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第22話:決戦の準備を

 フェアリーラビリンス史上初。俺が完全な敗北をしたのは昨日。そしてその後、一度もダンジョンに入っていない。

 再ログインした今日も、まだダンジョンには入っていない。

 VRMMOはこういう楽しみ方もありなのだろうが、俺てきにはあり得ない、ナンセンス、何のためにゲームやってんだ? ってところだな。

 

 「誰か来ないかな……」


 「よっ、黒神せんせっ。初負けのショック引きずってんの?」


 「……フリーダムか、久しぶりだな」


 「そうだな。……しかし、ありえねぇよな、あいつ。処刑人って馬鹿じゃねえの」


 「全くだ」


 俺に話しかけたのは、鎧も金、武器も金、髪も金、よく見りゃ瞳もゴールドというあり得ないセンスをした男だ。名前はフリーダム。

 まぁ、名前のとおり自由な奴だ。

 しかし昨日は、シャナが処刑人襲われたと聞いて飛び出して行ったりしていたという。結構熱い奴だ。かくいう俺もちょっと熱くなっていたけどな。


 「黒神くん! 久しぶり」


 俺に元気よく話しかける声。

 シャナだ。すごい久しぶり。


 「大丈夫か?」


 「え? あ、大丈夫。別に負けたって死んじゃうわけじゃないからね」


 「そうだけど、しばらく来なかったじゃないか」


 「寂しかった……?」


 「全然」


 ――ここは仮想世界。斬られてもそれほど痛くないし、ここで腕が切り落とされようとも、しばらく無くなるだけで、そのうち再生する。

 HPバーを失ってゲームオーバーになったって、すぐにコンティニューできる。代償はあるが、命とは比べるまでも無い微々たるもの。


 リアルを追求するとは言いながら、その辺りはリアリティが無い。


 だがそこに文句をつけるプレイヤーなどいるはずも無い。

 もし、斬られれば100パーセントその痛みを身に受け、腕を切り落とされれば腕を無くし、仮想世界で死ねばそれは現実の死となるようなゲームがあれば。

 それはもはやゲームではないだろう。

 そしてプレイする人間などいるはずも無い。


 まぁ、ゲームをゲームとして楽しんでいる俺のようなプレイヤーの意見でしかないがな。


 「シャナ、あの処刑人どう思う?」


 「……それだけど、ここにログインしないで調べてたんだよね」


 「? どうやって?」


 「そ、それは、まぁ……禁則事項だよっ」


 なんだか笑顔で誤魔化されてしまった。

 まぁ調べる方法なんかどうでもいいが。

 

 「と、とにかく。あの処刑人、『ああああ』なんだけど……」

 

 「あぁ」


 「『シフトダイバー』という『コードオールギア』の改造版みたいなのを使ってるみたいなんだよね」


 「シフトダイバー?」


 「そう、詳しくは分からないけど、コードオールギアの脳との信号のやり取りのタイムロスを極限まで削るようになっているんだって」


 「……なるほど、それならば速すぎたことの説明もつく」


 「それで、だから……こっちもシフトダイバーを使えれば、勝てる、かもしれないんだけど……」


 シャナが急に言葉に詰まり始めた。

 

 「シフトダイバーは、フェアリーラビリンスでは使うには危なすぎるぞ?」


 と、横からフリーダムが言葉を挟んだ。

 シャナがかなり驚いたように目を丸くしている。


 「俺も詳しくは知らないけど、あれは信号変換をかなりはしょってるらしい。だから、あらゆる感覚が100パーセント届く」


 「100パーセント……ということは」


 「死ぬほどのダメージを受ければ、ショックで死にかねない」


 ――そんなことがありえるか?


 そういえば、数字上では大したダメージではなかったはずの、俺の投剣。五月雨があいつの腕を貫いた瞬間、間違いなくあいつは苦痛の色を見せた。

 おかしいんだ。

 あいつの剣が俺の胸を貫いた時ですら、重い感覚はあるが、表情をゆがめるほどの激痛など感じてはいない。

 それは当たり前だ。これはゲームなのだ。


 だが、あいつがやっていたのはゲームではない。死と隣り合わせ、本気の殺し合いと言っても過言ではない……


 勝てる、はずが無かったわけだ。こっちは遊びで、敵は本気で命を賭けているんだ。


 「というか、なんでお前等、そんなこと知ってたんだ?」


 俺はさっきから自分の中で大きくなりつつあった疑問をぶつけてみた。

 だが2人は俺から目をそらして、少し焦り気味だ。

 フリーダムが突然何かを思いついたようにこちらを見る。


 「ご都合主義ってやつさ」


 「違うだろ」


 次にシャナが口を開いた。


 「秘密、だよっ♪」


 「やん、シャナちゃん可愛いっ」


 「ありがとーっ」


 ……どうでも良くなってきてしまった。

 なんだかフリーダムは、時々おかしい。いやまぁ、いつもおかしい事はおかしいんだけどな。


 「『シフトダイバー』なら、俺は用意できるかも」


 「ま、マジか?」


 「まじまじ、おおマジ」


 「な、なんで?」


 「ご、ご都合主義というやつさ」


 ほんとにご都合主義だけど……


 「シフトダイバーを使って、強引にログインする準備は、私ができる」


 「マジかよ……お前等何者だ?」


 「秘密だよっ♪」

 

 そうかよ……


 この2人にほんとにそんなことができるなら、俺はあのやろうと対等の勝負ができる、かも知れない。けどそれは、ゲームじゃない。殺し合いだ。

 俺に殺し合いができるか?

 

 と、目の前に光の柱が伸びた。

 そして中から、プレイヤーが姿を見せる。黒い長髪、背中に大きな鎌を背負った男。カーターだ。


 「よう。シャナ、漸く復帰か」


 「はいっ」


 「黒神……被害は、増えている。あの処刑人、次々と高レベルプレイヤーを狩っている」


 「そ、そうか……」


 誰かが、止めるなければならない。

 普通はフェアリーラビリンスの管理人が止めるだろうけど、そうも行っていない。戦うための術は、今ここに揃っている。

 あとは、俺の覚悟。


 ――まぁ、借りは返すしか、無いよな。


 「みんな、バックアップは頼むよ」


 「黒神! お前なら、そういうと思ってたぜ!」


 フリーダムが笑いながら言う。簡単に言いやがる。


 「無理は、ダメだよ!? ほんとに危ないんだから」


 「あぁ、分かってる。それで、どこで、どうやってそのシフトダイバーってのを使うんだ?」


 俺が言うと、カーターが頭にクエスチョンマークを浮かべる。


 「シフトダイバー?」


 「カーターには後で説明する」


 シャナとフリーダムに俺は向き直る。


 「うーん……場所は……」


 「俺はシフトダイバーの用意はできるが、場所は無理だ」

  

 「じゃあ、私の家でいいかな?」


 「オッケー……」


 シャナの、家?」


 「場所知らん」


 「大丈夫、黒神くんの家からそう遠くないから」


 「なんで俺の家の場所を……」


 「はっ!? あ、あぅ……秘密」


 謎は深まるばかりだ。

 シャナとフリーダム。何者だろうか。まぁそれも、すぐに分かるのか。


 「三人とも、家は近くだね。今すぐ来れる? 地図送るから」


 「「なぜ、俺の家の場所も……」」


 「ひ、み、つ」


 笑顔で誤魔化し続けるシャナ。本当に謎だ。


 「じゃ、ログアウト後、すぐねっ」


 そう言い残し、シャナは光の柱に包まれて消えてしまった。

 いやいや、待て待て、どうやって地図を送る気だ?


 「って! フリーダムまでログアウトしてどうする!」


 俺が叫んだ時には、その姿は光とともに消えていた。


 「わ、分からん、だが、なるようになる気がしてきたぞ」


 「カーター、俺もだ」


 なんだかそんな気がするから、俺はメニュー画面を開き、ログアウトボタンを押す。

 確認の画面が表示されるので、はい、を押す。すると俺の周りを光が包み込み、体の感覚が無くなっていく。そして闇が訪れる。


 少しして、意識が覚醒した。


 


 ※




 「な、なぜ……」


 目覚めた俺は、驚愕した。

 ブーブーと、振動しながらメロディーを流している俺の携帯には、知らないメールアドレスからメールが届いていた。


 送信者:XXXXXX@XXXX.ne.jp

 件名 :シャナです^^

 添付 :map

 本文 :細かい事は気にしないでねっ><

     地図は添付してあります。


 細かいことって……

 気にするに決まっている! ハッカーなのか? シャナはハッカーなのか!?

 犯罪の域だ。


 地図を表示する。

 俺の家から、原付で飛ばして20分くらい。確かに遠くない。


 ちゃっちゃと着替えを済まし、原付のキーを持って、家を飛び出す。


 「え、え!? 進? まさか風邪? 病院いくの?」


 「戦ってくる」


 「あ、え? こ、ここは現実よ?」


 「別に仮想と現実の区別がつかなくなったわけじゃないよ、母さん。行ってきます」


 「……よく分からないけど、行ってらっしゃい」


 原付にまたがり、キーを挿す。

 そして発進。目的地は、地図に示されたシャナの家。


 俺は道路を目的地目指して突っ走っていった。

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