第30話:俺も立派な中毒者
あの戦いの後……丸一日、俺は眠り続けていたらしい。
なぜか体にまで疲労感が蓄積しているような気がした。起き上がるのにも、ものすごく苦労したことと、強烈な頭痛を今もはっきりと覚えている。
――あれから、1ヶ月たった。
あの戦いの直後から、フェアリーラビリンスは緊急のサービス休止。原因も一切公表されず
、一ヶ月たったにもかかわらず返金など行われる様子は無い。
原因は俺が知っているが、あの後妖精がどうなったのか、そしてゲームがどうなるのかは俺には分からない。
だが一つ新しい事実は分かっている。
まず、あの時一緒に戦ったイオリさん。あの人はフェアリーラビリンス開発にかかわったスタッフで、本名は中野庵。まぁ薄々分かってはいたけど、彩斗さんの息子であり、シャナ……本名だと沙那の兄だった。
そして今日、俺のもとにフェアリーラビリンスからのメールが入っていた。
それにはこう書かれている。
『サービス復旧のお知らせ
仮想世界体験型VRMMORPGフェアリーラビリンスのサービスを本日より再開いたします。それに合わせていくつかのお知らせがあります。
まず、突然のサービス休止に関してご迷惑をおかけしてまことに申し訳ありませんでした。
フェアリーラビリンスの管理、運営の全ては小金井コーポレーション傘下のファニーテックに委託されました。
お問い合わせ先など、変更になりましたのでご連絡いたします。
フェアリーラビリンスのバージョンアップが行われました。
これにより、全プレイヤーのデータは一度初期化されています。
しかし、全てのデータはファニーテックが保有していますので、希望者はフェアリーラビリンス前バージョンで使用されていたデータの引き継ぎを無償にてさせていただきます』
あとは問い合わせ先が書かれている。
ということは……
「また、行けるのか。あの世界に」
楽しみができたな。
「背よ伸びろ……」
コンピューターの電源を落とし、背伸びをする。ぽきぽきと、小気味のいい音がした。椅子を元に戻し、部屋の電気を消して部屋を出る。
部屋から出てところで、丁度妹のさくらとぶつかりそうになった。
「おはよう」
「あ、おはよう……」
そしてリビングへと降りる。
テーブルには朝食が用意されていて、母さんは椅子にかけていた。
「あれー、あんた達一緒に寝てたの?」
「違う……タイミングが同じだっただけ。いただきます」
テーブルに腰掛けて、ご飯を食べる。うん、おいしい。やっぱり朝はご飯だなと思う。
「そういえば……進、あんた大丈夫なの?」
「……何が?」
「最近ゲームしてないっぽいけど、禁断症状とか、出ないの?」
「あのなぁ、母さん。俺はゲーム中毒者じゃ無いとは言わないけど、ゲームが無いとだめとか、それで自分を見失うようなことは無いの」
「ふーん……ま、最近外に出てるみたいだけど、同じようなゲーマーが集まってるんじゃないの?」
なんなんだ、うちの母親は。どうなってる、何でこんなに勘が鋭い? 女の感というやつが母さんにも備わっているのか……?
確かに、ここのとこ俺はそこそこの頻度でフェアリーラビリンスでできた友人と会っている。まぁ主にツールとシャナ。まれににフリーダムか。あとさらに少ない頻度でカーター。
「確かにそうだが……」
「もっと学生らしく……青春してみたらどうなのー?」
挑発的に俺に言う母さん。どうやら読みが当たったことで上機嫌らしいが……
「普通の、連れもいるからな?」
「「えぇ!?」」
いや待てよさくら。お前まで一緒になって……
「だいたい、俺は普通に高校生もやっているんだぞ?」
「あ……そうだったわね」
どういうことだ、うちの家族。
と、俺のケータイの着信音が鳴った。確認すると、見たことの無い番号だ。
まぁとりあえず出る。
「もしもし?」
『黒神だな? イオリだ』
「……何で俺の番号を」
『気にするな』
全く、中野家の人間もどうなっているんだ? 個人情報保護もプライバシーも通じないのか……
『どうする? フェアリーラビリンスには戻ってくるだろう?』
「あぁ、当然」
『お前の場合は、彩斗がステータスを上げる前の状態で引き継ぐことができるから安心しろ』
「いや、俺はまた1からやるよ」
『……そうか』
「あぁ。どんな方法を使ったのか知らないけど、これ全部イオリさんが関わってるんだろ? また1から成功法でクリアしてやる」
『そうか、期待している』
せっかく、新しくなるというのだから最初からやるくらいじゃなければな……どれくらい変わっているのか楽しみだ。
「よし、行くか」
さっそくフェアリーラビリンスに出向いて、新しくなったという世界を見に行くか。
俺は椅子から立ち上がり、椅子を戻し、部屋へと向かう。
コードオールギアをとりだしていると、後ろから母さんに声を掛けられた。
「あんた、何やってんの?」
「あぁ、ゲームだよ」
「……今日、平日よ?」
――やってしまった。すっかり忘れていた。
「はぁ、やれやれ」
母さんはもう、イラつきすら覚えるほどににやつきながら、わざとらしく肩をすくめている。後ろで笑いこらえているさくらも腹立たしい。
「あんたは立派なゲーム中毒者ねぇ」
「うるさい、それは認めてるだろ!」
どうやら俺はとことんあの世界に嵌り込んでいるみたいだなぁ……
我ながらもう呆れる。
俺は速攻で服を着替え、カバンを掴み、駆けだすように、ちょっと逃げるように家を飛び出して、原付に飛び乗り学校を目指して走り出した。
終わり・・・ません。
第1部、というか第0部が終わりです。とりあえず一区切り終わりです。
次から新フェアリーラビリンスが始まる・・・予定です。