める。


「では、まずは大橋さん、中原さん。こちらに」


 透花先生に促され、大橋さんはゆっくりと席を引き、教壇に立った。心なしか眼鏡が微かに曇っているようにみえた。絵里奈はそこに気だるそうに歩いていく。教卓には白い紙がすでにひかれており、引き抜いた髪は私が数えますからここに置いて下さい、と透花先生は言った。


「で? これは、少なかったらなにかある訳?」


 恐らくクラス中が抱いていた疑問を絵里奈が口にしてくれる。


「調査書においてですが、最も少なかった者には友人関係に問題ありと書かざるを得ないかもしれませんね」

「……やっぱり、思った通りだ。だるっ。大橋さん、分かってるよね?」


 大橋さんは顔を俯いたまま黙ったままだった。絵里奈はすぐさま舌打ちをする。


「ってかさ、この子の声って新学期初日から聴いてないんだけど、そんな子に絵里奈は判断される訳?」


 透花先生は「ええ」とただ一言呟いた。それから「では、相手を思いやる分だけ髪の毛を引き抜いて下さい」と続ける。大橋さんと絵里奈な自らの髪に手をかけ、引き抜こうとした時だった。ちなみに、と透花先生が突如声を放った。


「私が最も得意とする事は、相手の内面や考えを読むことです。万が一引き抜いた本数を、私が嘘だと判断した場合は、マイナス十本とさせて頂きます」


 凪のように落ち着いた声で透花先生が言うと「それを早く言ってよ。七、八本抜くとこだったじゃん」と絵里奈が声を荒げる。結果、絵里奈は「こんなもんかな」と髪の毛を三本抜いた。大橋さんはまず一本を抜き紙の上に置く。全員の視線が集まる中、頭へと伸びていた手がぴたりと止まる。


「ちょっと、おい、嘘でしょ? 一本てそれはないわ。せめて同じ本数置きなよ」

「い、や、です」


 大橋さんは蚊の鳴くような声で呟いた。


「はあ? なんで? 絵里奈があんたに何かした?」

「中原さんはいつも怖くて、いきたくないのにお使いを頼まれたこともあったし、毎日嫌な、気持ちにさせられたから」


 大橋さんの放った言葉に、透花先生が「分かりました」と被せるように言った。


「この二人に嘘はありませんでした。結果、中原さんが一本。大橋さんが三本という結果になりました。二人とも席に戻って下さい。次は、小夜」


 瞬間、心臓が掴まれたかのような心地になり、次いで「春川さん」と理沙の名前が呼ばれたことで、背筋がぞわりと冷たくなった。ゆっくりと席を立つ。手には汗が滲んでいた。


──親友同士じゃん。


──いいなあ、お互いに十本確定じゃん。


 教壇に立つまでに、至る所からそんな声が聴こえた。理沙と向かい合った時、どっ、どっ、と鼓動が早くなる。


「では、二人ともお願いします」


 透花先生のその声に、理沙は躊躇うことなく十本を引き抜いた。「これが、私の気持ち。まあ当然だけどね」と理沙が満面の笑みを向けてくる。それがより私の鼓動を早くした。私……は。頭へと持ち上げた指先が微かに震えてるのを感じた。


「……小夜?」


 理沙は不安気な表情で私をみてる。私は、と一瞬だけ透花先生をみた。冷たくも、澄んだ眼差しがこう言っている気がした。


──言いなさい。


 深く息を吸い込んだ。


──本心を、言いなさい。


 震える指先で髪の束を摑んだ。


──いつまで自分に嘘をつくの。


 力強く引き抜くと、ぶちぶちっと毛根ごと引き抜かれる音がした。

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