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14.カーラ

 彼女はミシェルのことを姉さんと言った。


 ああ、そうか。これまで私がミシェルだと思っていた目の前の女は、ミシェルではなくその妹だった。ミシェルは生き返ってなどいない。彼女に妹がいたことを私は知らなかった。ミシェルは盗賊団に加わる前のことをほとんど話さなかった。


 あなた誰、ときた。どうも彼女は黄金の刀を握って私の周囲で暴れまわっていたのを全く覚えていないらしい。とにかく私は納屋から彼女を立ち去らせないため、名乗ったあとも話を続けた。


「昔、ミシェルと一緒だった。盗賊団の仲間でね。あいつに妹がいたとは知らなかった。名前は?」

「カーラ」

「そこのウォード大佐を殺したのか」


 息絶えた老人を指す。「お友達だった?」と聞かれたので、首を横に振った。


「爺さんは私をつけてきて、この上等な金塊を寄越せって無理やり襲ってきたんだよ。苦労して探し出したものを渡すわけがないのに」


 手に持っていた刀を地面に突き刺して、ミシェルの妹――カーラは歯を見せて笑う。空いた手を差し出してくるので、思わず私は握って言った。


「そっくりだ」

「……姉は今どうしてるの? ミシェル姉さんが家を出て行ってから一度も会ってない。私が十歳の時にね。あんた知らない?」


 カーラは、姉の死を知らないのか。それにしてもよく似ている。生き写しだ。

 私は厩舎の番に「ここは大丈夫。保安官には私から伝える」と言って納屋から出てもらった。そして告げる。


「ミシェルは死んだよ」

「どんな風に」

「裏切られて、だ」


 口ごもる私にカーラが言う。


「何があったか教えて」


 躊躇ちゅうちょする私を見て、カーラは続ける。


「一応言っておくけど、私、嘘つかれるの嫌いだから。もちろん私だって清らかな人間じゃないし、一度くらいなら許すかもしれないけどね。でも本当のことを言って」

「あれは――もう八年前だ」


 話してしまう以外に選択肢はなかった。


「私たちがいた盗賊団は八年前に解散した。最後の仕事は列車強盗だったが、そのとき私たちは他のならず者に襲われ、全滅しかけた。何とか生き残った仲間と逃げ出して、あんたの姉……ミシェルも大怪我をしていたが、まだ生きていた。だけど馬にも乗せてやれなかった。戦利品を運ばせていたからだ」


 過去を思い返すと心が沈む。深く息を吸う。


「仲間を見捨てないことが盗賊団の信条だったのに、最後はもろかった。誰もミシェルには手を差し伸べようとしない。誰もが欲に目が眩んでいた。ジョーもクレイトンも……私の言うことなんか聞きはしなかった。せめて馬に乗せていてやれたなら、ミシェルは死なずに済んだだろうさ。結局、追手が迫るなか、奴らは欲を取った。助けられるはずの仲間を見捨てていくと決めた。それでミシェルは死んだ」


 カーラはため息をついた。


「姉さんは私の憧れだった。死んでいたなんて……知らなかった。しかも裏切られて」

「ミシェルを裏切った連中のほとんどは今も生きているはずだ。私はそいつらを殺して回ろうかと考えているところなんだけどね。どう、一緒に――」


 一緒に姉の仇を取らないか、と口をついて出て、直後私はそんな事を望んでいたのかと思った。目の前の、ミシェルそっくりの女と共に復讐を遂げたいと。


 カーラが言う。


「さっきの話。ジョーとか、クレイトン……クレイトンって言った? もしかして……ダニエル・クレイトン?」

「そうだ」


 カーラは私の返事を聞き、黙った。片方のつま先を揺らすように動かしている。ふと、ミシェルがその仕草をしていたのを思い出した。立ちながら何か考え事をしている時の仕草だ。


 その後、彼女の口から飛び出してきたのはグレゴリーやオリヴィアといった、昔のクレイトン盗賊団の生き残りたちの名前だった。どうして知っているのかと問うと、彼女はここ数年ダニエル・クレイトンのために汚い仕事をこなしていたのだと答えた。

 金と権力を追い求める道程で、彼はジョーの一味に黄金の刀を探させていたが、なかなか目当ての品は発見されずにしびれを切らしていた。そして彼女をジョーのもとへと派遣したという。


 姉の敵に雇われていたのだと知り、カーラは声に憤りをにじませた。


「誰も姉さんの事は教えてくれなかったよ。あいつらそれを分かってて……悪いけど私一人で行動するから。これまでもそうだったし。あんたの事まだ全部信じたってわけじゃないけど、ありがとう」

「もう行くのか」


 カーラが立ち去ろうとする。地面に突き刺した刀に手を伸ばすのを見て、すかさず私はそれを止めようと刀の持ち手に触れた。カーラに黄金の刀を持たせておくのはまずいのではないかと気掛かりだった。彼女が正気を失っていた原因がその刀にあるのではないか。


「何だ……っ」


 カーラより先に柄を握ると、刀全体から火花のような衝撃が伝わってきた。そのせいで私は数歩ほど後ろにある柱に背中をぶつけてしまった。手がしびれる。柱にもたれかかって息を整えるあいだに、カーラは刀を引き抜いた。


「その物騒な代物をどこで見つけたか知らないが……呪われてるぞ」

「迷信信じるタイプだ」


 刀が金でできているからか重たそうに握る彼女は、迷いのない足取りで一方の出口へと向かった。

 去り際に、彼女は言う。


「三角星が争いの星だっていうの、きっと本当だね。このお宝が三角星と関係があるのも知っている。で、私がこいつの主になったみたい」


 カーラが本気でそう言っているのか、私には分からない。これからどうするつもりだ、と尋ねようと思ったが上手く声に出なかった。カーラは最後に足を止めて言った。


「もう四人死んだみたいだね。あんたに教えなきゃって気がするから教えてあげる。ペドロ・デラクルス、ティム・ロバートソン、ディック・ホプキンス、マリア・サイフル。死んだところ見てないけど。他の連中は生きてるよ。じゃあね」


 納屋を出て行った。後にはウォード大佐の死体が残されている。

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