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第8話:妖精サラマンダー

 ただ楽しい。これに尽きた。

 ルナと闘った時と同じ、この感触は、PCプレイヤーキャラクターと同じ、というよりも強い分こちらの方が手ごたえがある。

 こちらの手はどんどん分析され、繰り出される最適化された攻撃。人と人の探りあい、敵を倒すことだけを考えた闘い。


 ――おもしろい、他のどんなゲームよりも。


 「いやー、楽しいわ」


 「ふん、話す余裕あるのか?」


 サラマンダーの側面に回りこみ、愛刀、五月雨を打ち込む。だが俺の攻撃は、サラマンダーの装備する巨大な杖。といっても、刃物がついているため近接戦でも闘えると思われる代物だ。それにより防がれる。


 カァン、という金属のぶつかる音が響き、火花のようにエフェクトが飛ぶ。


 「はあっ!」

 

 さらに返す刃で追撃する。五月雨が、サラマンダーの頬を浅く斬り裂いた。血は出ないが、サラマンダーのHPバーが数ドット分減少した。


 俺は攻撃の手を緩めない。さらに斬りつける。

 防御に回ったサラマンダーのHPバーは、直接攻撃は当たらないものの、俺の剣撃の余波を受け僅かにだが減少していく。


 しかしサラマンダーは余裕の表情だ。


 「『フレイムランス』」


 「ぐっ!」


 サラマンダーの杖の先から炎の槍が出現する。

 間一髪で直撃は避けたが、俺のHPバーは僅かに減らされた。


 『フレイムランス』は火属性、中級魔法。それなりに強い魔術師なら、大抵は使える魔法だが……中級魔法を詠唱無しか、ヤバイな。こと魔法に関しては、ルナのほうが上だったようで、あいつは最上級魔術と思われる魔法をポンポン詠唱無しで使ってきたが、あいつは近接戦闘なら弱かった。

 ただ近接でも俺と互角、さらに魔法もかなりのものときている。強い。勝てるだろうか。圧倒的に俺より高いステータスを持つこいつに。


 「いいわ、おもしろい。でも、こんなので驚いてちゃ、持たないわよ?」


 突然、サラマンダーの姿がぶれた。速い、しかし見える。

 俺は振り下ろされた巨大な杖の攻撃を、五月雨で受ける。そしてカウンター剣技『真月斬しんげつざん』でサラマンダーの体を斬り裂く。

 漸くサラマンダーのHPバーが目に見えて激しく減少し、サラマンダーは後ろによろけながら下がった。


 「余裕ぶってると、あっさり勝っちまうぜ」


 「またまた、あっさりなんて」


 サラマンダーは話しながらも杖をこちらに向ける。


 「のんびり行こうよ。『フレイムランス・デルタ』」


 「ッ!」


 杖の先から、フレイムランスが何発も放たれる。

 フレイムランスのさらに上位の魔法だろうが、こんなもん予備動作無しでポンポン撃たれちゃさすがにまずい。


 最初の何発かは移動でかわせるが、数が多い。途中からは五月雨の耐久力に頼ることとなる。だがこれはまずい。凄くまずい。


 炎の槍が、次々と五月雨にぶつかり、消滅していく。


 「……そう来るか」


 「あんた強いからね、最善の手で行くだけ」


 間違いなく、五月雨を壊す気だ。

 そもそも刀は、一撃の爆発的な破壊力、そして攻撃のスピードが特化して高い代わりに、そのほかの性能は基本的に通常の剣に劣っている。

 その中でもだんとつで刀に足りないものは、耐久力。簡単に威力は落ちるし、最も折れやすい武器といえる。


 そして戦闘中に武器が折れるようなことがあれば……

 一瞬が命取りとなるこの戦いだ、確実にゲームオーバーになる。


 時間は掛けられない、となれば、短期決戦だ。


 体勢を落とし、サラマンダーめがけて走る。


 「舐めてんの? そんな直線で向かってくるなんて」


 サラマンダーの杖の先から、炎の槍が発射される。俺はそれを紙一重でかわす。当然、俺のHPバーは僅かに減る。

 これで距離はほぼゼロ。


 サラマンダーが縦に杖を振り下ろす。俺はそれを、額に触れる寸前でかわし、右ひじで杖の刃が突いていない部分を無理やり押す。そしてスペースを開け、そこに飛び込む。

 これで距離はほんとにゼロ。容赦なく五月雨でサラマンダーの体を縦一文字に斬り裂く。HPバーがまた減少し、サラマンダーは後ろに下がる。


 「防御や体力は低いな」


 「そりゃね、なんだって高かったら苦労無いわよ」


 俺はさらに距離を詰める。

 突き出された杖を足で踏みつけ、地面に突き刺さるようにする。そしてその杖を踏み台にしてサラマンダーの頭上めがけて飛ぶ。そしてそこから頭を斬り裂く。


 しかし、これはかわされた。


 「あぶなぁ……」


 「ちっ」


 「でも次危ないのはそっちだよね」


 サラマンダーはニッと笑った。俺は今、宙に浮いている。つまり身動きをとることはできない。

 

 「『フレイムランス・デルタ』!」


 杖の先から何発も放たれる炎の槍が、俺の体を容赦なく貫く。


 「ぐあっ」


 HPバーがどんどん減っていく。次々と俺の体に直撃する炎の槍で、俺の体はどんどん高く、天井の方へと押し上げられていく。

 五月雨を構えなおし、炎の槍を防ぐ。


 「くそ、やばいな」


 炎の槍の攻撃が止み、俺の体は自然落下していく。


 「ふふーん、私の勝ち」


 サラマンダーの足元には、巨大な赤い魔方陣。そして俺の落下ポイントにも同じような真っ赤な魔方陣が輝いている。

 詠唱が長い。俺には回避の術がない。防ぎきれるだろうか、この五月雨で。


 とにかく五月雨を構える。


 「『ヘルメテオ』」


 聞いた事のない魔法の名前。真下に広がっている魔方陣から何かが起きる気配はない。


 ――メテオ、隕石。上か?


 「気付いたか、でも遅い」


 「なっ」


 俺の真上には、巨大な炎の塊が形成されていた。だが、最初に俺が斬った『アンゴルフレア』とは違う。異質だ。

 大きさもそうなのだが、その炎は真っ黒だ。

 真っ黒な炎の塊が、俺を押しつぶすように床に迫っている。あれは、五月雨でどうやっても斬れそうにない……


 終わったか。


 俺の体は床と炎に挟まれた。


 「ぐっ……」


 体を炎に焼かれるような痛みを、俺が体験することは無い。今俺が受けている痛みは、ストーブに近づきすぎた程度のものだ。

 だが、体が全く動かせない。本来形がないはずの炎が、ものすごい圧力を掛けてくるのだ。炎の熱のよりダメージ以外にも、そうして物理多岐なダメージが俺を襲う。


 HPバーは、すでにレッドゾーンだ。


 残り僅かとなったHPバーが尽きる寸前で、炎の固まりは炎に戻った。体が自由になる。

 しかし、残った炎により俺のHPバーはさらに削られ……はしない。むしろ逆、ものすごくゆっくりではあるが、俺のHPバーは少しずつ押し返している。

 ルナの加護のHPオート回復が発動している。


 がしかし状況は良くない。まだHPバーの8割ほどを残したサラマンダーに対して俺のHPバーは1割を切って、あと一撃喰らえば死ぬというところだ。


 チャラララー♪


 気の抜けたメロディーが、俺の脳内だけに響いた。


 「ん、そうか。ルナの加護か」


 こちらに歩いてくるサラマンダーを俺はあえて無視し、五月雨を鞘にしまう。この行動にサラマンダーは訝しげな表情を作ると、俺との距離を詰めきることなく、杖を構えた。


 「オート回復がなきゃ死んでるよねぇ」


 集中する。

 声に出せば成功するだろうが、まずかわされる。

 先ほどの気の抜けたメロディー。あれは、新しい剣技を覚えたという効果音だ。ゆえに俺の脳内でしか再生されていない。

 ルナの加護が発動するのと同時、俺が発現した剣技。もちろん使うのは初めてだ。感覚で撃つ剣技が、一発で成功するかといえば、しないだろう。俺はこの技を、よく知っているが、一度見ただけだ。


 しかし、やらねば。別にコンボの順序を知らなくても。繋がることはある。


 「『フレイムランス』!」

 

 「うおぉ!」


 放たれた炎の槍。それを俺は、五月雨で斬り裂く。五月雨の刀身は、白い光に包まれている。

 さらにそのままの勢いで、サラマンダーに突っ込む。

 刀の一撃は杖により防がれたが、光の刃は杖をすり抜けサラマンダーを斬り裂く。派手なクリティカルエフェクトが飛び、サラマンダーのHPバーが一気に減少する。


 「そんなの隠してたのかよっ」


 「いや、今覚えた」


 「は?」


 構えなおした五月雨から、今度は純粋な闘気が噴き出す。闘気は徐々に龍の形を形成し始める。

 俺の十八番、『飛龍旋華ひりゅうせんか』。龍の闘気は五月雨から放たれ、うねりながらサラマンダーに向かって進み、巨大な顎はその体を飲み込み、斬撃を浴びせながら飛翔する。


 そして最後には、爆音とともに地面に叩きつける。

 龍の着弾地点にサラマンダーは倒れた。HPバーは5割切って4割。


 「ちっ、終わりかよ……」


 妖精戦は、HPが5割を切った時点で終了する。だが俺は、そんな終わりを求めない。


 「いや、最後までやろうぜ」


 五月雨を構え、立ち上がったサラマンダーに突撃する。

 横薙ぎに振られた杖をバックステップでかわし、懐に飛び込む。そして一突き。サラマンダーは後ろに飛んだ。


 「後悔するよ、あれで勝ちだったのに」


 「いや、しないな」


 五月雨を下げ、一気に背後に回りこむ。サラマンダーは反応できずにいた。容赦なく、後ろから斬りつける。

 サラマンダーは前によろけながらも、こちらに杖を向けフレイムランスを放つ。

 放たれた炎の槍を、剣の腹で打ち返す。


 「そんなのありか!?」


 サラマンダーは自身の魔法で吹き飛んだ。


 正直、自分でもこんなことができるとは思っていなかった。

 しかし、自分自身でも驚くほどのスピードで俺は動いている。しかしピンチだからって一気に強くなるようなことが……

 そうだ、ある。これはゲームだから。


 俺はレベルが1上がった。

 

 「もう負けないな」


 「は?」


 地面を蹴り、突撃する。やはりサラマンダーの動きは鈍い。というよりは俺が速くなっているのだ、反応が遅れている。

 杖をかわしながら五月雨を撃ちこみ、隙ができたところで杖を蹴り上げる。


 宙を高く杖は舞い、俺の背後に自然落下した。カーンという高い音が響いた。


 「くっ……!」


 「はぁっ!」


 五月雨が真一文字にサラマンダーを斬り裂く。そして七色の無敵エフェクトが弾け飛んだ。

 しかし、このエフェクトは基本的にはお目にかかれないはずなのに、俺は結構遭遇しているな。それもほとんど俺の攻撃で。


 サラマンダーは1つため息をつくと、俺の横を通り過ぎていき杖を拾った。


 「負けたあああああああ!」


 まるで悲劇のヒーローのようにその場に崩れ落ちた。


 「まさか、初戦闘で初負けを……」


 しばらく崩れていたが、不意に立ち上がりこちらに歩いてくる。そして、右手を俺に差し出してきた。これは、握手をしろということだろうか。

 とりあえず握手で答える。サラマンダーはスッキリした笑顔を作ると、今度は杖を置いて、空いた左手の上に何か赤い光の玉を構成した。


 オブジェクト名、『サラマンダーの加護』


 「装備すると、死ぬまで戦うことになる」


 「いらねぇ……」


 俺がサラマンダーの加護を放り投げるふりをすると、サラマンダーは慌ててそれを止めた。


 「うそうそっ! 死ぬまで闘ってこいってこと!」


 とりあえずもうサラマンダーの加護をアイテムウインドウから収納する。効果は、『攻撃能力+30%、防御能力-30%』。装備するかは迷うところだ。


 突然俺の体を光が包んだ。 

 光が収まると、俺のHPバーは完全回復している。システム権限の完全回復だ。


 「じゃ、行くわ」


 「ん、待て待て」


 「なんだよ、めんどいなぁ……」


 「さっきまで闘ってたのに、随分あっさりじゃねぇか」


 サラマンダーはこちらに歩いてくる。


 「ここ暇だから、また来なよ」


 「はぁ?」


 「相手になるからって言ってんの、だから、また話に来なよ」


 「……分かったよ」


 「じゃあねー」


 笑顔になって手を振るサラマンダーに背中を向けて、神殿を出た。別に神様がいたわけじゃないから神殿ではないか、まぁいいや。どうでも。

 それより、フリーダムとシャナを探さないとな……


 やっぱりいいかなぁ。

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