3.ポイントヒル到着/半身殺し
ポイントヒルの町まで一人旅だった。目指す町にはペドロと同じく昔の仲間のマリア・サイフルがいる。住民が全滅しゴーストタウンになった私の町で何が起きたか、彼女にだけは知らせておこうと思った。マリアはジョーや恥知らずのティムらと違い、裏切りに加担していない。
ポイントヒルに着いて、馬を預けた。
先に何か飲もう。喉が渇いている。マリアに会うのはその後でいい。
酒場の戸を通り抜ける。カウンターには軍人崩れの老いた男が一人しょぼくれて座っている。他の客は奥まったところに集まってカード遊びをしていた。明るいが狭い店だ。
軍人崩れの老人から少し離れて腰を掛けると、酒場の主人がカウンター越しの向かい側に立った。
「見ない顔だな」
「この町に友達がいるんだ。会いに来た」
「そいつが誰だか知らんが用事はさっさと済ませた方がいいぜ。最近のポイントヒルはきな臭え」
「忠告をどうも」
町の雰囲気がどうもおかしいと気づいたのは、酒場に入る前、中心の通りを歩いているときだった。あまり人通りがなく、見た目よりもずっと人口が少ない町のようだ。活気に欠けていた。
私が酒場の主人と話している間に老人が真横に寄って来ていた。
「御婦人、わしが奢ろう。ウォード大佐と呼んでくれたまえ。友人とは誰かな」
勝手に酒を目の前のコップに注いだ。
「マリア・サイフル」
「マリアか! あの脱走奴隷の女には世話になっているんだ」
皮肉なことだ。十年前の内戦で負けた側の軍服を着続けている人間が、マリアの経営する娼館に通っているとは。
「居場所を知っているか」
「もちろんだとも。後で案内してやろう。だが近くまでだぞ、あの女には借金があるからな」
「助かるよ」
「ところで――」
ウォード大佐が続けて何か言おうとしたとき、奥の方から男が二人立ち上がり、歩み寄ってきた。男たちの片方は天井に頭が着きそうなほどの大男で、もう片方は上唇に気取ったひげを生やした小柄な男だった。
大男に肩をつかまれて、老人は縮こまり声が小さくなる。尋ねたかったことが、と消え入るように呟き、しまいには何も言わない。
「あんたら誰だ?」
私が聞くと、小柄な方が口を開いた。
「ボビー兄弟の名は聞いたことあるだろう」
「初耳だね」
本当は知っていた。賞金首のビッグ・ボビーとリトル・ボビー。兄弟と名乗っているが、単に名前が同じというだけで意気投合したならず者の二人組だ。実際に顔を見るのは初めてだった。
「覚えておくといい」
「で、そのボビー兄弟が何の用」
「この爺さんとはもう話すな。それだけだ」
リトル・ボビーのにやけ顔がぐっと近づいてきたので、コップに入った酒をそいつの顔に向けて勢いよくぶっ掛けた。
「何しやがる!」
リトル・ボビーは怒り、私を押し倒す。だが、その間に私が拳銃を抜いたことに彼は気づかなかった。
「腹に穴ブチ開けられたいか」
硬い銃口を押し当てる。
こぶしを振り上げたままリトル・ボビーの動きは固まった。もともと静かだった酒場がさらに静まり返る。
「立て。ゆっくり私の上からどきやがれ」
話の邪魔をされて虫の居所が悪い。
私の言った通りにリトル・ボビーは立ち上がる。
「知らないぞ、ボスに伝わったらお前がどうなるか」
「聞かせてもらおうか。どうしてそこの爺さんと話をしちゃいけないんだ?」
体を起こす。銃口は向けたままだ。奴は分かりやすく顔を引きつらせている。
「……」
言うかどうか迷っているな、と思った瞬間、それまでじっとしていた大きな男――ビッグ・ボビーが大声を上げ、ウォード大佐の老体を床の上に引き倒した。大佐が情けなく転がるのを尻目に、さらにリトル・ボビーをなかば突き飛ばすようにして突進して来る。来た。
狙いをつけるまでもなく、ビッグ・ボビーの大きな体に穴が開いた。人を殺す音が酒場の空気を震わせ、駆け巡る。
短い残響と共に、ビッグ・ボビーの肉体はうつ伏せに倒れた。この馬鹿が倒れるとき、私にぶつかったので押し退けたが、その間にリトル・ボビーが体勢を立て直しかけていた。
リトル・ボビーも銃を握っていた。
「武器を捨てろ!」
私の方が早かった。銃口はリトル・ボビーの上半身のど真ん中を向いている。引き金を引けば確実に奴も死ぬ。
だが、彼は拳銃を手放そうとしなかった。彼の視線は私を越えて、酒場の入り口に向かっていた。
「武器を捨てるのはお前だよ」
知らない声がして、私の後ろで、撃鉄を起こす音がした。




