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第2話:妖精のいるところ

 フェアリーラビリンス地下45層目、夢幻の森。

 ここは、すでにボスが倒され、地下46層目への道は開かれている階層だが、危険度は現在最深部となる地下50層目に引けをとらない。

 夢幻の森は、プレイヤーを惑わせる。

 森には、他階層と比較にならない数のトラップが仕掛けられ、モンスターも幻を操る魔術を使う種が多い。パニックになったプレイヤーからゲームオーバーになる。

 別に現実世界に影響は無いが、他のMMORPGと比べると比較的重いデスペナルティを受ける。


 俺とツールは今、その危険地帯にいる。

 少し進めば、2から5程度のモンスターが出現する。大抵が、低レベルな幻覚魔術と、バリエーションにとんだ武装をして現れる悪魔系のモンスター『ガーゴイル』だ。

 人型で、しかしパーツはどれを見ても人には見えない。二足歩行で、角やら羽やらを持つ化け物だ。


 森の中を、ツールの曖昧な感覚で進んでいく俺たちの前に、またモンスターが姿を現す。

 斧を持ったガーゴイルと、剣をもったガーゴイルの2匹だ。


 「はあ……こいつらたいして経験値もくれないし、嫌になるな」


 愛刀『五月雨』を鞘から抜き、同時に剣を持った方のガーゴイルを斬りつける。

 一撃でガーゴイルのHPバーは半分ほど減少する。


 そして、横からのろい動きで斧を振るってきたもう1匹のガーゴイルの斧を、五月雨で止め、斧の横を滑らすようにして斧を受け流し、そのままガーゴイルの首を斬る。

 HPバーはこいつも半分ほどまで減少した。


 「おらァ!」


 俺の後ろからツールが飛び出し、メリケンサックで斧を持ったガーゴイルの鼻っ面を殴った。

 HPバーが減少し、ガーゴイルは地面を転がる。


 「行くぜぇ……」


 ツールは両手のメリケンサックをぶつける。

 キィン、と高い音が響き、それと同時にメリケンサックの刃の部分にじりじりと火がともる。


 かなり変な発動アクションだったが、今のは『フレイムウエポン』という技だ。

 武器に火属性を付加するという、俺に言わせてもらえばへぼっちぃ技だ。だがこれによって得られる効果は時に凄まじい。


 「奥義! 炎帝ナックル!」


 初めて聞く技名だ。拳を使う技だから、拳技であるのは間違いないのだが、そもそも拳技はほとんど全てが和風な俺の剣技と同じような調子の名前なのだ。


 ツールが両拳を突き出すと、そこから炎が飛び出し、巨大な拳を作りガーゴイルに向かっていく。

 炎はガーゴイルを巻き込んで森の中を突き抜けていく。普通なら大火事になるが、大抵のオブジェクトは『破壊不可設定』になっているのでダメージを受けない。


 ただあちこちで、『破壊不可設定』となっているオブジェクトなどに攻撃した時に発生する『無敵』というメッセージと七色のオーロラのようなエフェクトが現れているだろう。


 「すごいな」


 ネーミングセンスも含めて、だが。

 おそらくこの技は『次元拳』の派生拳技だ。それに属性効果を付加したらこうなったのだろう。


 「先生にそういってもらえるとは、光栄だ」


 「それもうやめろ」


 「いいじゃないか」


 「というか、どこだよ。妖精の住処は」


 「この辺なんだけどなあ」


 詳細な場所は分からないとは聞いていたが、この森の中で完全に位置が把握できていないのならば、この階層にいるということしか分かっていないのと同じだ。

 モンスターは弱いが、トラップ満載のこの森を長々と歩き続けるのは危険かもしれない。


 「これでボスモンスターとかいたら最悪だな……」


 「ここのボスって、なんだった?」


 「何って、すげえ倒すのに時間掛かってなかったか?」


 俺が答える前に、ピピピピと電子音がなった。

 メッセージ受信音だ。フレンド登録してある友達のプレイヤー、もしくはギルド、またはフェアリーラビリンスのシステムからのお知らせが送られてくるのがメッセージだ。

 ツールも同時に受信していたらしく、メニュー画面を開いている。

 

 メニュー画面を見つめる顔が、どんどん青くなっていく。


 「そうだ……キングガーゴイルだったな……」


 「思い出したか?」


 ツールは「あぁ……」と力なく頷くと、メッセージを俺にも見えるように公開モードにして俺に向けた。

 やはりメッセージはシステムからのお知らせだが、タイトルは『緊急!』という言葉から始まっている。

 

 『緊急! 地下45層目の夢幻の森のボスモンスター、キングガーゴイルが復活した!

 レアアイテムゲットのチャンス到来! 自身がるプレイヤーは今すぐ挑戦してみよう』


 「まじかよ、おい」


 「出会ったら最悪だな、さっさと行こうぜ」


 「お前がしっかりしてねぇから迷ってるんだよ」


 俺はちょっと苛立ちつつ、ちょっと呆れつつ。

 そして、胸躍らせながら、キングガーゴイルの出現を少し楽しみにしている。人型のモンスター、ガーゴイルの上位種、一度も闘ったことは無い。

 ぜひ倒してみたいと思っていたのだ。経験値もそれなりにいただけるだろう。


 光の精霊ルナを探しながら、ボスとのエンカウントも心待ちにしつつ、一歩目を踏み出した俺の体に痛烈な違和感。

 足に力が入らなくなり、地面に膝をつく。


 「どうした? 麻痺か?」


 「あぁ……トラップだな、ムカつく」


 足の感覚を少しでも早く戻そうと、手で足をさする。当然無意味だが。

 そんなことをしていると、ツールが突然叫んだ。


 「伏せろ!」


 「っ!?」


 咄嗟に頭を下げる。

 頭上をツールの拳が通過し、風に髪がなびく。そしてゴシャン、というクリティカルヒットの音が響き、俺の後ろでは地面を何かが転がるような音がしている。


 クリティカルヒットが発生する条件は、攻撃モーション中の敵にダメージを与えることだ。

 つまり俺の後ろでは、何かが俺に攻撃をしようとしていたということだ。


 「麻痺のタイミングを狙って奇襲か。随分と賢いモンスターじゃないか」


 「早く麻痺治してくれ、俺1人で勝てるか分からん」


 「無理だろうなあ……」


 間違いなく、『キングガーゴイル』だ。

 なんとか体を回し、後ろを見る。

 基本パーツはガーゴイルと同じ、しかし角は立派な金色で輝いている。

 装備は、白と黒の双剣。シルバーの輝くマントの内側には、ナイフのような刃物がたくさんついている。そして何より、頭に乗っている王冠がキングの証だ。


 キングガーゴイルが地面を蹴り、こちらに向かう。

 俺を守ってくれているせいで、回避の選択肢が無いツールはメリケンサックで器用に双剣を受け止める。

 しかし、剣撃の余波が防御を超えてツールのHPバーを僅かに削る。


 ツールは双剣からバックステップで抜け出し、俺の真横に立つ。

 そして体勢を低くし、こちらに迫るキングガーゴイルに向かって突撃し、メリケンサックではなく腕を使って攻撃する。

 ラリアットだ。ダメージあるのかは謎だが、キングガーゴイルは一歩下がる。HPバーはやはり減っていない。


 「やべ、ダメージ無いな」


 「ちっ、麻痺治れ」


 俺の願いは通じず、麻痺状態は続く。

 ツールはもう一度攻撃を仕掛けるが、今度は双剣に阻まれ、逆にダメージを負い俺よりも後方まで飛ばされてしまう。

 ここまで堪えてくれただけでも感謝するが、役たたずめ。麻痺状態の俺と、キングガーゴイルの間にはもう何も阻むものがない状態だ。


 仕方ないから五月雨を抜く。そして五月雨を、地面に突き刺す。


 キングガーゴイルにどの程度のAIがあるのかは不明だ。

 俺の行動を見て何を思ったか、醜いその顔はより醜く。邪悪に笑っているようにも見える。だが俺の行動の先は見えなかったらしい。


 剣の先から奥義、『飛龍旋華』を放つ。

 本来は、刀剣全体から龍の形を模した闘気を前方に向けて広範囲に放つ見た目にも映える、俺のお気に入りの奥義なのだが、出力を絞り剣の先から僅かに放つ。

 全力でやれば気力の消費が激しい上に、飛びすぎるのだ。


 「うおおおお!」


 剣の先から闘気が放たれ、俺は前方に飛ぶ。

 ロケット噴射のように、闘気を後方に噴出しながらキングガーゴイルに迫り、剣を前に突き出す。


 剣がキングガーゴイルの体を貫き、止まった。

 麻痺していても、完全に密着すれば、俺は負けはしない。キングガーゴイルを間髪いれずに斬りつけ、さらに剣技でダメージを与える。

 横薙ぎの剣技、縦に斬る剣技、そして切り上げる剣技。そこからもう一段斬り上げ、俺はジャンプし斬り下ろし剣技で地面に叩きつける。

 キングガーゴイルは、ただ俺の攻撃に仰け反ったり浮かされたりしているだけだ。

 これでもダウンしないキングガーゴイルには恐れ入るが、好都合だ。最後には締めの奥義『飛龍旋華』を正真正銘全力で放つ。


 巨大な龍がキングガーゴイルを切り裂きながら飲み込み、飛翔し、宙をグネグネと体をくねらせながら踊る。その間も斬撃は続き、最後には地面に叩きつけられる。


 「すげえ……格ゲーみたいなコンボ……」


 「まだ終わってねえな」


 HPバーは半分ほどまで減っている。

 やはりボスモンスター、体力はすごいな……


 幸いコンボの中で麻痺は解けた。ここからは本気で、キングガーゴイルをやれる。

 五月雨を構えなおし、キングガーゴイルを睨む。化け物の醜い顔は、相変わらずの邪悪な笑み。


 「ギイイイイィィヤァアアァァ!」


 キングガーゴイルが吼える。

 音圧で体が固まる。モンスターの威嚇攻撃だ、困ったことに気圧された。


 キングガーゴイルの体が、紫色に光る。これは魔法攻撃だ。

 何でくるかは分からないが、紫は闇属性。


 キングガーゴイルの前に、魔法陣が出現する。はっきり見えているから幻覚魔術じゃない。ということは闇属性の攻撃魔術だ。

 威嚇による硬直もとっくに解け、動ける。


 「なんだ、あの魔法?」


 「俺も見たこと無い。こんなのありか?」


 真っ黒な龍が魔方陣の中から出現した。

 黒龍ではない。モンスターを召喚したのではなく、これが魔法の攻撃のようだが……

 

 真っ黒な龍がこちらに飛んでくる。

 俺とツールは咄嗟に真横に飛んだが、龍は通り過ぎてはくれず、俺たちの立っていたポイントの地面に突っ込み爆発した。

 この魔法の狙いは龍による直接攻撃ではなく、この爆発だったか……


 俺とツールは爆風でバラバラの方向に飛ばされた。


 真横を凄い速さで木々が通り過ぎていく。

 実際には飛んでいるのは俺だが、俺の目線からはそう見える。しばらく飛んだ後、背中に衝撃を感じた。

 体が七色の光で照らされ、空間には『無敵』のメッセージが浮いている。


 俺は大樹に激突して止まっていた。

 HPバーはそれほど減っていない。今の魔法は、距離をとるために爆風の強さだけを上げたものだったんだろう。

 ……恐怖を、感じたのだろうか。

 そんなわけが無いか。


 「そういえばこの木……でかいな」


 他の木に比べて、この木は目立って大きい。

 モンスターは現れない。木にもたれて、少し休むことにする。


 少しすると、PCプレイヤーキャラクターらしき女の子がちょこちょこと歩いて俺の目の前で立ち止まった。一体どうしたというのだろう。


 「あの……何か?」


 「いえっ、そうではないのですけど……」


 言っている事とやっていることが違う。何もないのならば通り過ぎればいいはずだ。

 それなのに女の子はずっと俺の前にいる。


 ずっと俺の顔を見ているようだ。この顔も、相手の顔も作り物のアバターなのだが、正直恥ずかしい。

 仕返しに、俺も相手の顔を見つめる。すると、ものの3秒で目を反らされてしまった。我慢比べではなかったらしい。


 ……まだ、いなくならない。

 全体的に白の服は、どこぞのお姫様のように綺麗なドレスといった感じだ。あと特徴というと、七色の薄い羽衣のようなものを纏っている。

 そして髪はの色は、白っぽいが少し黄色が入っている。クリーム色とは違うのだが、なんだか神々しい色だ。

 装備は弓……だな。見たことも無い弓だ。かなりのハイレベルプレイヤーかもしれない。


 だったらキングガーゴイルが狙いかな。


 というか、いつまでいるつもりだ。


 「おい、早く居なくなれ」


 「ひ、ひどいですよ……」


 「ひどいもくそもない、休んでるだけだ、俺は。何も起きないから、早くどっかいけ」


 「あの……できれば、退いていただけると……」


 どういうことだ。

 俺は最初からここで休んでいて、変な女に見つめられて。鬱陶しいから居なくなれといったらひどい呼ばわり。それだけで留まらず、俺に退けと……


 「決闘……したいの?」


 「はわっ! そんなつもりでは……」


 喧嘩を売っているとしか思えないのだが、気のせいなのか?

 というか、決闘の意思確認までしたのに居なくならない。あれは脅しのつもり、というか完全に脅しだったんだけど、足りなかったかな。


 俺は立ち上がり、五月雨を抜く。


 そして決闘を申し込むべくメニュー画面を開き、相手のプレイヤーネームを確認するために相手の名前表示を見ようとして、気付いた。

 こいつPCプレイヤーキャラクターじゃない。

 だから決闘が申し込めない。あとついでに、NPCノンプレイヤーキャラクターというわけでもない。厳密にはNPCだが違う。

 

 こいつ、扱い的にはモンスターだ。


 俺は容赦なく五月雨で切りつけた。すると七色のエフェクトとともに刀が弾かれ、『無敵』のメッセージが表示される。

 

 「あはは、ばれちゃったかぁ……」


 自嘲的な笑いとともにこんなことを言う。PCみたいだ。


 「まさか私が反応できないとはね……で、決闘、するんだよね……?」


 「まぁ、目的それだったからね」


 女の表情が一気に消え去り、体が光に包まれ少し浮く。

 キャラクター特性として『浮遊』を持っているということは、PCではない。それに普通のモンスターは持っていない。

 

 「我、光の妖精ルナ」


 先ほどまでのふざけた感じは全く感じられない。

 空気が緊張しているのが分かる。


 「あ! ルナちゃーん」


 「汝、我がちか……あっ! シャナちゃん久しぶ……わ、我が力、見せてやろう。その手で押さえ込んで見せよ」


 「無理すんなよ?」


 空気の緊張が解ける。締まらないボスキャラだな、どうなってんだろう。


 「ごっごめんね! ささっ、続けて続けて」


 「いや、お前誰だよ!」


 妖精をちゃん付けって……しかもチャン付け妖精から呼ばれてるし。

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