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オタ友に「世界最後の一人でもアンタ/オマエはない!」とか言ってたら世界最後の二人になっちゃったラブコメ。 ~特殊ツンデレ同士があほあほカップルになるまで~  作者: 阿野二万休
第3章 We are dancing alone

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05 女の子

「え……マジ……え、マジで……なんで……?」


 景虎は鏡に映る自分を見つめながら、ひたすらに首をひねった。


 シンプルな白いシャツは、あつらえたかのように景虎にぴったりだった。ひょろりと細長くなった体を、わずかな皺と空白を残しつつ包んでいる。包装をはいだばかり、カビからもホコリからも守られていた、輝くばかりの白いシャツ。試しに裾をズボンから出してみても……それなりに見られる。


「……ぁ……い、いや……」


 エリスは自分の口からこぼれ落ちてしまった言葉を後悔しつつも……それを、取り消せないでいた。衝撃はまだ頭と体の中でこだまして、彼女の意識を揺さぶっている。




 目の前にいるのが景虎だとは、信じられなかった。




 ほっそりとした体を高級そうなシャツに包み、すらりと長い、細い足は、夜明けのような色をしたスラックスに包まれて、さらに長く見える。足下の革靴からは少しの遊び心が感じられて、なんだか頬が緩む。白シャツのせいか、顔の肌まで少し、白く見える。というかそもそも、こいつは、そういう病気かよって突っ込みたくなるぐらい身繕いが好きだから、ちゃんとした格好をすれば、ちゃんとしているように見える……いや、ちゃんとしているどころか……軽やかで、爽やかで、涼やかで、男の子で……男で……。




 ……い、いや、いやいやいやいやいや! こいつは景虎! くそキモ陰キャくん!




「サ……サイズ、かな……やっぱり、ほ、ほら、ファッションって……半分は、サイズだから、あ、あんたいつも、首だるんだるんのTシャツと、ゆるゆるのジーパンだったでしょ……ギャップが、ほら、すごいから……」


 うろたえつつ、そんな言葉を連ねてみるけれど……我ながらうろたえているのが丸わかりだった。


 そうしてエリスはようやく、気付いた。


 横に引き延ばされていたからあまり目につかなかったが、元々景虎の手足は長かったし……清潔ではあったし……それに、それに……。




 こんな世界で二人きりになってしまってからも……彼女の頭の中には、太ったままの景虎がいた。高校での二年間、互いに互いが唯一の友達として、サバンナかジャングルかのように過酷な学校生活を必死で生き延びてきたのだ。


 白鷺さんって苗字と名前マジでかわいいよね、と、wの見える口調で言ってくる同級生たちに愛想笑いして、それでも、ギャップすごいでしょ、などと自分からイジられにいくようなことは言いだせず、もごもごまごまごしている内に、ンだよつまんねえデブ、という氷柱(つらら)のような目線で射貫かれ逃げるようにしてたどり着いた図書館で、屋上前の踊り場で、校舎裏で。違う原因の同じような理由で逃げだしてきた景虎と交わしたくだらない会話は、まるで、凍える冬に、一瞬だけさした木漏れ日のように暖かで。


 私と同じような、キモい、オタクの、デブの、陰キャの……男の子。


 そんな存在が隣にいるというだけで、一体、どれだけ心が安まっただろう? 世界から蹴飛ばされ続けて生きてきた自分にとって、景虎の隣だけがたった一つ、居心地のいい場所だった。


 一夜にして痩せる、という摩訶不思議な出来事が起きても、そのイメージは変わらなかった。


 けれどようやく、気付いた。気付いてしまった。




 今の私は、こいつを、かっこいい、と……思って…………る……。




 自分好みな、パリッとした白シャツにスラックス、なんて格好をしているだけじゃない。こんな世界にたたき込まれて、いくらでも泣きわめいて、途方に暮れても良さそうなものなのに、同人誌即売会の共同購入の計画を立てるみたいに、どうやって生き延びるか、どうやって楽しく暮らすか、そんなことを話し合える。こんな風にバカみたいなこともできる。そんなヤツ、この世で、景虎以外にいるだろうか?


 そんなことを思うエリスには気付かず、景虎は、ただただうろたえるばかりだった。おろおろと手を上げては下げ、下げては上げ、試着室の中に戻ろうとしてはやめ、エリスを見ては視線を外す。


「な……なんでアンタが、キョドってんのさ」

「い、いや、その……あー……ふ……服って、マジで、ほんとに、すげえんだな……」


 どうしてか頬を朱に染めながら景虎はぼそりと漏らす。


「あはは、か、かもね……ふふ……うん……」


 景虎はどうも、鏡の中の自分に気後れしているようで、その姿がどうにも、微笑ましかった。愛らしかった。鏡の自分にパンチを食らわせようとする猫のように、かわいかった。そうして自分が、景虎相手にそんなことを感じている、と気付きまた驚愕し……やがて、諦めた。


 だ……だから、こ……こ…………こんなに、大切な…………と、友達のこと、かっこいい、と、思ってたって……別に、別に……普通じゃん、うん……だから……うん……。


「うん、ふふ……ああ、答、出ちゃったかも」

「……答?」

「だから、お互いに二次元的な理想の格好をしてみる、でしょ、当初のコンセプトは。二次の理想は三次に影響を及ぼすか、的な」

「……あ」

「答は……」

「……答は?」

「時と場合と……人による!」

「なんじゃそりゃあ!」

「あははははっ、ね、行こっ! 今度は私の番!」




 ああ、そっか、そういうこと、だよね。

 好きって思えることが一番最初で、大切で。

 二次とか三次とか……そんな……そんなの!

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