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【超短編】作者の残念な日常

作者: VitaminX

 からあげ好きの一般人(作者)の残念極まりない日常を、あろうことか完全ノンフィクションで短編小説化いたしました。

 何分、生まれて初めての執筆ですので、暖かい目でお読みいただき、少しでも楽しんでいただけますと幸いです。

 一口サイズのピリ辛唐揚げ。(からあげくんとか)

これを発明した人は今世紀最大のジーニアスだと思う。


 子供でも難なく一口で食べられる計算され尽くした大きさ。

 辛いのが苦手な人でも美味しく食べられる丁度良いピリ辛加減。

 揚げたてだろうが、冷めていようが、食感を個性として捉えられる臨機応変さ(ちなみに僕は揚げてから少し時間が経って、油の抜けたパサパサのやつが好き)。

 

 とにかく、挙げていけばキリがないほど素晴らしい食べ物だと思う。


 その中でも僕は、特にローソンの「からあげくんレッド」が大好物なのだけど、職場が変わり、通勤道程(つうきんどうてい)(どうていという響きから生まれて初めて通勤する人みたいに聞こえてちょっとウケる)にローソンがなくなってしまってから約二ヶ月、深刻な唐揚げ不足に陥ってしまっていた。


 世界が白黒に見えてくるほどに。


 しかし、そんなスヌーピーみたいな世界は唐突に終わりを迎えた。


 忘れもしないある日の朝、同じく大手コンビニエンスストア、セブンイレブンにて、おにぎりを右手に、カフェオレを左手に(キモすぎる組み合わせだけど、決して一緒に食べるわけではない)会計レジの列に並んでいた時のことである。

 揚げ物の棚に「みらいデリうま辛ナゲット」なるものを発見した。


 超食べてみたい。


 残り一点のその商品、前に並んでいる誰かが先に買ってしまうのではないかという不安があったが、それは難なく購入することができた。

 退店してすぐ、麻薬中毒者よろしく、(おもむろ)にブツをビニール袋から取り出し、光に勝るとも劣らない速さでナゲットを摂取。悦に浸る。


 「からあげくん」とはまた違ったテイストで、唐辛子の風味が強く、カリカリとした食感。有り体に言ってめちゃくちゃうめぇ。

 感慨無量(かんがいむりょう)有頂天外(うちょうてんがい)円満具足(えんまんぐそく)とは、このナゲットを食べることだったのだ。知らなかった。知る(よし)もなかった。感謝感激雨からあげ。


 果たして、からあげくん中毒者は、うま辛ナゲット中毒者へとジョブチェンジを遂げた。


 それからというもの、通勤時には毎度セブンイレブンへと足を運び、揚げ物棚をチェック、うま辛ナゲットを見つけ次第即購入を繰り返していた。


 そして悲劇は起こった。


 うま辛ナゲットと出会ってからさらに約一ヶ月後のこと。いつものようにレジに並び、揚げ物棚を確認する。

 しかし、そこにうま辛ナゲットの姿はなかった。

 それでも僕は諦めない。

 僕から見て左手奥のフライヤー周辺に目をやると、うま辛ナゲットを入れるための赤い箱が用意されているのが見えた。つまるところ、今揚げている最中ということだ。

 アルバイトでのコンビニ店員(それもセブンイレブン)の経験がある者として、食べたい揚げ物を今からわざわざ揚げてくれという極めて自己中心的な注文の不愉快さはよく理解している。

 加えて時刻は午前9時30分。平日。僕も含め、朝食を買いに来たサラリーマンたちの対応で大忙しのタイミング。

 しかし、揚げている途中、もしくは揚げ終わっている商品ならどうだろう。ただあの後光の差し込んでいる(ように見える)赤い箱へ、揚げたてのうま辛ナゲットを詰め込んで、会計をするだけである。それだけで非難の目を浴びせられるということはないだろう。

 

 てか食べたい!

 早く食べたい!

 目の前にあるとわかってて我慢するとか絶対無理!

 

 そして、僕に会計の順番が回ってくる。

 意を決した極めて自己中心的な男の口から、というか僕の口から一言。


 「赤い方のナゲットって今揚げてますか?」

 「丁度そろそろだと思って今揚げてたのよ!ちょっと待っててね!」


 僕の母親と同世代くらい、愛想の良い女性の店員さん。丁度そろそろ。

 やはりこの時間はよく売れるのだろうか?あれだけ美味しいのだからそれも頷ける。

 フランチャイズのコンビニとしては、直で店舗に粗利の入る揚げ物類が売れる時間帯を逃すわけにはいかないのだろう。

 ちなみに、そのナゲットは「ノーマル」と「うま辛」の二種類で販売されている。

 チキン好きのチキンな僕には、「うま辛」という単語を自分の口から発するのに、どうにも抵抗があり、「赤い方」と、別の言い方をしてみたのだけれど、むしろ不自然な言い方になってしまった。というか普通に「辛い方」って言えば良かった。


 そんなことを反省しながら、マイプリンセスが運ばれてくるのを、今か今かと待ち侘びていると、左手奥、つまりはフライヤーの方から会話が漏れ出てきた。


 「ナゲット男爵今日も来たね」

 「毎日食べてて飽きないのかな(笑)」


 

 、、、心外である。


 この約一ヶ月のうちのどこかで、僕の知らぬ所で、公侯伯子男(こうこうはくしだん)でいうところの第五位の爵位。それも大変不名誉な「ナゲット男爵」なる呼び名をつけられていた。恥ずかしすぎる。もうこのコンビニ行けない。


 しかし盲点だった。

 同じくアルバイトをしていた頃、僕もよく、常連の客や迷惑な客に変なあだ名を付けていたことがあったけれど、(なんなら今でもよくやってる)まさか自分がその立場になろうとは夢にも思っていなかった。というか夢かと思った。残念ながら現実である。


 「ナゲットおじさん」じゃなくて良かったと思う反面、男爵にもやはりおじさんのイメージが強いため、強く改名を希望したい。

 「ナゲット男子」とかにしてほしい。せめて「うま辛男爵」とかの方が旨味もあって辛味もある一長一短のイケオジ感があっていいじゃないか。

 なんでよりにもよって「ナゲット男爵」なんだ! ダサすぎる!


 丁度そろそろ。というのは、揚げ物が売れやすい時間ではなく、ナゲット男爵の来店時間のことだったのだ。


 その後のことはもう何も覚えていない。


 ただ一つ、忘れられないことがあるとすれば最後に内心号泣しながら食べた、うまくて辛い(つらい)ナゲットの味だけだった。

お読みいただきありがとうございました。

ビッグラブを差し上げます。

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