1話 向井遊快の愉快な冒険
「かゆかゆっ!!」
昨日の夜、山の中で安いテントを張って寝たので蚊が侵入して体中を何箇所も刺してきた。
「まだ5月なのに山だから蚊多いねチャンピー」
「僕はぬいぐるみだから蚊に刺されないけどね。」
「羨ましいな。」
「…そういえばお腹すいたね。昨日から何も食べてないし。財布の中何円入ってるかな?」
遊快はボロボロの財布から、なけなしの小銭を手のひらに広げて数えた。
「100えん…200えん……えっと…320円あった!」
チャンピーが、不安そうに遊快を見つめる。
「遊快くん…どうするのこれから…だってそんだけだったら今日のご飯買うのでやっとだよ?」
「なんとかなるよきっと!そんなことより愉快に生きようよ!」
「でも遊快くん…」
チャンピーが本気で心配していると悟り、遊快は急に真面目な表情になって言う。
「チャンピー大丈夫さ。だってもう僕16だよ。
日雇いバイトとかして稼げるよ。もし、なんともなんなかったらチャンピーを見世物にできるし(笑)」
「ぼ、僕を見世物にしないでよ?!遊快くんは行き当たりばったりだから…困る」
「それに日雇いバイトって…遊快くん本当にいけるの?」
遊快小さくヒョロヒョロで、黒髪が鼻までかかり、とても肉体労働できるようには見えないので、チャンピーは心配する。
遊快とチャンピーは、テントを回収して、山を下りる。
「やっと、町まで来たね。チャンピー。」
チャンピーが、遊快の背負っているリュックから顔を出し、
「そうだね。リュックの中暑いよ…」
というと、遊快はとっさにチャンピーの頭をリュックに引っ込めながら言う。
「し〜!皆に話せるぬいぐるみがバレると大変でしょ!」
「遊快くんが話しかけたから!」
遊快は、街のスーパーで菓子パンとツナマヨおにぎりと2リットルの水を購入した。
「チャンピー、ギリ足りたよ。」
「近くの河原で二人で分け合って食べようね!」
「うん!遊快くんいつも僕の分までごめんね」
「いいよいいよ!僕たち小さい頃からの仲でしょ?」
「まずは、ツナマヨおにぎりから食べよう。」
遊快は、チャンピーのためにおにぎりを半分に割って、チャンピーに渡した。
「いいよ。遊快くん僕そこまで食べれないから」
チャンピーは、遊快にさらにおにぎりを半分にして、わたす。
「チャンピーおにぎり美味しいね!」
「そうだね!」
「で…今日はどこに行くの?」
チャンピーが聞くと、遊快は、
「今日は…とりあえず日雇いバイトができるところかな。」
「チャンピーちょっとリュックの地図帳取って」
「わかった。」
「はいこれでしょ?」
「そうそう」
遊快は地図帳を広げて、チャンピーにいう。
「ここからもうちょっと北へ行ったところ栄えているから日雇いバイトあるよ多分。」
そして、数時間後。
「チャンピー…お茶取って」
「遊快くん飲み過ぎ!後のことも考えないと」
「大丈夫!大丈夫!」
そして、ようやく目的の街へ。
「やっと結構栄えてるね。」
「バイトの張り紙ないかな〜」
探していると、偶然にも公園で即日の清掃バイトが見つかる。
「お!あった!チャンピーあったよ!」
「これでお金安心だね!」
内容を見てみると…
________________________________
公園清掃員急募!
即日アルバイト募集!
募集期間5月〜11月
業務内容
公園と、その周辺の街の清掃。
時間 朝5時〜8時 昼12〜15時です。
朝は公園。昼は街の清掃です。
応募したい方は、公園北の!!駅隣の建物へ来てください。
日給は、2700円手渡しです。
________________________________
「2700円!チャンピーさっそく行こう!」
そして、駅前に到着。
「駅の隣って言ってたよね…まさか…ここ?」
見てみると、みすぼらしいベニヤ板張りの建物があった。
「なんか…入りづらいな…」
「でも、遊快くん入んないと…僕も応援するから!」
「チャンピー…」
目の前で遊快が悩んでいると、後ろから女性の声が聞こえた。
「君ももしかして日雇バイトに来たの?」
「?!はい…そうです?」
(かわいい…)
遊快は、その女性を見て一目惚れをした。
話しかけてきたのは、遊快よりも少し年上の小柄で腰辺りまでの長く茶色い髪をした大きな瞳が特徴的な女性だった。
「でも…君背小さいし、顔も…まだ子供だよね?」
「16なのでバイトできます。」
「そっか。学校は?」
「………………」
「言えないよね…ごめん。じゃあさっそく申し込みに行こっか!」
「はい!」
遊快は、話しかけてきた女性と一緒にアルバイトを申し込みに建物へ入った。