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黒幕の花嫁〜私は悪女なのでしょう?この婚約、利用させていただきますね〜  作者: 竹藤煤


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7/20

007.私は悪女らしいです

 誘拐事件から一週間。ロディナとサナは、庭で遊ぶにも騎士を呼ばなければいけないような窮屈な生活を強いられていた。


 家庭教師の隣にも騎士、食事の時間にも騎士。今回も義父母の過保護さは健在だった。


 二人でゆっくりと話せる時間は、夕食後の数時間だけしかない。作戦会議をしているロディナの私室の外には、もちろん騎士が立っている。


「なるほど、勇者と聖女が魔王を討つ物語ですか。私の、物語における役回りは?」

「……えっと」

「悪役ですか」

「…はい。ちなみに、私…エイレア様も悪役で、悪役令嬢姉妹などと言われています」

「エイレアも?」

「物語に従えば、エイレア様は魔王側の人間となって亡くなります」


 ロディナは瞠目した。焼き菓子を摘もうとしていた手がピタリと止まる。


(魔王に下る。救ってやったとか、どうせ破滅するとは、そういう意味だったのですね)


 こちらを嗤いながら見下ろしていたあの女を思い出して、何とも言えない気分になった。


「原因は、私がエイレアと同じ学校へ通うことと関係がありますか?」


 わかりやすく見開かれる目。


 エイレアが通っていたのは、ロディナが図書館を目当てに通いたいと思っていたゲラノス学園だ。どうやら、同じ学校にロディナがいると都合が悪いらしい。

 

「そのっ、ロディナ様は悪くなくて。存在が悪女とか言う馬鹿もいますけど!」


(生きる厄災みたいに言われているのですか? 私)


 テーブルを叩いて立ち上がるサナを、眉を寄せて見上げる。


「二人とも頑張ってただけなんです。エイレア様はもっと頑張らなきゃって思ってたところ狙われて! 悪いのは全部魔王です!」


 大きな音に騎士から声がかかり、ロディナは適当に返事をした。


 座って顔を伏せ、悔しそうにテーブル叩く彼女をなんとか宥める。


「落ち着いてください。外に聞こえますよ。私がこうなっている時点で、物語通りには進んでいないのですから。それでもこれからのために、詳細を教えていただきたいのです」

「…すみません。きちんと話します。気を悪くなさらないでくださいね」


 物語でのエイレアは、思い詰めて魔王の甘言に惑わされてしまったらしい。


 始まりは、エイレアの初恋の人ヴァルクがロディナを選んだこと。

 

 貴族の結婚は、家柄だけでなく魔法に関することも重視される。


 個々人に与えられた固有魔法の珍しさ、魔力量、魔法の精度。能力によっては、次男や長女が家を継ぐ場合もある。


 特に魔力量は遺伝することがわかっており、貴族社会においては男女ともに多いほうが良いとされる。


 エイレアの場合、固有魔法と魔力量は申し分ない。婚約相手を選べる立場にある。


 一方のロディナは、固有魔法がわからず、魔力量も平均よりは多い程度。魔法の威力と精度は図抜けていた。


 騎士を志すヴァルクにとっては、戦いで輝く才能を持つロディナが魅力的に映ったのだろう。エイレアはそうやって自分を納得させた。

 

 婚約の釣書は選り取り見取りなエイレアだったが、学校という場においても、ロディナのほうが優秀だった。


 男に勝る腕力と頑丈さ。魔力量を補って余りある異常な魔力の回復スピード。それでいて驕らず、ニフテリーザの領民を守るためにひたむきに上を目指す。


 ロディナを見る周りの目が、入学して日が経つにつれ、変わっていった。ヴァルクという婚約者がいながら、大勢を惹きつける存在になっていく。


 初恋が破れたことには耐えられたはずなのに、大勢に囲まれる義姉を見るのは苦しい。エイレアは、義姉を下に見ていた自分に気づく。


 そんな自分が嫌になり、魔法の練習に打ち込んでいた彼女に近づいてきたのが、魔王だった。


 ニフテリーザ家は、ここから破滅に突き進む。ロディナも最終的には婚約破棄となって、一人で旅に出るらしい。


「ロディナ様は、恩のある家のために頑張っていただけなのに、悪女と呼ばれているのです」


 概要を聞き終え、ロディナは首を捻る。


「大事なところを省いていませんか? 私はよく『攻略の邪魔するな』とも言われるのですが。攻略が何に対するものなのかわからず」


 サナは口を真一文字に結んで俯く。どうやら言いたくないらしい。


「確証を得たら、必ず話しますので」

「構いませんよ。私にも話せないことはありますから。理解できない話なのだと、納得しておきます」

「ありがとうございます。他には何かあります?」


「フール村はわかりますか」

「もちろんです! 魔物に襲われていたロディナ様を救ってくれた()()()()がいる村ですよね!」

「……。ザミという名の青年は、いませんでしたか? 私は彼にもお世話になったんです」

「ザミさん? 司祭様や村にやってきた司教様は記憶にありますが……お役に立てず、すみません」

「いえ、ありがとうございます。お礼を言いたいのに、長らく会えていなくて。村の用心棒のような存在で」

「用心棒? 用心棒は()()()()()では? 村外れの小屋に住んでいる」

「二人いたんですよ、用心棒が」

「おぉ! 原作外の情報を聞くとテンションが上がりますね! ロディナ様がお世話になった方なら、お会いして私もお礼を言いたいです」


 やっぱりか、とロディナは落胆した。


 ロディナを救ったのはネロ。小屋に住むのは村にいた覚えもない大男ガロン。ザミの存在は、なかったことになっている。


 ロディナも初めて村を訪れたときに驚いた。いけ好かないネロが、馴れ馴れしく話しかけてきたことに。


(繰り返しが始まったあの日に、何かあった? 兄さんは偽司教が関わってるって)


「それとミスミさん。司教様の外見はわかりますか? 八歳から繰り返しているので、顔を忘れてしまって」

「茶色系の髪だったはず? 四十代くらいで、優しい顔つきだったような」


 ロディナの記憶では白髪の青年だ。物語では司教まで別人になっている。


「ロディナ様?」

「……探し出して、問い詰めてやりたいんですよ。記憶が戻らないって」

「確かにあの司教様『呪われている』とか言っておいて、ロディナ様の記憶喪失は物語でも原因不明のままですからね。伏線回収しないのかよっ! と本を投げた覚えがあります」

「ミスミさんでもわかりませんか……。まぁ、今はそれ以上の問題が山積しているので」

「どうしたものでしょうね。まさかループしているとは」

「私はゲラノス学園に通って情報収集をする予定ですが、ミスミさんは?」


 組んだ両手の上に顎を乗せると、サナは不敵な笑みを浮かべた。


「悪役路線で行ってみようと思ってます。私の世界の知識は使わずに」

「物語通りに動くと?」

「私の考えが当たっているのなら、物語通りには動かないはずです! だからその――…」

「十二歳のときの集まりに参加すればいいのですね」


 参加するのを何度もエイレアに邪魔された、ご令嬢の誕生日パーティー。毒を盛られそうになったり、これまた良い思い出がないため、自主的に参加しなくなった。邪魔をされたということは、物語のロディナは参加しているのだろう。


「さすがです! でも、その、ヴァルク様との婚約は決まってしまうかも」

「面倒な相手でなければ、婚約者が誰になろうと構いませんよ。大抵、婚約期間中に魔王が倒されて八歳に戻るので……ミスミさん?」


 サナがなぜか、泣きそうな顔をしている。


「うぅ、お辛かったでしょう? ヴァルク様なら大丈夫ですよ」

「…悪い方では、ないのでしょうね。たぶん」


 ヴァルクとの記憶の断片をかき集めたところで、ノックの音がした。


「エイレア様! そろそろお時間ですよ」


 エイレアの侍女、マヌエラの声だ。


「まだお義姉さまとお話したいです!」

「明日のご予定、お忘れになったわけではないでしょう?」

「わかりました…」


 時間切れらしい。サナは小さく手を振って部屋をあとにした。


(私は、いつまでお留守番なのでしょうね)


 ロディナを攫った魔族は見つかっていない。彼が捕まるまで、ロディナはこの上なく暇だ。

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