「発端」再編集版
◇ギフタルト/Giftart◇それは、ギフトの使用を許可されし者。ギフトを表すものとしてsecret toolsという言葉がふさわしい。別の世界から持ち込まれた技術で作成された、新型で便利な道具。ギフトに興味を抱いていた主人公が、ギフタルトのライセンスを取得し(予定、つもりですよ)、ギフトをどう扱うかが見どころ。まだ、周りの治安の悪さや犯罪に物凄く神経質で疑うことしかできなくなっていた時期のお話。
主人公たちの物語に注目のアットホームシリアスコメディ作品。
「発端」
本日、お昼にいつものナポリタンを食べた。美味だ。住んでいるマンションに、ほど近い場所にその喫茶店がある。正直とても有難い。店内は照明があまり強すぎない感じでとても落ち着いている。ただ、客層は常連が大半を占めているため、性格が人見知りに超が付いている私などは、時間をずらしてここに通っている。座るところはいつも店内入り口すぐのカウンターの端っこが指定席となっている。なぜかいつもここだけは空いているのである。不思議なものである。
そして今日は私の行きつけのこの店で、私を担当する監察官を呼び出している。そうだな、今後はミスターと呼ぶことにする。基本あまり無駄なことは話さずに、とても丁寧で落ち着きのある口調である。そして何かと謎が多い人物でもある。
食後に頼んだ少々味の薄まったアイスコーヒーをストローでかき混ぜていると、後ろで喫茶店のドアが「カラン♪コロン♪」と音を立てた。音が鳴った方向に顔だけを向けると、そこにはミスターがハンカチで紳士風に汗を押さえながら、こちらを見ている姿があった。何も言わんのかいっ!!と思ったけれども、仕方ないので私から合図を送ると声の届く範囲まで来てくれた。
近くまでた彼は、一見すると猫背のせいで体格の割に背が低く見えてしまうのだが、醸し出す威圧感は半端ないものがある。などと要らぬことを考えていると「新君!少し場所を変えようか?」と提案があった。ここは断る理由がなかったので素直に従った。 店外に出てみると、隠れたつもりなんだろうけれど店の看板に隠れきれていないショコラこと上代将子がいる。ここで何をしているんだよっ!我が妹よ!と心の中で叫ぶのであった。
ショコラさんよ、看板から出ている顔が満面のニコニコ顔に見えてしまうんだが、「兄ちゃんは、笑えないよぉ~!」と新は呟く。
そして、改めて状況を確認する。(ちょっと待って!これ今どういう状況??全く飲み込めないでんですけれど。何故ショコラがここにいる?)完全にパニックになってしまった。たしかに、3年前の世界的大事件が人社会に与えた影響は大きく、大事件に関することに過敏になるのは、当然といえば当然である。その結果、最近は反芻思考に傾倒した考えをすることが多くなった気がする。
上代新は考える。
本当ならこの時間にショコラは人材育成プログラム教育施設の実習エリアで訓練を受けているはずなのだ。それが何故、担当外のミスターと一緒にいるんだ?しかしその状況でディテンション(拘束)されていないようなので多少の疑問点は残るが、緊急性はないと新は判断をすることにした。
道中ショコラとは全く話さずにいくのが良案だな?ミスターに会話を聞かれるのはリスクが高い。どんな些細なことでも、それを嗅ぎつけて彼は正解を掘り起こしてくるからな。
いやいや、もっと考えるんだ新。
先程の一連の様子をミスターは見ていないようだったが、もし、これが見ているとすれば、2人が知り合いだと認識する筈だよな?だとしたら逆に話をするのがごく自然な流れになるのではないか?との考えに至ったと同時にショコラさんが私に話しかけてきた。ちょっとビクッとして鳥肌が立った。(お前さんエスパーもやってたのかい?)と思うぐらいにタイミングが良かったのだ。
新が疑問に思ったことには一切触れずに接した。
妹も心得たものでディテンションされないように慎重に言葉を選んで対応してくれていた。
妹!ナイスぅー!!と見えない位置で拳をぐっと握った。よっ!我が妹よ!と心の中で叫ぶのである。
(場所を変えるってトコは大賛成なんだけどねぇー。)変更場所って意外と遠いのか、3人はもうすでに30分はゆうに歩いている。30分もあれば、簡単な夕食なら作れるって本か何かで見たことがあるぞ。
いや待てよ、こんなに遠いなら最初から乗り物を使わないか?なんか変だぞ。しかも、ひんやりアイスが食べたくなるような気温だし、それに加えて、何の苦労もなく、この条件下で30分間の道のりを軽く歩くことができる3人であったなら、何も不思議には思わないのだろう。でも明らかにおかしい状況で何か変な違和感を覚える。ここで、油断するのは良くない。もう一度、気持ちを引き締めることにした。
3人は既に結構な量の汗をかいている。歩く。歩く。ひたすら歩く。どうせミスターが選ぶであろう変更先の場所は、繁華街の中心部から離れた何処かの場末の寂れたビルの一室とかになるんだろうなと想像していた。だが現実は見事に真逆だったのである。
我々はこの街の中心部に向かっていたのだ。どういうことなんだ!繁華街に向かっているだろコレっ!繁華街に近づくにつれて次第に人が溢れるようになってきた。何でこんなとこに来た?確かに繁華街といっても一流ホテルや高級ブランドショップが多数あるおしゃれな繁華街よりもこういったダウンタウン的な親しみやすさがある街のほうが好みではある。って繁華街の好き嫌いをしている場合じゃないんだよ。
こんな人の多いところで話なんか無理やろ!会話の内容がばれるだろうがっ!!こちらサイドから話を監理側の人間にするのは、当然命がけの部分もある。大袈裟かもしれないけど、こちとら人生がかかってんよ。そもそも論でいうと、街の中心地、それも繁華街に行くこと自体、好ましくない行為だろう。現に昨晩、此処とは違う別の繁華街でギフタルト(ギフトの使用を許可された者)による事件が起きたばかりである。彼らには、ギフトの使用が公益性を有する場合において、個別法が即時適用される。それにより使用を妨害、もしくは、妨害の恐れがある者に対し、直接的な有形力を行使(逮捕や押収等)ができる権限を持っているということを理解しておかなければならない。
新はミスターから、最初にギフタルトについて教えてもらった時のことを思い出していた。個別学習塾の講師かと思うぐらいの熱血解説で、ポイントや要点、そして注意点までも熱心に説明してくれた。
その中で新が最も気になったのは、ギフタルトのみが使えるギフトという存在だった。
ギフトを簡単に説明するならば、新やショコラが生まれ育った地球とは違う別の世界から持ち込まれた技術で作成された未知で最新型の便利な道具みたいなものである。
繁華街か・・・面倒なことにならなければいいなー・・・
ミスターとの話が新アラタにとって、大成功であるのが一番だが、最低限の希望が叶えばいいので、「優、良、可」でいうところの「可」の評価で十分。大事なのは、ミスターに自分の意思を上手く伝えられることである。そうやって考えていると自ずから道は開けてくる筈だ。
未解決な疑問もまだ保留状態で残っている。ミスターが、わざわざ繁華街を選んだこと!それに今まで気が付かなかったが、何故に妹のショコラがミスターと一緒にいるのか?ショコラはどこまでギフトなどについて知っているのだろうか?っていうか、ちゃっかり付いてくんなー。
「新君、考え事かい?顔にそう書いてあるよ。」と言いながらミスターは大きな鞄を持ちかえた。すると、続けて「着いたよ。ここで話をしましょうか?」と2人に告げた。そのあとに2人は看板の文字を同時につぶやいた。「B・I・G・ね・こ・の・館・・・・」 え?え?どゆことですか?
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