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オタ友に「世界最後の一人でもアンタ/オマエはない!」とか言ってたら世界最後の二人になっちゃったラブコメ。 ~特殊ツンデレ同士があほあほカップルになるまで~  作者: 阿野二万休
第2章 We are fighting alone

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09 (ネタバレ)熊が出てきます

 すっかり明るさを取り戻したエリスに手伝って貰いながら、しっかりとした朝食を作った。


 缶のソーセージを散らした、トマトソースのパスタ。つまみ用で強めの味付けがしてあるソーセージは、缶のトマトソースの中でほどよく存在を主張し、合間につまむと、ずびずば、いくらでもパスタが入った。短く切って強めの胡椒で炒めたソーセージは、むちっ、と肉をはみ出させ、いかにも粗野でうまそうな見た目。エリスの目はキラキラと輝き、口に入れて広がる、胡椒とソーセージ風味が強めにきいた、乱暴とさえ言えるトマトソースの味は新鮮で、んむ~~~っ! と歓喜の声をあげつつ一気呵成に啜った。山賊が大騒ぎしながら食べているような味だ、なんて思った。


 景虎としては、ここにさらに、バターと菠薐草(ほうれんそう)があればなぁ……缶詰のやつってあんのかなぁ……? と思ってしまう少し残念な出来映えだったけれど……炒めた缶のソーセージの味がソースにほどよくにじみ、ガツン、とばかりに味にパンチを加え、満足はできた。


 とはいえ、今の二人に食べられるのは、それぞれパスタ百グラムにデザートのフルーツ缶と野菜ジュースが限界で、食べてからしばらくはソファで横になっていたけれど……やがて、本格的に動き出す。




 駅ビル中の本屋に、それから交番。


 近辺の詳細な地図を手に入れ拠点に戻ると、机の上に広げ、目的の場所を探す。車のバッテリーを置いていそうな場所。車用品店か巨大なホームセンター。


 だが、拠点のあるJR大森駅近辺にあるのは小さめのホームセンターだけ。車用品店らしきものもあるにはあったが……十数キロ先。おまけにホームセンターとは逆方向。二人は少しの間、どちらに先に向かうかを検討し、最初に車用品店を目指すことにした。


 少しの間でも動く車を手に入れられれば、物資回りにはムリがきく。それにエリスによれば、車のタンクの中に入れっぱなしのガソリンなら、そこまでは劣化してないだろうから結構持つかも、とのこと。ネットがあればきっと、二年ほっといた車のガソリンでも大丈夫でした、的な、どこか自慢げな経験談をあされて安心はできただろうな……などとうっすら考えつつ、今度は自転車を見繕う。


 すべての人が突如理性をなくしある場所に集結した、という事件とも呼べない事件が起こった当時、車道を走っていた車はすべて、路肩に寄せられている。それがドライバー自身の手によるものなのか、少しの間理性を残していた人の手によるものなのかはわからなかったが……自転車も同様だった。電動アシスト付きシティサイクルから本格的なロードレーサー、警官自転車まで、数百メートルも駅周辺を探せばよりどりみどりの状態。


 その中から二人が選んだのは、自転車配達に使われていたらしいもの。


 荷台の上に特徴的な大きなバッグをくくりつけてある、年期の入ったクロスバイク。フレームにもバッグがついていて、スマートフォンとバッテリーのコードがちょろり、のぞいている。タイヤは細いが頑丈そうで、都市部での長時間走行に主眼を置いたタイプだろう。まさに、今の二人にはぴったりの自転車。


 一度アジトに戻り、バッグに必要そうな物資を放り込んでから、改めて路上に出る。


「さて……」

「……さて?」


 二人はアジトの前で自転車に跨がり、互いに顔を見合わせる。

 そして、どちらからともなくペダルをこぎ出し……そして、気付く。





「あははははっ、さいこ~~~~~!」

「うひゃひゃひゃひゃ!」




 一つの遠慮もなく車道の真ん中に出て、出したいだけスピードを出すと、すべての悩みは風とスピードの中に消えていった。


「あ、道違う! 逆、こっちこっち!」

「え、あ、マジで」


 と、出鼻はくじかれたものの、それでも上機嫌に二人は進む。やがて二人が合わせられるスピードも見つかり、隣り合って進む。


 車道の真ん中から見る無人の街は、どこか今までとは違って見えた。なぜか生き生き、生気を持っているようにさえ思える。景色が動いているのではなく自分が動いているだけだ、とは重々わかっているのだけれど。


 無人のビルやマンションの横を軽やかに通り過ぎ、おそらくもう電車が走ることはないだろう線路の下を軽快にくぐり、きっともう車がエンジン音を響かせることはないだろう幹線道路に、口笛を吹きつつ入る。


 その頃にはもうすっかり、二人並んで自転車を走らせることにも慣れてきて、軽口も飛び出す。


「ねえ、車ダメだったらさ、チャリでもいいんじゃない?」

「……だなあ……ははっ、なんかそんな映画見たな、一回」

「なにそれ、どんなの?」

「ポストアポカリプス、崩壊後の世界なんだけど、肩にトゲトゲつけたヒャッハーも、それに抗う主人公も、全員自転車乗ってんの。ヒャッハーが捕まえた人間を拷問する機械も自転車を回して動かす。いい映画だったな、あれ、なんか、みんなで頑張って作った文化祭の映画が奇跡的にうまくいった、みたいな感じで……」

「え、見てみたいそれ、なんか私たちの参考になるかも」

「あー、配信だったからなぁ……円盤、どっかにあんのかな」

「ねえねえ、車見つけた後の休日さ……ふふっ、なんかさ、ちょっと、代官山とか、ショッピング行こうよ」

「えー、アキバがいいっすー、アキバのヨドバシがいいっすー」

「あんった、ほんっとに、ヨドバシ、好きね~……」

「世界のすべてがあるじゃないすか」

「すべてはないよ! まあ、じゃあ、ヨドバシも行くけど……あはは、アンタに、数十万円するスーツとか、着せてみたい、ふふ、数百万円する時計もつけなよ、先の尖った数十万円の靴はいて」

「王道だなぁ、じゃあオマエも数十万円するドレス着ろよ、数百万円する宝石をつけて、なんなら博物館とかからパクってくるか」

「あはははは、やりた~~~い! セレブごっこセレブごっこ! タワマンとかに住んでるフリしようよ、ほら、六本木ヒルズ? ……虎ノ門ヒルズ……? あれ、でも、代官山とか、六本木とか虎ノ門とか……どこにあるんだっけ?」

「さあ、渋谷の近くじゃねーか?」

「曖昧すぎ~!」

「キモオタ陰キャくんにはどこも縁のない金持ちどもの街だぜ」

「でもさあ、最近のお金持ちって大体キモオタ陰キャくんじゃない? ベゾスとかザッカーバーグとかそうなんじゃないの? じゃあそういうセレブな街も、キモオタ陰キャくん受けを狙うようになってんじゃない?」

「一理あ……いやねえだろ、そういう金持ちはそもそも、代官山とか銀座とか鼻で笑うんじゃないか? 服は同じのしか買いません的な」

「あー、なるほど。でもさあ、じゃあ、そういうお金持ちってどこで何にお金使うわけ?」

「本当のお金持ちは、ただ使うためにお金は使わないらしいぜ」

「なにそれ? じゃあなにするの?」

「増やすためにお金を使って、増やしたお金を使ってまたお金を増やす。余ったら……まあなんか、寄付とかすんだろ、エシカルでサステイナブルでリベラルな感じのヤツに。税金払わねえクセになんでだろなアレ」

「つ、つ、つまんね~! こっからここまで全部とかやんないの~?」

「今の金持ちは、あれ、生まれが悪くても中流の上あたりだろ、知らんけど。上から下まで全部~、とかは発想が貧乏っスね~」

「だってワタシ貧困虐待家庭で育ったかわいそうなオンナノコだも~ん」

「じいちゃん仮想通貨長者じゃなかったのか?」

「なんだけどさ~、基本的に街に行くの半年に一回ぐらいだから、お金持ちっぽいことなんにもできなかったんだよ。で、今のおばさんの家、住人九割九分老人の、そういう施設かよっていう都営住宅だし。十代の女の子なんて住人で私一人だからちょっと歩くとお菓子でポケットぱんぱんにされるんだよ、あはは。あんたんちは? お金持ち?」

「金持ちじゃないけど……オヤジ、公務員なんだ、公立の教師。お袋も……ははは、今考えると、あんな思想のヤベエ人間でも教師ってやっていいんだな、スゲえな……まあ、教員採用試験で背景調査とか、やってられねえだろうしな……」

「ねー、今考えるとさ……センセイ百人と、それ以外の職業百人だったら、センセイの方がヤバい人率、多いよね?」

「…………お医者さんもそうじゃない?」

「わっっっかる! なんでかな?」

「ん~…………人間、権力を持ってる……持ってるって思ってると、ヤバくなりやすい、ってことじゃないか?」

「か、もしくは……センセイって呼ばれてると、頭がおかしくなりやすい、とか」

「ん~~~…………若者が抱きがちな反権力思考に回収されてしまうからやめようぜ、そういう考え方は」

「あははは、あんたのそういうの、マジなんなの、どれだけ特別でいたいの」

「人間の願いなんて結局そういうもんだろぉ」

「ヴー」

「は?」

「え?」


 熊が出てきて吠えた。




ヴー

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