「熱唱1」再編集版
◇ギフタルト◇
それは、ギフトの使用を許可されし者
ギフトを表すものとしてsecret toolsという言葉がふさわしい。
別の世界から持ち込まれた技術で作られた便利な道具。
ギフトに興味を抱いていた主人公が、
ギフタルトのライセンスを目指すお話。
主人公たちの物語に注目のアットホームシリアスコメディ。
「熱唱1」
先程は店の名前にだけに気を取られていたので、気付かなかったけれども、よーく看板を見ると・・・
「★歌い放題★飲み放題 カ・ラ・オ・ケ・ B I G 猫 の 館 」
ふぇ? さすがにカラオケは考えになかったなぁー?
繁華街に来た理由はこれだったんか!!別にカラオケでなくてもよくねーか?
え?ということは、この3人で歌をうたうんか~?
言っておくけれど、俺は歌は上手くないぞ!曲もほとんど知らんよ!
ショコラさんはどうなんだい?と思ってちらりと見ると、あら、とってもワクワクしてるー。
今は別の所に住んでいるから、詳しくは分からないけれど、とてもウマそうな感じがする。今だって目をつぶって両手でマイクを持ち、呟きながら軽くステップを踏んでいるじゃんか!
はい、カラオケの上手な人、確定!
ミスターが2人に店内に入るように促した。
「そろそろ、中に入りましょうか?新君、将子さん」
新はカラオケが苦手な為、カラオケというものの受付から退店までの流れを全然知らなかった。どうなるの?これから何がどうなっていくの?まさか、この歳でこんなにもドキドキ感を味わうことになるなんて何か複雑な心境だわー。カラオケ行きたくねーよ、でもギフトの件を了解してもらわないといけないしな。ここは、男上代新!腹を括って、この時間を無我の境地でやり過ごすことに決めた。
ミスターが、慣れた感じで受付機に入力している。そして、新に「21時ぐらいまで時間は大丈夫かい?」とテキパキと確認する。「そのぐらいなら大丈夫です!」と普通過ぎるぐらい普通にに返答した。
何故、新だけに確認するのだろう、とふと思ったが、我が妹ショコラについては、おそらく担当者に外出と同行の許可を取っているのだろうと自己解決で済ませた。
発券されたレシートを持って、受付のところまで行き、部屋番号を記した清算板を店員さんから受け取った後、振り返らずに歩きながら、「こんな偶然もあるんですね。実に面白い。今日の君たちにピッタリですね!部屋番号は9210です!」といった時、ミスターの表情は見えなくとも、新には後ろ姿から、確信めいたものを感じていた。きっと笑っていたに違いないと。
入室直後に3人で歌うにしては、部屋がかなり大き過ぎやしないかい?と思ったが、狭い方が絶対に困るので、安直だった考えをやめることにした。各人荷物を自分の脇に置き、リラックスをしてホッと一息つけたという感じである。
しかし、このカラオケでの話が、意外な方向に進んでいくとは、この時の新は、知る由もなかった。
「飲み物をを入れてきてあげるよ!好きなものを言ってください。」と優しいミスター、続けてゆっくりとした口調で、飲み物の種類を丁寧に説明してくれた。
だが、既に新には予備知識があったので、カラオケ素人の新にも容易に理解できた。
どこで覚えたかって?偶然よ!偶然。この部屋に向かう途中で、急に立ち止まったショコラが何かを指差して確認するのを目撃して、早計にも、何をしとんのじゃ?マイリトルシスターよ!と思った。しかし、彼女が見ているのと同じ方向に目をやると、視線の先にはセルフのソフトドリンクコーナーがあり、設置されている飲み物を事前に見ていたことが予備知識として活きたようだ。
新の好きな飲み物ランキング1位は同率でアイスコーヒーとレモンコーラである。レモンコーラが好きな理由は2つの素材の相性がとても良いからで、炭酸飲料水として、レモンコーラがもっともっと話題になるべきだと常々思っている。それに、揚げ物などの油を使った料理とも抜群の相性だと思う。レモンを入れたホットコーラも小さい頃に母がたまに作ってくれたことが記憶に残っている。これって思い出補正が含まれているのかな?と思いつつ、アイスコーヒーかコーラをお願いしようと考えていた。コーラについては、新は某雑誌の如くに常日頃からレモンを携行しているので、コーラをレモンコーラに昇華させることは、容易であった。
一方のショコラはというと、ソフトクリームとフローズンで悩んでいた。どちらかを選ぶというよりもどちらを先に味わいたいかを思案していた。ショコラが新に2択を迫ってきたこともあり、何で悩んでいるかを把握したと同時に、やっぱりショコラだなぁ~としみじみと思った。
さらに、ミスターはドリンクの種類を説明した後このように2人に告げた。
「新君、将子さん、今日という日を無駄にしてはいけないよ。だから、ドリンク選びも慎重にしなくちゃいけない。」とその言葉一つ一つに彼らに後悔をさせたくない思いが感じとれた。
そして、ミスターは、ここが大事な所だと言わんばかりに、左手の人差し指を一本立てながら、「喉に悪影響を及ぼす飲み物は、理由は区々だけど、炭酸飲料や柑橘系飲料の刺激の強いモノ、あと意外に思うかもしれないが、烏龍茶やコーヒー、アルコール類は避けた方が良いですね。」と話すと更に続けて「飲み物以外のダメ系なもので、止ヤめておいた方が無難なのは、スイーツ類や激辛フード、あとは煙草の煙ですね。」と説明した。
新は好きな飲み物が両方ともカラオケに不適切だったので、ショックが結構大きかった。そうかーあかんのかー、仕方ないなー。じゃあさ、逆にっ!逆にさ、何がお勧めの飲料なのかモーレツに気になって仕方なくなってきた。
と思った時には既に、親指と人差し指で輪を作り、残りの指をピンと立てた状態をミスターは、左手に作っていた。「逆にお勧めのドリンクが何か気になっている筈だと思いますので、教えますね。まずは、常温の水だね、氷が入っていないと尚いいね、次にホットドリンク系、紅茶や玄米茶、スポーツドリンクがお勧めですね!」と新たちにアドバイスをするのであった。
そして、ミスターは、徐にルームにある内線から受付にこう言うのである。
「この電話でメニューの注文をしても構いませんか?」と店員さんに確認しているようだ。「ああ、この電話大丈夫ということですね。解りました。注文をしますね!」2秒ぐらい考えてから、「まずポテトの盛り合わせを1つ、あと2倍盛りポテトチップスを1つ、あとはー、そうだねー、ハッシュポテトを1つをお願いします。」どんだけジャガイモ好きなのよ?新は素直に笑ってしまった。そして、ミスターは続けて注文をした。「それと喉をケアするようなドリンクは、置いてますか? あ、はい、はい、あ、ではそれを1本ください。」え、まじで!そんなの必要なんかいな?とミスターの本気度に驚かされた。
注文を終えたミスターは、部屋の明かりを落とした。「暗くしましたが問題なかったですか?」と2人に確認する。新は暗い方が歌っている時の顔を見られないと思ったので、「寧ろ、暗い方が良いです。」と返答した。
新とショコラの兄妹がドリンクコーナーから戻ってくると、
「では、準備が整ったようですので、新君からの話を伺います。」とミスターが話を切り出す。
「将子さんには席を外してもらったほうが良いのかな?」との問いに対し、新は、
妹も同席した場合、何か不都合があるかを考えてみる?うーん、ない、何もないぞ。話す内容が軽いか?というより、他の理由に、さみしがり屋のショコラを部屋の外で独りぼっちにしたくないのもあった。けれども、話す内容を妹ショコラに聞いてもらって意見が欲しいというのも単純に理由としてあったので、「妹が同席するのは問題ありません。」とミスターに返した。
新は真剣な表情で、ミスターと向き合って、
「監察官殿。この度私、上代新はギフタルトの有資格者になりたく、資格認定試験を受けたいと思います。何卒よろしくお願いします。」と話を聞いていたミスターには、十分にその意志が伝わったように見えた。その時、ショコラの方を見ると、真剣さの中に笑顔が混ざったような表情で両手の拳を握りしめ、力強く前に突き出した。声にするならば、「頑張ってー、お兄ちゃん」とでも言っているような感じだった。
エールを送っていたショコラだったが、内心では、ショコラ自身も挑戦資格を持っているので、兄が受験するなら同じ試験を受けたいという思いがあった。
「採点AI」の設定が完了したことが、まずは、画面に映し出される。新は思った。これってもしかして自分の歌を採点したりするのかな?多分そうでしょう?と予想だけしてみる。もちろん新には馴染みがなさ過ぎて正解なのかどうかは、この後の実演を見てからになりそうではある。
突然、部屋のドアが開いて、注文した商品をスタッフが運んできてくれたようだ。ミスターは、さっき受付に問い合わせて注文した、喉ケア効能があるドリンクを徐に手に取ると、ゆっくりと飲み干した。
いよいよ1曲目が始まった。おっ、これはバラードとかいうやつか?ちょっと待てい!冗談がきついぜ、ミスターさんよ。いくらなんでも上手すぎるでしょ(笑)本人かと思ったわ!
それにしても画面の上部に出てくる線?バーのようなものは何だろうか?高さの違うバーにひたすら線に合わせて色が付いてきよるんですけれど。ていうか新は口パクか実はミスターが歌っている歌手本人だったとか現実から目をそらしたい気持ちの答えばかりが出てくる。
1曲目 ♪~「瞳をとじて」採点結果は100点!
2曲目、 ♪~「しるし」採点結果は100点!!
3曲目も ♪~「赤い糸」採点結果は100点!!!
ALL100点って、マジかよっ!そんなに100点は出やすいのか?
カラオケの機種を100点が取りやすい機種にしてもらったらしい。おーっ!グッジョブだぜミスター!、新は自分に追い風が吹いていると思っていた、その時までは・・・
「さて、本番はここからですね!2人ともライセンスを取得してくださいね。」といった後、少し間を開けて、「臨時試験の合格基準は、カラオケで好きな曲を唄い、「採点AI」で100点をマークすれば、合格です!」と監察官ミスターは言った。
新は愕然とした。だって知っている曲キョクって1曲だけだもん。私がギフタルトとして充実な生活を送るなんて世界線、最初からなかったんだ。やる気なーくしたと思ってトイレに行こうとショコラの前を横切るときに、何かオーラのようなものが、出ていることに気づいた。とりあえず用を足しに行くことにした。
新が返ってくると、ショコラがミスターに対して「聞いてください、100点取ります!」と言い切った。前の画面に曲名が映し出される、む?これは演歌じゃないか!!と驚いているとショコラが、人差し指を口の前に立てている、なるほど静かにしててということか。兄ちゃんは了解したよ!
前奏が流れると同時になんか喋り始めたぞ!!
女の業が 愛しい人を 冷たく縛る
女の情が 寂しい人を 温めて包む
闇の淵を ふらふらと歩きながら ただ愛に生きる
上代将子 「天城越え」
歌い出しの前にミスター自身が気づかないうちに、「前口上とは!」と声が漏れていた。
♪「天城越え」
歌い終わったショコラは、深々と頭を下げた。
ショコラちゃん、これは一体どういうことでしょうかね?滅茶苦茶上手いんですけれど!
本人が降臨したかと思ったよ、マジでね!
と新は別次元の歌ばかり聞かされてちょっと心が折れかけていた。
採点結果は、♪「天城越え」99点、それに歌唱力ボーナスを加えて100点!
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
皆様のご意見やご感想をお聞かせいただければと思います。