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第28話:最強の敵

 「そういえば……俺の剣はどうして最後にシヴァを斬れたんだ?」


 もしかして俺の気持ちが……? いやでも、それはシャドウには否定されているから違うだろう。なぜだったのだろうか。


 「ここはポリゴンで構成される仮想世界。数字に勝るものはないわ……斬れた理由は、その剣よ」


 俺の、今は腰に刺さっている状態の武器。『大妖精の剣』。フェアリーラビリンス最強の武器として、彩斗さんが出現させてくれた剣だ。

 この剣とはいっても、最初の段階でこの剣ではシヴァにはダメージを与えることができなかった。


 「その剣は、妖精の加護の属性を付加することができる。そしてシヴァを斬ることができるのは闇の属性。ただ私が戦闘中のあなたに闇の妖精シャドウの加護を与えただけよ」


 確認してみると、メニュー画面内の加護の欄には、元から持っていたルナ、サラマンダーの加護に加えてシャドウの加護も追加されている。

 加護自体が持つ能力は吸収……攻撃時に相手のHPの一部を奪い取る。


 「黒神くん!」


 聞き覚えのある声。俺の名前を呼ぶ。白のドレスに七色の羽衣のようなものを纏った女性のアバター。見間違えようもない光の妖精ルナそのものだ。


 「ありがとうっ!」


 「……は?」


 「嬉しかった。所詮プログラムでしかない私たちを、生きているって認めてくれて」


 「……ああ、それならこっちこそ助けてくれてありがとうな」


 妖精たちが助けに来てくれなかったら、多分俺はシヴァに勝てていない。

 お互いに条件は違い、明らかに俺不利の状況ではあったが……確実に負けていたんだ。


 「確かに、俺たちは助けられたが……これでこの件に関わる全ての人間が、フェアリーハートは完成したと判断する、そしておそらくだがこのまま放置しておくのは危険と考えるだろう。そうなれば、敵はすぐ動く」


 「だったら、それより早くこっちが終わらせればいい」


 「その通りだ、このまま行くぞ。オリジンはいるか?」


 イオリさんが呼ぶと、妖精たちの中から一人、飛びぬけて背の高い妖精が現れた。

 背が高いだけじゃなく、その見た目もほかの妖精とは明らかに異質。まず色の統一感が全くない。服装だけ見れば普通のPCのようだ。

 髪の毛は長い金髪、そして端整な……といってもこの仮想世界のアバターは誰もかれも端整な顔立ちなのだが、かなりの男前だ。


 オリジンは女性ばかりの妖精たちの中での唯一の男のアバターのようだ。


 「マスター……」


 「地下一層目のあの部屋の前に転移させてくれ。この空間でも、お前ならできる」


 「本当にやるのか? 今の私にはマスターのしようとしていることは分かる。だがそれは、バカげたことだ。私たちは所詮は創られた存在でしか「今までこんなところに押し込めたままにしていて悪かった」


 話し続けるオリジンの言葉を、イオリさんがさえぎった。

 そしてさらに続ける。


 「今から助け出す、全員俺の子供みたいなもんだ」


 イオリさんが言いきると、オリジンは黙ったまま、嬉しいのか悲しいのか、微妙な表情を浮かべつつも何かを始めた。

 その背に七色の羽が出現する。

 それと同時に俺とイオリさんの周囲に光が満ちていく。これはゲームにログインする時にPCを包んでいる光に似ている。


 「あまり、無茶はしないでくれ……」


 最後にオリジンの声が聞きとれた。

 それと同時に俺とイオリさんの体は別の場所に転移した。





 転移した先は、見たこと無い場所だ。

 地下一層目といっていたけど、こんな場所が存在したのか。


 「ここはフェアリーラビリンスだがフェアリーラビリンスではない」


 「どういうことだ?」


 「いわばフェアリーラビリンス第二ダンジョン。もうひとつの入り口から入れるダンジョンだが……ここには今のところ敵は一体しかいないんだ。アップデートでどうなるかは分からないがな」


 そんなものが存在したのか。

 けど地上にそんな入り口があったとしたら、普通誰かが気づいて、情報が広がっていそうなものだけどな。


 ダンジョンの中は一本道だ。分かれ道は一つも無い。そして言われた通り、敵は一体も出で来ない。気配も全く感じられない。

 一本道を歩き進めていくと、突き当り。

 そこまでくると、ひとつのドアがある。


 「現代的なドアだな……世界観に合って無いぞ」


 「まぁ、ここにはPCは来ないからな」


 ――PCは来ない?

 じゃあ誰が来るんだ。


 ドアを開けて、中に入る。

 中はドア以上にこのゲームの世界観には合わない場所だった。


 「ここは、視聴覚室か?」


 丁度学校の教室二つ分くらいの広さの部屋に、コンピューターがいくつも並んでいる。

 ほとんどのコンピューターは電源がついていないようだが、一台だけ、一番奥のコンピューターだけ電源がついていて、ディスプレイに何かが表示されている。


 「そうだ、視聴覚室がモデルだ。ここはフェアリーラビリンスの中核にアクセスできる唯一の場所だ。これが簡単にハッキングなどができない理由の一つであり、さらに誰も妖精には迂闊に手を出せない最大の理由だ」


 「どういうことだ?」


 「外部から一切干渉できないんだ。このゲームの中核と、そしてフェアリーハートにはここのコンピューターからのみアクセスできる。これはフェアリーハートが完成した時に俺が創った仕組みなんだが……俺自身、ここにたった2人でやってくる想定はしていないかった」


 話がつかめない。どういうことだ。


 「この部屋では、一切のシステム権限は効かない。フェアリーラビリンスの最大権限はこの部屋の管理システムが持っているからな……つまりここのルールで戦うことになる。そして――」


 ぞわっと、背筋に何かが走った。

 これまでこの世界で感じたことのないような大きな気配。何かがいる、これがこのダンジョンの唯一の敵か?


 「――ここの番人はフェアリーラビリンス最強のモンスターだ」


 目の前に、大きさは通常のPCと同じくらい。

 真っ黒なフードつきのマントを羽織った、おそらく男と思われる――まぁ、性別は関係ないか。外見から能力が一切予測できない。かなり不気味なモンスターがたっている。


 「こいつの特徴を教えてくれ」


 「武器はフェアリーラビリンスの全ての形状の武器に変化する自由自在のものだ。さらに魔法の詠唱時間はゼロ。そして攻撃の強さ、体の硬さ、速さはプレイヤーの限界値より上だ。あと、夢想剣は使うな。夢想剣状態よりも常時敵は速い」


 ――シヴァも相当な化け物だったが、それよりもやばいぞ。

 斬れるだけましかもしれないが、フェアリーラビリンス最高硬度と思われる敵にどれだけダメージが与えられるのか。


 敵を凝視する。だが得られた情報は名前のみ。『エグジスト』。

 弱点は、おそらく無いな。


 「ここには妖精は来れない……だがあいつを倒す必要は無い10分だ。あいつを引きつけてくれ」


 ビビるな、勝てる。

 敵は強いが、俺は仮想世界ではどんな敵だって一人で倒してきた。威力が高い攻撃も、当たらなければ意味は無い。


 エグジストが距離を詰めてくる。凄まじい速さだ。

 腰の剣を引き抜き、ガードする。完全に剣で受け止め、ガードは成功したはずだが――


 「ぐあっ!」


 俺の体は後方に吹き飛び、壁に激突した。

 部屋が狭いのはせめての救いだな。

 あれだけ速く動ける敵相手で、部屋まで広かったらとらえきれない。だがこの狭さなら、相手を見失うことも無い。


 俺が激突しても、PCは位置がずれることも無い。これは破壊不可の無敵属性のオブジェクトのようだ。


 敵はある程度の距離をとり、様子をうかがっている。

 この距離なら……剣に力を込める。大妖精の剣で使うのは初めてだが……刀でも剣でも同じ剣技だ。龍の闘気を剣に纏わせて敵を斬る俺の奥義。

 『飛龍旋架ひりゅうせんか』を使う。


 「はあっ!」


 龍の闘気が形をなし、剣から離れてエグジストに向かって突っ込んでいく。

 だが避けられた。


 「……いない!?」


 巨大過ぎた龍の闘気が、俺の視界まで奪ってしまった結果、攻撃がかわされた上に俺は敵を見失ってしまった。

 ――まずい。


 「っ!」


 とっさに右からの音に反応してガードを上げるが、攻撃の衝撃は容易に剣を突き抜け、俺の体は横なぎに吹っ飛ばされた。

 ダメージはかなり削っているが、この調子だとやばいぞ……

 敵の武器の形状は、素手に近い。

 おそらく形状は現在、拳技に適したグローブのような装備。だがあれは変化する。


 と、真っ黒なエグジストの手が、黒い闇に包まれる。

 いや、もとからあれは闇が包んでいたんだ。そして闇が武器の形を成していた。形状を失った闇はうねうねとうねり、別の形状を成す。

 あれは……銃か。

 それなら一気に距離を詰めればいい!


 「せあっ!」


 一気に突進し斬りかかる、だがそこにカウンターの一撃をくらわされた。

 ――バカな!?


 「ぐあっ」


 俺の体を縦一文字に刃が斬り裂いた。

 

 「……銃剣か」


 銃の先端に刃がついた武器、銃剣。まさかそんなものが出てくるとはな……

 こちらのステータスも高く、銃剣の刃に本来そこまで威力は無いため、ダメージは致命傷とはいかないが……それでもこれをあと3発喰らえば死ぬ……


 刃による痛みは、ゲームであるから断続的に続くわけではない。だが斬られた一瞬の痛みは本物だ……


 まだ、1分足止めできていない……

 10分、長いな。


 敵の銃剣がまた武器の形状を失い、うねうねと闇がうねる。今度は、何になる。そして、どう避けるか。

 敵の武器の形状は見れば分かる。そして変化は一瞬にして行われるわけじゃない。冷静に見れば、避けれる。


 エグジストの闇は、今度は長い太刀の形状を成した。

 射程は俺とほぼ同じ。間合いに入らせなければ――


 刃が突き出される。敵はすでに間合いの中だ。

 辛うじてタイミングを合わせ、攻撃を相殺する。俺もエグジストも後ろに大きくのけぞる。

 

 「ぐっ……」


 体勢を起こし、敵を見る。エグジストは射程の外……だが、敵はその場で太刀をふるった。太刀の通常攻撃ならばあの距離ではどうやっても当たらない。

 だが俺の飛龍旋華のような技だとすれば……くる。俺は大妖精の剣を構え、防御の体勢に入る。


 巨大化した斬撃が、こちらに一直線に飛んできた。

 ズガァン、と凄まじい轟音を響かせながら斬撃は大妖精の剣に直撃し、俺の体は大きく後ろにのけぞる。

 そしてそこに太刀を構えたエグジストが突っ込んできた。

 太刀による一撃を体に受け、俺の体は後方に吹っ飛ぶ。


 「ぐっ……あああああ!」


 一瞬だが、刃が俺の腹部を貫いた。

 激痛が走りぬける。


 「はぁ……はぁ……」


 この世界で、息が上がることはあまりない。

 なぜなら、本当の体は現実の世界では眠っているわけで、体を動かすわけじゃないから基本的に疲れない。だが、脳は疲れる。

 脳が疲れれば、この世界での動きは鈍る。だが、息が上がるようなことはめったにない。それほどに、俺はシヴァからのこの連戦に脳に疲労をためている……


 俺の射程の外から、俺を見ているエグジストは冷静。感情など微塵も感じられない。完全なプログラムという感じだ……

 本当に、生き物と戦っている感じが全くしない。


 またエグジストの武器の太刀がうねうねと形を失っていく。

 ――いや、待て、この時間だ。この時間が奴の唯一の隙……だからこそ、俺の射程の外に必ず出て武器の形状変化を行っている……?

 俺の装備は大妖精の剣、だがすぐに変更できる装備には銃がある。おそらく、このレベルの戦闘には役に立たないが。


 『種子島EX』に装備を変え、すぐに発砲する。最もスピードが速い『貫通弾』が、エグジストの体に直撃し、跳ね返り地面に落ちた。貫通弾が貫通しない……


 「……硬いな……けど、見えたぞ」

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