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18.襲撃、三つの眼

 馬が一頭、走っている。姿は見えないが私の耳にひづめの音が聞こえた。さびれた教会に客が来た。教会の建物が邪魔で見えない。私たちがいるのは裏手の墓地だ。エミリオに、誰が来たのか探るよう指示する。


「見つかってもお前なら怪しまれないだろう。変に抵抗するなよ」


 彼は言われた通り教会の建物をぐるりと回って様子を見に行った。


 角に消えるエミリオの姿を見送り、すぐに私は建物の逆側に回った。拳銃をいつでも撃てるようにし、物陰に隠れて来訪者をうかがい見る。


 二人が入口で押し問答をしている。この教会を預かる牧師と、あれは――オリヴィアだ。遠くからでもわかる。馬の上で、オリヴィアは牧師にライフルを向けた。馬には他に一丁のショットガンも積まれている。さらにその奥でちらちら動く人影は、エミリオのものだ。オリヴィアは仲間を連れていない。


 オリヴィアが馬から降り、地面に足をつけた。エミリオは目立っている。彼の存在に気づいているはずだ。彼女は向こう側に意識を割くだろう。もし気づいていないとしても、オリヴィアは牧師に気を取られている。チャンスだ。


 先手を打つなら今のうちだ、と顔に掛かる黒いヴェールごしに拳銃で狙いをつけていると、突然、オリヴィアが牧師の首根っこを引っ掴み、彼の体をむりやり私の方に向けた。盾にするつもりか。

 気づかれていた。エミリオだけでなく、私が見ていることに彼女は気づいていた。オリヴィアは牧師を盾にしたのと同時に、持っていたライフルの引き金を引いた。


 とっさに身を伏せ、銃弾が頭上をかすめていった瞬間、オリヴィアが私に向けて声を発した。


「シェイナ! あんたみたいに小さな的に当てられないのが残念だ!」


 なぜばれた? 顔を隠し、変装もしている。何よりオリヴィアから私の姿はほとんど見えていなかったはずだ。

 エミリオはオリヴィアが発砲したときに身を隠した。賢い判断だ。とにかく、私も大きめの石が積まれた背の低い仕切り塀に沿ってさっさと移動する。


 墓地に引き返した。墓石の裏で息を整える。

 エミリオの姿が見えたので、手振りできちんと隠れているよう伝える。彼の近くには掘り起こしたままになっている棺桶があった。エミリオに渡した札束以外に、価値ある中身には手を付けていない。オリヴィアがやって来たのは私がここにいると聞きつけたのか、それともマッケンジー家の財産を狙ってのことか?


 足音。オリヴィアが牧師を盾にしつつ近づいてきたのだ。おそらくは建物の陰に隠れている。


「やっぱりあんた生きていたね。シェイナ」

「何のためにこんな場所に来た? お前にいちばん似合わない場所だろう」


 昔からオリヴィアはまったく信仰心のかけらも感じさせない女だった。粗野で暴言ばかり吐いていた。私よりもずっと、だ。そのおかげで彼女はマリアたちとそりが合わなかった。とはいえ仕事になると普段の様子からは考えられないほど進んでよく連携をとっていたが――


「私が似合わないだって? こんなところに大金を隠したやつが悪いね。大量のかねがここにあるのはもう分かってんだ! 不似合いな金を不似合いな私が引き取ってやるんだ、何が悪い。シェイナ。平和にいこうじゃないか。おとなしく立ち去ってくれればあんたの事は見逃してやる。連れのガキもな。銃を捨てるなら人質を渡したっていいんだ」

「条件を付けさせろ」

「早く言え! その前にお前がここにいるわけも聞かせてもらおうか」

「死んだやつが教えてくれたんだ。ここの保安官さ。金のありかは他の誰も知らないだろう」


 オリヴィアは「あの野郎、やっぱり知っていたんじゃねえか」と毒づいた。すぐに落ち着いた調子で続ける。


「よし。条件を聞かせな」

「よく聞けオリヴィア。持っている銃をお前も捨てるんだ。馬に別の銃がのせてあるのを見たぞ。同時に捨てたら馬まで代わりの銃を取りにいけ。そのあいだに私たちは逃げさせてもらう。どうだ」

「いいだろう。弾はぜんぶ抜いておけよ。ガンベルトも捨てるんだ」


 逃げさせてもらうと宣言したが、端から逃げる気はない。一人で私の前にのこのこやって来たオリヴィアを見逃す気もなかった。


 交渉している間、エミリオにオリヴィアの馬を盗んでくるように身振りで指示した。厩舎で働く彼なら馬の扱いはお手の物だろう。向こうからは墓石に隠れて見えないはずだ。さっきと同じく逆方向から建物を回り込めばいい。馬に積んであったショットガンも手に入れば一石二鳥となる。


 私とオリヴィアは互いに銃から弾を抜くのを見せ合った。時間稼ぎだ。気づかれない程度にゆっくりと、銃弾を取り出す。オリヴィアは不敵な笑みを浮かべていた。

 人質の牧師は後ろ手に縛られ、顔に袋を被せられていた。オリヴィアは手際が良い。解放されたあと彼が反撃に加わってくれるかもしれないと考えていたが、この状態では期待できない。手間が掛かりすぎる。エミリオと私でなんとかしよう。


 エミリオはすでに私の視界から消えている。彼がどれだけ静かに馬を連れてこられるかが勝負の鍵だった。


「なあオリヴィア、金を渡すからジョーなんか見捨てて――」


 更なる時間稼ぎのために話しかける。オリヴィアが私に味方するわけがないのは承知の上だ。

 そして突然、私が言い終わる前に、人質の牧師がオリヴィアを軽く突き飛ばして、走り出した。私の方へ向かってくる。オリヴィアが悪態をついた。

 早すぎる。想定外だ。切り替えなくては。


 急いで彼を受け止める準備をする。袋を被せられていて、どれだけ前が見えているか……ライフル本体をなぜか放り出すオリヴィアの姿が視界の隅に見える。だが、それどころではない。事態は私にとって悪い方へと傾きはじめた。


 人質の牧師が走りながら縄を抜けた。するりと手を縛っていた縄が落ち、彼の両腕が自由になる。そして、彼の体が大きく盛り上がり、顔に被せられた袋も外れた。私は彼の顔を見て、オリヴィアは一人だったはずだ、と一瞬のうちに思った。

 直後、彼の衣服はびりびりと引き裂かれ、馬へと姿を変えた。さっきオリヴィアが連れていた馬だ。私がエミリオに連れてこさせようとした馬。その馬の頭部は左目が潰れている。片目のグレゴリーだった。

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