表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒幕の花嫁〜私は悪女なのでしょう?この婚約、利用させていただきますね〜  作者: 竹藤煤


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/20

009.王太子様がお待ちです

 最悪な女との再会から約三年。何か嫌がらせを受けるようなこともなく、比較的穏やかな日々を過ごしている。


 試験にも受かり、ゲラノス学園へ通うことが決まっていたロディナは、入学のための荷造りをしていた。

 

(いい加減、正直に話してほしいものです)


 私室で紙の束を抱え、ロディナは溜め息を吐いた。


 サナとは、八歳から約七年の付き合いになる。


 シルフの誕生日パーティー以降、明らかに彼女は焦って誰かを捜していた。


(同じ境遇の方を見つけたら、喜ぶものかと思っていたのに。……中身はアレですが)


 同じ転生者から情報を得るため、シルフと交流を深めることもせず、サナはエイレアとして動いている。


 エイレアの初恋はヴァルク。彼と婚約が決まったシルフと仲良くすることなどあり得ない。といった具合に。


 そうやって、サナはロディナ以外に転生者であるとバレないよう行動していた。


 理由を尋ねると「こちらのほうが調べやすいのです。全ては、最推しロディナ様のために」とのこと。


 相変わらず、ロディナに嘘をつくのは苦手らしい。


(私も似たようなものか。ザミ兄さんのことも、成り代わったシルフのことも話していない。……なのに)


 繰り返しを終わらせるため、元の世界に戻るため。利害の一致だと自分に言い聞かせて、虚しくなった。


 ロディナには、家族だと思っている人間はザミしかいない。友人は繰り返すたびに自分のことを忘れてしまう。


(仲良くなるのが、怖い。次には、いなくなるかもしれないから…)


 今までで一番順調な人生だからこそ、不安も大きくなっていた。


「ロディナねえさまぁー!」


 ノックもなく入室してきたサナに、紙の束が床に散らばる。


 物語通り、十二歳からゲラノス学園に通っているサナは、半年に一度しかニフテリーザに帰ってこない。今日がその日だったらしい。


「わわっ、ごめんなさい!」

「やはり心臓に悪いです」

「これが原作通りなのでお許しください。これがようやく完成しました!」

「本?」


 そっとドアを閉めた彼女に、一冊の本を手渡された。


「登場人物リストと、これからの物語の展開を書いておきました。転生者が何人もいるから、物語の項目は無駄かもしれませんけど」


 頁をめくると、文字がビッシリと並んでいる。要注意人物には危険度まで記されてる徹底ぶり。


「ありがとうございます。大変だったでしょう?」

「全く! 学園生活からが本編ですからね。中等部の校舎は隣とはいえ、すぐには駆けつけられませんし」


 ロディナにわかりやすいよう、苦心した形跡がいくつもある。


「魔法を無効化する本なんですよ! 魔法によってループしてるなら、私が元の世界に戻っても、その本は残るかも?」


 自分がいなくなることを想定し、ロディナのために書いてくれたらしい。魔法を無効化する品となれば、手に入れるのに苦労したはずだ。


(……貰ってばかりでは、ダメですね。また、恩返しができなくなる)


 本を抱えたまま黙り込むロディナの顔を、サナは覗き込む。


「ロディナ様?」

「ミスミ……いいえ、サナさん。私のために、ここまでしてくれて本当にありがとう」

「ひゃいっ! ななな、名前を、推しがっ。死ぬの? 私、死ぬの?」


 すっかり見慣れた奇行に、ロディナは柔らかく微笑んだ。


「是非ともお礼をしたいです」

「お互い様じゃないですか! この世界の常識とか、魔法の使い方とか、いっぱい教えてもらいましたもん! ロディナ様のおかげで、エイレア様として――」

「誰を捜しているのですか」

「えっ……」

「転生者がもう一人いるとわかった日から……ほら、この本が証拠です。物語以外の情報まで書かれています。それだけ、会話や観察をしていたということでしょう?」


 転生者の疑いありと書かれた人物を指差しながら、ロディナは尋ねた。


「……その」

「言いにくいのであれば構いません。ただ、何かお礼はさせてください」

「……家に帰る途中で意識を失ったって、説明しましたよね?」

「そうですね」

「実は、兄を捜してて、この世界にやって来たんです」

「お兄様を?」


 サナがこちらにやって来る前、ある場所へ行った兄が、意識不明となり、目覚めなくなってしまったらしい。


「真相を探ろうとその場所に行ったら、エイレア様になってしまって。転生者が他にもいるなら、兄もいるんじゃないかなって」

「転生者だとバレないように動いているのは、どうしてですか?」

「兄は人の悪事を暴く仕事をしていて、同じ場所で意識を失った人なら、敵か味方かわからないでしょう? 妹だからって、危ない目にも遭いましたから」


 サナに転生者なのか尋ねられた日を思い出す。彼女も、誰も信じていなかった。そういうことなのだろう。


「では、私もサナさんのお兄様を探すのを手伝います。構いませんか?」

「見つかってる転生者は女性ばかりですし、ループの謎も……」

「もちろんそちらも調べます。どちらも、二人のほうが効率がいいでしょう?」

「それは、有り難いですけど」

「この本があれば、私は一人になっても平気です。でも、サナさんやお兄様は、どうなってしまうかわかりません。まぁ、二回目の人もいるようですが」

「二回、目?」

「あとで話しますね。とにかく…この本と、私の味方でいてくれたことの、お返しをさせてください。嬉しかったんです、味方ができたこと」


 サナの顔がくしゃりと歪む。


「うぅ……好き。推してて、よかったぁ。信じて、よかったぁ。わだしも、うれしいっ」

「サナさん? お顔がすごいことに」


 大声で泣き始めた彼女に、ロディナは慌ててハンカチを探した。


 背中をさすっても、頭を撫でても泣き止まない。ずっと、無理をして明るく振る舞っていたのだろう。




 入学の手続きをするために、ロディナはゲラノスへやって来ていた。学生寮に送る荷物は、転移魔法で運んでくれるらしく、屋敷に置いたままだ。


「合格証明書をあちらの方に渡せば、手続きができるはずです」

「忙しいなかありがとう、エイレア」

「いえいえ! 魔法史の課題の現実逃……息抜きになりました! では、戻りますね」

「本当にありがとう! 無理をしてはいけませんよ」


(間に合うのかしら…)


 大きく手を振るサナを心配しながら、受付の女性に書類を手渡す。


「合格おめでとうございます。ロディナ・ニフテリーザ様ですね。こちらの書類に記入をお願いいたします」

「はい、わかりました」

「記入が終わりましたら、そちらの通路の突き当たりにございます、貴賓室へ」

「貴賓室ですか?」

「はい。王太子殿下がお待ちです」

「……私を、ですか?」

「ロディナ様をと仰せつかっております」


(王太子様が、私に何の用? ……ガカク・アレクトン。サナさんの本に、『絶対に近づかないで』と、書いてあった気が)


 不安に襲われながら、扉を叩く。


「ロディナ・ニフテリーザです」


 低い声が返ってきて入室すると、白髪の青年が座り心地の良さそうな椅子から立ち上がった。


「初めまして、ニフテリーザ嬢。貴方様の婚約者と相成った……ガカク・アレクトンと申します」


 入口で、立ち尽くす。脳が特定の単語の理解を拒んでいた。


(コンヤクシャ? ………サナさん、ごめんなさい。婚約者になっていた場合、どうすればいいんですか? 貴賓室を破壊すれば、なかったことになりますか?)


 物騒なことを考えるロディナを、ガカクは穏やかな表情で見つめている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ