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第35話:ホラーゲーム

 地下15層目のダンジョン『深緑の森』は難なく突破。続く地下16層目もあっさりと突破。地下17層目ではアイテムの調達のために一度町によったが、ダンジョンのほうは何の苦労も無く突破した。

 敵が弱い。

 まぁ俺がそうなるように、ダンジョンの要求するステータスよりは常に高めのステータスになるようにしているからではあるが……

 だがこれは必要なことだ。とくに俺のようなソロプレイヤーはそうだ。

 ありとあらゆるイレギュラーが即刻ゲームオーバーにつながる。そうなれば、デスペナ&落としてしまったアイテムの回収もほぼ不可能となる。


 そして地下18層目のダンジョン『死の荒地』。ここまで森が続いていたが、ここにきて一気にダンジョンの色が変わる。

 荒廃した大地。枯れ果てた木々の残骸だけが残る寂しいダンジョン。

 ここは一部のプレイヤーが強烈なトラウマを作ることとなったであろう、ダンジョン前半でのある意味での山場。ホラーゲームのようなこのダンジョンには、恐ろしい外見をしたモンスターが多く生息する。


 「なんか、気持ち悪いね……」


 俺の横でミューが呟く。

 このダンジョンに踏み行ってからは、ミューは常に短剣を抜いた状態で構えを作り、その構えを片時も崩そうとはしない。

 まだ一度もモンスターと遭遇してはいないが、すでにかなり怖いらしい。


 「大丈夫。ここのモンスターは見た目は強烈だが、そんなに強くない。それにほとんどのモンスターは動きが遅いからな、万が一の時は走れば逃げ切れる」


 「うん……」


 少しは安心したのかとも思ったが、構えを解く様子は無い。


 ――俺の索敵スキルが敵の姿をとらえた。

 前方に、人型の『ゾンビ』が1体。


 「ミュー、戦闘だ」


 「――ひぃっ!」


 俺に言われて前方を凝視したと思われるミューが短く悲鳴を上げた。

 腐敗した体、だらしなく腕を前にぶらぶらとさせてこちらにゆっくりと歩いてくるモンスター。表示名『ヘルゾンビ』。聞いたことが無い、ゾンビの上位種だろうか。


 だがまぁ動きは遅い。これならば先手を取って一撃で倒せる。

 地面を蹴り駆けだす。腰の銀時雨を抜き、そのままの勢いでゾンビの体を縦に両断する。

 その体は脆く、一撃で真っ二つになった。ヘルゾンビのHPバーを確認するが――減っていない、というか増えてる。HPバーそのものの数が。


 嫌な予感がする。

 両断されたゾンビは2つに分かれ、その場に倒れそうになるがその前に、切断面から失ったはずの体の半分が再生する。HPバーは全く減っていない。


 「む、無敵か……」


 無敵、真っ二つにしても倒せない敵をどうやって倒そうか。少なくとも、刃物しかもっていない俺とミューの二人じゃ無理だ。多分こいつの有効な倒し方は、魔法攻撃。だが俺は魔法は全くといっていいほど使えない。

 となると、ミューが魔法を使えるかが重要だ。


 「ミュー、魔法攻撃できるか?」


 「一つだけ覚えてるよ」


 「よし、じゃあそれだ」


 「『エアーカッター』っていうかなり初期のだけど……」


 『エアーカッター』。研ぎ澄まされた風の刃で敵を両断する風属性の初級魔法。


 「いや、駄目だ……逃げるぞ」


 逃げるとしても、さっさとこの階層を抜けるためには正面切って突破するのが一番近い。一度攻撃して分かったことだが、ヘルゾンビは少なくとも真っ二つにすれば、再生からの次の行動まではタイムロスがある。

 その間に走り抜ければ、鈍足のゾンビに追いつかれることは無い。


 その作戦をミューに伝えると、頭を縦に振ってこたえた。めちゃくちゃに緊張しているみたいだけど……大丈夫だろうか。

 短剣だと、敵を真っ二つにするのは太刀以上に難しいが。


 ――大丈夫だろう。これまでの戦闘を見る限り、ミューは戦えているほうだ。


 「――行くぞ」


 俺とミューは同時に駆けだした。だが俺の方がスピードが速いためゾンビに先に到達する。

 銀時雨を振るい、ヘルゾンビを難なく両断し俺はそのまま突き抜ける。

 後は後ろからミューが追いついてくるのを待つだけだ。


 「きゃあああ!!」


 待つだけだったんだが……ミューが失敗したらしく、俺は全速力で引き返す羽目となった。

 ミューは見事にヘルゾンビの左腕を切断しているが、右腕で首を掴み上げられている。状況から見るに、あいつ、ビビって適当に剣を振り下ろしやがった。

 腕の一本欠損させたって、あんなゾンビ相手じゃ意味を成さない。


 後ろからゾンビを両断する。

 ゾンビの体がぐらりと揺れ、倒れる。ミューはそれで解放されたが、その時には俺がさっき両断したゾンビは再生を終え、2体のヘルゾンビになっていた。


 「ミュー! 次は成功させろ! 頭狙え!」


 俺も銀時雨をヘルゾンビに向ける。ここで失敗すれば、敵は4体のヘルゾンビ。切り抜けるのがだんだん大変になってくる。

 一歩大きく踏み出し、銀時雨を上段に構える――が、俺の体は何かに躓くように前のめりに倒れた。躓いた――?

 違う、足を掴まれた。だが、2体のヘルゾンビは現在再生中で、攻撃できるとは思えない。ならばどこから敵が現れるのだろうか。

 可能性は1つだった。


 「下か――!」


 地面から巨大な骸骨のモンスターが出現した。

 俺の足を引っ掛けたのはこいつの腕……ではない、こいつの指だ。指が一本俺の足をからめ取っていたんだ。

 巨大な化け物の地面からの出現で、地面は持ち上がり、俺とミュー、ヘルゾンビたちもそれに巻き込まれた。


 化け物の名は『スカルダンサー』。巨大な骸骨の頭部には立派な一角が生え、体は人間の骨格のそれとほぼ同じだが、腕は6本生えていて長い尻尾もついている。

 6本の腕にはそれぞれ剣が握られており、そのどれもが4メートル近くの巨躯に見合う超巨大剣だ。どう見ても、通常の雑魚敵ではない。だが地下18層目にこれほどのモンスターがいただろうか……

 アップデートで、追加されたエクストラボス……ってところか。


 スカルダンサーはその6本の巨大な剣を同時に振るい、こちらに攻撃してくる。

 直撃は避けるが、衝撃の余波を受けて体がぐらつく。スカルダンサーの攻撃は俺たちだけじゃなく、ヘルゾンビにも及んでいた。

 その体が両断され、宙を舞う。

 ――最悪の流れだ。

 思った通り、ヘルゾンビどもはスカルダンサーの攻撃を受けて再生し、その数を増やす。


 眼前のスカルダンサーからは目を離せない。攻撃の威力も、速さも、この階層ではおそらく最強レベル。

 その上そいつと戦いながら、じわじわと距離を詰めてくるゾンビの相手もしなければならない。俺は銀時雨を鞘におさめた。そしてもう一本の刀、舞王を抜く。


 「せっかくの強敵だ……こいつを試すいい機会だと思うことにしよう」


 一度に振り下ろされた6本の剣を真上に飛びあがってかわす。

 今の敏捷パラメーターでは、ジャンプ力が旧フェアリーラビリンス時代の5分の1も無い。だがそれでもどうにか攻撃をかわし、その巨大な剣の上に着地できた。

 そこからもう一度飛び上がり、スカルダンサーの腕に着地する。

 

 まだスカルダンサーの頭とは距離があるが、俺はそこで思い切り舞王をふるった。

 刃はスカルダンサーの腕の一本に傷を付け、さらに刀身から発生する空気の刃は体を構成している骨を斬り裂き、追加でダメージを与える。


 スカルダンサーは俺を振り落とすための行動に出た。

 その体が、背骨を中心にして上半身だけくるくると高速回転する。なんだこの動きは、自由自在すぎるだろう。

 俺の体は遠心力で弾き飛ばされた。

 弾き飛ばされた先には、なんだかものすごく数が増えたヘルゾンビたち。そいつらとはミューが戦い続けていた。

 俺があいつとの戦闘に集中できるように、あんなにビビッていたのに的確にヘルゾンビを斬り裂き、動きを中断させてくれている。


 ――俺はあいつを絶対に倒す


 「ミュー、そこは任せる」


 「――うん!」


 少しでも早く、スカルダンサーを倒すんだ。


 巨大な剣が、今度は6本同時ではなく時間差で叩き込まれる。

 これだと回避を続けることはできるが、さっきのように反撃に転じるのが難しい。だが今、俺はちんたら戦うつもりは無い。

 隙が無いなら作るまでだ。


 振り下ろされた2撃目を舞王で受け止める。刃は止めたが、衝撃が重くのしかかる。だが、エクストラボスといっても所詮は地下18層目だ。

 耐えられない重さじゃない。

 さらに上から攻撃が2発、3発と打ち込まれる。体が地面に押し込まれそうになるが、その場で踏ん張り続ける。と、6発めの攻撃が終わった時、俺にかけられていた重さが消えた。

 おそらく全ての腕を使っての同時攻撃、威力重視で俺を倒すための大技が来る。


 俺は地面を蹴り、飛んだ。一直線にスカルダンサーの頭をめがけて。そこに6本の剣が振り下ろされる。赤い光のエフェクトを散らしながら振り下ろされるそれは、おそらく何かの剣技。だが、六刀流の剣技なんか使うのはおそらくこいつだけだろうな……

 

 6本の剣を舞王一本で受ける。そして衝撃を右側に流しつつ、俺の体を左側にスライドさせる。あいつの剣が俺の真横を通過した時に、わずかにHPバーが削られたが気にならない。

 そのままジャンプの勢いを殺さずに、スカルダンサーの頭へと突っ込んでいく。と、ここで奥の手だろうかスカルダンサーは口を開き、そこから炎を噴出させた。

 俺は舞王を右手1本で持ち直し、振るう。その時発生する風の刃を持って炎を散らす。


 そして左手で腰のもう1本の刀、銀時雨を引き抜き、左手1本で構える。ばっちりイレギュラー装備扱いの太刀二刀流。一切の剣技は発動しないが、攻撃はできる。銀時雨をスカルダンサーの頭に突き刺す。


 「グォオオオオオ!!」


 スカルダンサーが咆哮を上げる。やはり弱点は頭部。HPバーが目に見えて減少する。


 スカルダンサーの6本の腕が俺を狙う。この状況、火を噴く頭と剣での挟み撃ち。まさか1体のモンスターに挟まれる状況が来るとは。

 だが問題は無い、後ろから迫る剣は左手の銀時雨で防御する。だがさすがにこいつでは防ぎきれなかったらしく、俺のHPバーが押し込まれる。

 前の口から放たれた炎は、右手の舞王で散らしつつ、風の刃でダメージを与える。


 こいつの弱点は、6本も腕があり頭からも攻撃できるのに、この攻撃の遅さと手数の少なさだな。


 「はぁっ!」


 俺は舞王を再度振り下ろし、スカルダンサーのHPバーを削りきった。

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