終章
21年間の人生の中で、私は両親が仲睦まじく笑い合う姿を見たことがなかった。夫婦というものはそういうものだと思っていた。それ以外の形があるなんて信じられなかった。腕がゴムのように伸びたり、猫型ロボットが願いを叶えてくれたりするような遠い創作の世界の話だと思っていた。
私はただ、愛が欲しかった。大好きな人たちの愛が見たかった。父にサッカーを教えて欲しかった。母に「頑張れ」と一言応援されたかった。兄弟の夢をもっと知りたかった。食卓を笑顔で囲みたかった。それだけの、ほんの少しの、幸せが欲しかった。届かなかった。
身体的な幸福が精神的な愛につながることはなかった。耐えられない夜に人肌を重ねても、ただ虚しいだけだった。遠慮がちな癒しがそっと心を擦り、空白を生むだけ。肌を重ねる毎に恥が増していった。そんな自分が心の底から嫌いになった。
彼女はそんな恥を肯定してくれた。私の汚点をさりげなく隠してくれた。これが愛だと思った。勘違いな愛だったとしても、叶わない恋だったとしても、彼女の中に私がいなくても、想いを届け続けようと思った。彼女の望む私でいようと思った。
恐らく、この先私は自分の全てを好きにはなれないだろう。誰といても自分の汚い部分がシミのように浮かび、相手の瞳を鏡にして落胆する。
私に「出会えてよかった」と言葉を咲かす人はいますか?
誰かに愛されたいなら、私が私を愛し、私が私を許さなければならない。
苦痛だけが生を認識する心で、棘を抜くことなんてできない。
私が愛してやまない君に、棘を抜いて欲しい。
特別な夜に「出会えてよかった」と、囁いて欲しい。
君が私を唯一だと思ったとき、どうか薔薇を下さい。
私の厄介な死生観、恋愛観、家庭像の歪みについて拙い文章ながらも筆を執らせていただきました。
読者諸賢におかれましては、是非ともご高評を賜るとともに、ご叱正いただければ幸いです。