「熱唱2」再編集版
◇ギフタルト◇
それは、ギフトの使用を許可されし者
ギフトを表すものとしてsecret toolsという言葉がふさわしい。
別の世界から持ち込まれた技術で作られた最新型の便利な道具。
ギフトに興味を抱いていた主人公が、
ギフタルトのライセンス獲得のため、試験を受ける話。
主人公たちの物語に注目のアットホームシリアスコメディ。
「熱唱2」
「実に素晴らしいです!!お見事です!文句なしの合格ですね、将子ショウコさん!ライセンス取得おめでとう!!」とミスターは、ショコラのことを褒め称えた。ショコラはライセンス取得を成し遂げた喜びからガッツポーズをとっていたが、新の気持ちを考えて「合格したよ、お兄ちゃん!」と兄に褒めてもらいたい感情を抑えて控えめな報告にした。試験結果はその場にいたので分かっていたが、ショコラに「合格出来てよかったな!今度は兄ちゃんが頑張るわ!」と素直な気持ちで妹に返事をした。ショコラは兄妹揃って合格できるように精一杯、兄を応援するのであった。
いよいよ次は新の出番!ってとこなんだけれど、どうも新の様子がおかしい。どうやら2人の歌が予想のはるか上をいく歌唱力であったので、大事な試験を受けているこの状況下では、そのことが新にとってものすごく精神的に堪えたようである。。100点何て点数出せるんだろうか?カラオケ経験は、ほぼ
皆無だぞ!できるのか? できないのか? どうしたらよいのかわからなくなりそうだ。 と考えているうちに額に汗をかいていることに気づいた。
汗をかいているのが分かったミスターは、「凄い汗をかいているじゃないか!大丈夫かい?新君。」と心配そうに声をかけた。だが今の精神状態では、その声がとても小さく聞こえてしまって新には届かなかった。そのことからも、新が受けているだろう重圧の大きさがうかがえた。
新が自分が唄える歌が1曲だけなので、もはや、やるしか道は残されていなかった。この曲のポテンシャルに賭けるしかない。と全身全霊をもって唄うことにした。「上代新、一生懸命歌わせていただきます。」と一礼する。曲が流れてきた。♪「デイ・ドリーム・ビリーバー」である。この歌が大好きな新は歌詞を見ずに全力で歌を唄い切った。そして曲が静かに終わる。残念なことに、手応えはあまり感じなかったが、割と自分の実力を出し切れたほうなんじゃないかと思いつつ採点を待った。
「採点AI」の採点結果は、♪「デイ・ドリーム・ビリーバー」87点、歌唱力ボーナスを加えて89点
不合格かー、まあ、初回だしそう上手くいくはずはないと思っていた。確かに100点が取れるという根拠なんてなかった。でも心のどこかで、都合のいいように考える自分がいたので、この結果は、さすがに堪えた。89点かー、合格するのに10点以上、足りていないことに肩を落とした。このままではいけないと思い、マイクをテーブルに置いて一旦冷静になろうと考えた。それを見ていたミスターが、「新君の89点という点数は普通のカラオケならとても優秀な点数ですよ、自信を持ってください。」と励ましてくれたので、少しはやる気が出てきたのであった。
時刻は21時近くになっている、何回挑戦しただろうか。70回近くは歌っていると思う。でも最高得点は変わらずに89点のままである。歌い始めた頃は、最初から合格するのは難しいと思いながらも心に余裕があった。とりあえずは、採点結果と一緒に表示される評価コメントに従って悪い点を修正していたが、段々と何をすればよいのかが、解らなくなっていた。
そして、21時といえば、新と将子が帰宅する時間だ。ということでミスターは2人に確認を取る、「この店は、24時間営業となっていますので、新君はこのまま引き続き試験を受けるのは可能です。将子さんは合格したので帰宅していただいて構いません。ただし、新君は試験が明日の17時までとなっていますので、その時間までに合格をするか、もしくは残念ですけれどもリタイアを選択するかを考えてください。」と2人は言われた。なんとか、踏ん張ってライセンスを取るまで、やるしかないでしょう!と自分に言い聞かせた新は、「やれるところまでやってみようと思います。」とミスターに延長のお願いをした。そして妹のショコラは、「頑張っているお兄ちゃんを全力で応援しようと思います。万が一仮眠を取ることになっても困らないようにしたいと思います。この店舗では女性に毛布の貸出サービスを行っているようなので手配をお願いしたいのと、担当のChen監察官に外出の延長の許可を連絡してもらいたいです。」とミスターに諸々の手配をお願いする。
余談になるが、ミスターの本名は簾田堂で画数が多いというのが残念でかわいそうではある。
話を戻そう。
21時からも続けてショコラの声援を受けながら、新はそこから更に数十回はゆうに歌っていた。にもかかわらず、喉の調子は悪くない、むしろ快調だぞ!と思っていた。もしかしてだけれど、喉に良い飲み物をチョイスしたのとポテトが効果を発揮しているのかもしれない。しかし、肝心の内容はといえば、いまだに最高得点は89点を更新できずにいた。なんかなーっ、違うんだよな―っ。前にCMで聞いた曲の歌声と違うんだよなー。何が違う。安全ヘルメットでないのは確かであるけれど、他に何が・・・
と考えていたところに、ミスターが言うのである「この試験の目的は、合否をただ単純に決めることではないんだよ。逆にアドバイスしてでも、優秀なギフタルトが誕生する機会をつくる試験なんだよ。」とミスターは自分自身に言い聞かせるように力強く言った。
そして新に試験のアドバイスを始めた。ただ、新には自分の助言なしで合格して欲しいと心から思っていたので、「新君これは、私の独り言だと思って聞いてほしい。」と前置きをしてこう言った。「発声方法にミックスボイスというのがあるんだけど、『デイ・ドリーム・ビリーバー』のサビの部分でこの手法を使うと良いと思う。やり方は、1つ目として口を少しすぼめる感じにすること。次に母音『イ』を横に広げる感じにする。最後に口の中の舌が上あごに近づけるようにすること。これら3つを心掛ければ、声に響きと太さと高さが楽に出せるようになる。この発声方法は曲全体にも使えるから有効に使うといいかもしれないね。」と技術面での話をした。
説明の合った通りに唄ってみると、すんなりミックスボイスをマスターして最高得点を94点に更新した。それは、新にとってかなりの進歩だった。これで新君は、立ちはだかる大きな壁を一つ越えたようですね。あともう一つ越えれれば・・・・それも新君次第だねととこの試験の先を見ていた。
一方で新は、この時にあることが歌っている最中も気になっていた。そして94点を出した後、数回だけ試験をうけてから、気になっていることについて考えをまとめるためにミスターに休憩を申し出た。
考えていたことがまとまった。結論を先に言うと、今回のギフタルト試験がカラオケの採点によって合否が決まってしまうのは、おかしいというのが結論である。そもそも、ミスターのペースで試験が進行されていたので、1ミリも疑うことなく、カラオケの採点で100点を取ることを目標にした。僅か10時間と少しだけど、新は真剣に取り組んでいた。だからこそカラオケを使っての試験で合格か不合格を決めるのは間違っていると思う。それって異世界と行き来できるようになる前の地球でも、到底試験内容として、許容されるものではないし、今の世界にしてもそうなると思う。だってどう考えてもおかしいだろう。ギフタルトになるための試験がカラオケって!何だか馬鹿らしくなってきたぞ!やってらんねーよ!何を必死に歌ってんだろう、マジで自分が哀れな気分になってきた!
とにかくミスターには悪いけれど、いやいや、むしろミスターの方が悪ふざけが過ぎるだろうと思うよ?こんなカラオケに付き合っていられない。正直に今思っていることを伝えて試験を中止してもらおう。まさか、この状況で新がディテンション(拘束)されるとは考えにくい。
そうだ!ショコラのことだ!ショコラを寮まで送ることは兄として当然の義務てあるし。よっし、訓練生寮の女子寮前まで送ろう!と思ったけれど、ふと時刻を確認すると、既に午前3時を回っている。ショコラを送って行くのは、流石に無理だと思う。なので、この件については全面的にミスターを信用して彼にお願いをするしかないかな?
ショコラの方をみる。仮眠かな?既に寝ているようだ。休憩の時間に合わせて仮眠を取っているんだな、頭良すぎでしょうよ、それは。それに引き換え、兄ちゃんは何もわかっちゃいなかった、アンポンタンだったよ。小声でそっと寝ているショコラに語り掛けた、その時、「さっきからずっと起きているよ、目を瞑ツムってただけだよ、お兄ちゃん。」とてっきり寝ていると思っていたショコラが話す。「お兄ちゃん、何かで悩んでいるようだけど、一体どうしたのよ?」とド直球で質問してきたので、「合格した妹に言うべきことではないのは、十分理解しているつもりだよ。だけど兄ちゃんが気にしているの今回の試験方法についてさ。兄ちゃんは、カラオケの採点結果でギフタルトになれるかどうかを決めるのは良くないと思うし、さすがにそれは間違っているだろうと思うよ。」とショコラに伝えた。個室がゆえにミスターも聞いていたが黙していた。
ショコラはこの試験について話すことにした。「私はね、思うの。お兄ちゃんはギフタルトに興味があってギフタルト試験を受けた。そのギフタルトって何をする人たちかというと、それは、ギフトを扱う人のことだよ!じゃあ、そのギフトは何なのよ?って話になるけれど、それは最新型の便利な道具のことだよね。今回のギフトは『採点AI』だったというだけの話なんだよ。お兄ちゃんは、私が言おうとしていることが分かる?」と質問を投げかけた。本来言うべき内容を伏せて入り口だけを示した。兄の気持ちをおもんばかってことだった。
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