恐怖に震える姿
「恐怖に震える姿は、思ったよりも愛らしいものだな」
「な、何を……?」
彼の言葉に私は震えた。彼は怯える姿を見ることを楽しんでいるようだった。
「なに、今までは恐怖に屈服するシーンに怒りを覚えていたが……これがなかなかどうして悪くない。これは私のものだという感覚が私を満たす」
彼の目は欲望に染まり、私はその視線に怒りを覚えながらも、恐怖に囚われて声が出せなかった。
彼の言葉に返すこともできず、私はただ縮こまる。
「…………」
そんな、縮こまった私とは別に青い目のした綺麗な女性が軽蔑した目で彼を、そして私にもその目を向けた。
「ゲスめ。腐っているな……お前も戦わないのか!」
彼女の言葉は私の胸を刺したが、恐怖に縛られて動けなかった。
「ふふふ、そう責めないであげてくれ。私のかわいい玩具なんだ」
「……玩具は最後、壊されて捨てられるだけだ」
「いやいや、そう馬鹿にしたものではない。私も今までは、そんな怯える姿に意味はないと思っていたが実際目にしてみると……中々どうして可愛いものだ。情も湧いてくるのではないかな?」
「そんなのは恐怖に縛られている思い通りになる人間を求めているだけだ! 常に恐怖を与えて支配する! 敵とは戦わなければいけない!」
その瞬間、彼女は鋭い目を見開き、死を覚悟した表情で彼に飛びかかった。次の瞬間、グシャッ!という音が響き渡る。
「ふふふ、可愛くない玩具は必要ないな」
彼の冷酷な笑みが場を支配する中、私は力の差を再確認した。あんな化け物に勝てるわけがない……それでも……彼女の抗う姿は美しかった
──敵とは戦わなければいけない──敵とは戦わなければいけない──
私は今の心を誰にもばれないよう心の奥に沈めた。誰かに気付かれないように……いつでも引き出せるように。