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第23話:決戦  

 まさに、豪邸。かなり大きな家だ。

 表札には中野、と書かれている。ネットで知り合った人の家にくるというのは、あまり無い。なんだか変な感じだ。

 玄関の扉が開き、そこから俺と同い年くらいの、いや、俺より少し年上の女の子が顔を出した。

 ゲーム上のアバターよりかわい……じゃなく、いや間違っちゃいないがかなり綺麗なもので、いやぁ驚いた。


 「黒神くん?」


 「あ、あぁ。そう」


 「なんか変な感じだよね」


 「そ、そうだな……」


 俺はシャナに招かれて玄関から豪邸に入った。

 

 「いらっしゃい、黒神くん」


 俺に声が掛けられた。

 背の高い、若い男性。20代そこそこだろうか。茶色の髪は少し長めで、顔はシャナと少し似ている。兄……とかだろうか。

 メガネをしていて、知的な印象を受ける。


 「中野彩斗なかのさいとといいます」


 「お兄さん、ですか?」


 「はっは、そうだと嬉しいな」


 「私のお父さんですよ」


 目の前のどう見ても20代にしか見えない人が、シャナの父親だという。世界には不思議が満ちているな。この人何歳だろう。


 学生結婚で、18歳、そしてすぐにシャナが生まれていたとして……

 いや、考えるのはよそう。なんだか異様に若い人だ。

 

 「いおりは、もう戻ってはこない……だろうかなぁ」


 「……」


 ……あれ? なんだか暗い雰囲気になってしまっている。

 何か俺はまずいことを言ってしまったのだろうか。

 

 「ははっ、まぁ、もう皆来てくれているからね。黒神くんも部屋に来てください」


 「そうだ、黒神くん、皆にあったらびっくりするよ!」


 杞憂、だったか。

 いや、でもシャナの笑顔は確実に曇っていた。

 しかし詮索する事はできないし、その必要も無い。

 これから始まるのはもう、ゲームであってゲームではない。コンティニューも無い。一度きりの真剣勝負となる。


 廊下を進み、部屋に入る。

 大きなディスプレイと、コードオールギアに似た機械、おそらくシフトダイバー以外にはほとんどモノが無い、広い部屋。

 中央に2人男がいる。


 カーターの顔は知っている。だからすぐに分かる。長い髪を前と同じように後ろで一つに纏めている。

 そしてその横、短髪で髪の色は黒。目つきが若干悪い若い男、俺と同い年くらいだろうか。妙に派手なシャツを着ている。

 じゃあこいつが、フリーダム?


 「お、黒神? ははっ、思ってたのと違うなぁ」


 「こっちのセリフだ」


 当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、現実のこいつは黄金仕様ではない。


 「俺は、小金井俊也こがねいとしやだ。よろしくな」


 「俺は黒木進。よろしくな」


 「改めて挨拶しておくと、俺は片岡祐之かたおかひろゆき。よろしくな」


 「あぁ、よろしく」


 男同士の挨拶が終わったところで、シャナが俺のほうへと歩いてきた。


 「私は、中野沙那なかのさな。よろしくね」


 「よろしくな」


 全員の挨拶が終わった。ネットでの付き合いだけでは、おそらく知る事はなかったであろう、素顔と、本名を共有した。それは一気に俺たちの距離を短くしたように思わせる。


 シャナの父、彩斗さんがシフトダイバーを持ち上げ、話し始めた。


 「これから始まる戦いについて、簡単に説明する。まず、シフトダイバーを使ってログインするのは、黒神くん、きみだ」

 

 「あぁ、そのつもりで来ている」


 「だがこれはゲームじゃない。敵と黒神くんが対峙した時には、私が直接システムに介入してバックアップする」


 システムに、直接介入?

 フェアリーラビリンスは、それが一切敵わないことで有名な、強固なセキリュティを誇るVRMMOだ。それができるのだろうか。

 

 「だが、これは危険だ。管理プレイヤーを呼び寄せかねない。なにせ、私がやる事はハッキング、違法行為だからね。さらにこの勝負、勝てばいいわけじゃない。私は君達の戦いの間に、隙を見て敵の居場所を特定し、情報を奪い取る。だが敵も凄腕のゲーマーであり、おそらくハッカーだ。だから黒神くん、君には敵の注意をできる限り気味との戦いの方へと向かせるようにしてほしい」

 

 「いや待ってくれ、まずできるのか? フェアリーラビリンスのメインサーバーにハッキングを仕掛けることが」


 「できる」


 断言された。そりゃ不可能ではないのだろうけど、この人何者……


 「敵はおそらく、ゲーマーとしても凄腕だ。VRMMOで、まともに相手ができるのは、きみくらいだろう」


 「随分と、俺のことを買ってくれてるんですね」


 「ああ、そうだよ。君はゲーマーとしては世界一じゃないかとさえ私は思っている」


 そりゃまぁ、三連覇はしているからそうも言えるかもしれないけど。

 

 「じゃあさっそく、頼めるかな」


 俺の手にシフトダイバーが手渡される。

 仮想世界と、俺の脳をつなぐ役割を果たす、夢の機械。だがこいつは、今回俺の命を奪うかもしれない。命を賭けたゲーム。

 被って、向こうの世界に行けば、戻れないかもしれない。

 激痛に脳を壊される恐れもある。痛みが100パーセント伝わる。


 「分かった」


 シフトダイバーをかぶり、スイッチを入れる。




 コードオールギアとは違い、容赦なく一瞬にして暗闇が訪れる。そして少しの後、鮮明な世界が現れる。だがそこは、直前に俺がいたターミナルではない。


 というか、寒い。

 なんなんだここは。


 『そこは地下40層目だ』


 声が直接俺の脳に聞こえてきた。この声は、シャナの父親のものだ。まさか本当に、しかもこれほど早く、フェアリーラビリンスのシステムに介入できるのか。


 というか地下40層目? 地下40層目といえば、たしか森で、こんなに寒いフロアではなかったはずなんだけど。

 それにここは、どう考えても地下……まぁ全部地下ではあるんだけど、めちゃくちゃ地下っぽい。


 『正確には地下40.5層目というところだろうか。そこは滝壺の底、氷の神殿だ』


 まさかそんな場所があったとは……俺がゲームで通った時には完全に見過ごしていた。

 大きな滝があるのは知っていたが、滝つぼの底とは考えなかったなぁ。


 『敵の目的は、妖精、そして妖精に近いプレイヤーの駆除。処刑人は、すぐそこだ』


 すぐそこ……


 緊張してきたな。

 尋常じゃないステータスにあわせて、超反射神経を見せ付けてくれた、『ああああ』。通称処刑人。今俺は、そいつと同じ土俵に立った。


 『ステータスを、限界まで上げる』


 ――体が一気に軽くなった。そして寒さを感じない……

 やはり仮想世界は数字が全て。それを思わされるな。


 ステータス画面を開くと、俺のレベルは255まで上がっていた。そのほかの能力も、今までとは比較にならないほどに上昇している。

 さらに変化がおきた。

 目の前に数字の羅列が現れ、徐々にあるオブジェクトを生成していく。


 一振りの剣。


 『大妖精の剣だ。それを使ってくれ。フェアリーラビリンス最強の武器だ』


 剣を掴む。初めて触れるがしっくりくる。

 しかしチートだな。一瞬にして極限のステータスに、極限の武器。俺がやろうとしている事は実にくだらないことに見えてくる。


 ――だが、違うんだ。

 ここはきっと、仮想でもあり、もう一つの現実なんだ。


 「っ!」


 思わず一歩退いた。

 これは、全感覚をダイブさせるシフトダイバーだからこそなのか、第6感までもが働いているようだ……

 殺気、絶対に敵はいる。


 神殿を進んでいく。

 すると、プレイヤーの後姿が見えた。


 『あいつだ』


 「あぁ……ついにだな」


 集中してみると、浮かび上がるプレイヤーの名前。

 『ああああ』

 ふざけた名前だ。その能力も、何もかもふざけている。今の俺はそれを言えたどうりではないのだけどな。

 

 「……なぜ、来た? もう来るなと言ったはずだが」


 「お前に言われて、ゲームやめれるかよ。俺はゲームが好きだからな。ゲームをやるためだ」


 「ならば何度でも、倒す」


 地面を蹴ったああああが一気にこちらに迫る。速い。ものすごい速さだ。しかし今の俺ならかわすことができる。

 真横に飛んで、剣を抜くと同時に放たれた攻撃を避ける。


 「なっ!?」


 「だけど、これはもうゲームじゃない。俺とお前、真剣勝負」


 こちらも剣を抜き、斬りつける。だがギリギリでかわされる。


 「……ちっ、その能力も……俺の邪魔を……」


 「今、俺とお前は対等だ」


 「対等? 違う」


 ああああが剣を収めた。

 何のつもりだ?


 「システム、ログインID『IORI』」


 「なに?」


 どうやら、何かメニューウィンドウを操作したらしい。システム、ログイン……?


 「システム、ジェネレート、オブジェクトID、現象『絶界』2590,122,0~175」


 早口で何かを呟いた。

 途中までは聞き取れたが最後はわからなかった……

 何がくる。


 『真上に飛べ!』


 彩斗さんの声、やはり何かが来るらしい。ここは指示に従って真上に飛ぶべきだろう。

 パワーアップしたステータスをフルに使って真上に飛ぶ。

 俺の体が天井にまで届いた。


 直後に、俺の立っていた場所に真っ白の直方体が出現した。


 「やはり、ブレーンがいるか……」


 ブレーンというのは彩斗さんのことだ。つまり気付いたらしい。

 だからといってやる事は変わらない。天井を蹴り、一気にああああのほうにつっこむ。

 そして剣を構えて、縦に振り下ろす。なぜかああああは全く反応しない。


 振り下ろされた刃が、ああああの肩を捕らえた。刃がその肉を斬り裂く直前、刃は何かに阻まれて押し戻された。

 ガィンというあり得ない音とともに派手なエフェクトが光り、無敵の属性表示が現れた。


 「無敵、属性……!」


 「残念だったな、お前は勝てない」


 ああああがこちらに飛んだ。

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