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第20話:フェアリーラビリンスの謎

 決闘開始の合図から、ほんの一瞬。

 ほんの一秒にも満たない。それだけの時間で、敵の剣はすでに俺の眼前まで迫っていた。

 辛うじて体を捻りそれをかわすが、斬撃の余波が俺の体を後方へと弾き飛ばす。


 「速い……」


 多対一の戦闘というのは、当然だが2人、もしくはそれ以上の方が有利となる。

 それは、現実だろうと仮想だろうと同じ。

 敵は、おそらく無駄を最小に抑えた、完璧な攻撃を仕掛けたが、それでも攻撃の後には技後の硬直がある。

 そこを衝かれれば、好くなからずダメージは与えられる。

 

 というのはどうやら、俺が作り上げてしまっていた小さな常識であったようで、敵はその常識を軽々と打ち破って見せた。


 避けられない技後硬直、そこを狙うカーター。

 だが硬直は、カーターの鎌が敵の首に掛かる直前に解除され、そこから強烈なバックステップで鎌を回避し、さらには反撃の剣を振るう。

 剣はカーターを軽々吹き飛ばし、HPバーを容赦なく削った。


 「悪いな、これがレベル制VRMMOだ。俺とお前達の間には、レベルという数字でしかない大きな差がある。だがな、ゲームである限りは、強さは数字が全て。お前達に勝ち目は無い」


 「それはやってみなけりゃ分からない……と、言いたいんだけど、それだけじゃないだろ」


 「……」


 ギャラリーは、会話の意味が分からないのか、あちこちでざわめいている。

 カーターも最初は意味が分からなかったようだが、すぐに納得したようで、苦笑を浮かべた。


 「なるほどな、『管理プレイヤー』か。そいつがこんなことするとなると、『当選プレイヤー』以上に反則だぜ」


 「おいおい、俺も反則扱いかよ……」


 当選プレイヤーは、テストプレイに参加した少数のプレイヤーで、テストプレイのセーブデータの引継ぎができるというメリットがあった。

 俺がこれに当たるが、『管理プレイヤー』はちょっと違う。


 そもそも管理プレイヤーというのは、ゲームを楽しむユーザーの事を指してはいない。

 フェアリーラビリンスは、常にシステムに監視されているが、それでは分からないこともある。

 プレイヤーキルは一応認められているが、あまり悪質な場合は管理プレイヤーによる警告、そして従わない場合は罰則を与える。


 だが、それだとおかしい。


 管理プレイヤーは、システムと同等の権限を持っている。

 だから悪質なプレイヤーは、キルコマンドの実行でゲームオーバーにもできるし、即刻強制ログアウトさせることもできる。


 あらゆるパターンを想定して、プレイヤーの能力は相当高いと聞くが、自ら決闘をするような形での罰則は聞いたことが無い。

 それにこいつがやっている事は、ほとんど通り魔だ。

 とてもじゃないがゲーム内の治安を維持する管理プレイヤーには見えない。


 「……そこまで分かっているなら、勝ち目が無いことも分かるだろう」


 「どうだか。まず、お前がなぜ、システムの権限を使用していないか、というのが引っ掛かるな」


 「……」


 「お前の動きは速すぎる。それはシステムの力が働いているようにも見えなくは無いが、回りくどすぎだ。システムに干渉できるなら、俺とカーターを消すくらいできるだろうからな」


 ――となると、こいつの速さは、こいつ自身の才能ということになるのか?

 それならどうしようもないとも言えるが……

 どう考えても速すぎるんだ。


 「ここから俺の予想だが、お前は元管理プレイヤー。そして何らかの理由でそれをやめた。そして、何らかの理由をもって、その時のセーブデータを引き継いだ上でここに現れ、処刑人としてプレイヤーを倒している」


 「……驚いたな、だが、そこまでだろう」


 「?」


 「前半は正解だ、流石だな。だが」


 ――!?


 ああああ、の姿がぶれた。

 直後には、剣を構え、俺の目の前まで迫っている。構えたままだった五月雨を振り下ろし、カウンターを狙う。

 が、今度はああああの腕から先のポリゴンが歪む。

 ものすごい速さで突如方向を変えた大剣が、俺の胸に突き出された。


 ドン、と強い衝撃が突き抜けた後には、痛みではない、重たい感覚が残った。

 剣は見事に俺の体を貫いている。


 「黒神、お前は危険だ」


 「……は? 俺は普通のプレイヤーだっての」


 戦闘狂ではあるけどな、熱烈なゲームマニアだと思ってくれ。


 ……HPバーは、今の一撃でほとんど持っていかれたか。

 次の一撃には耐えられないし、この状態なら、俺が攻撃するのより、カーターが援護に入るのよりも、こいつが俺に止めをさすほうが早いだろう。

 チェックメイトらしいな。

 絶対的な、レベルの差。今まで感じたこと無かったな。なにせ最前線に常にいるうえにレベル上げ好きだからな……


 数字が全て――


 じゃ、無いだろ。


 「はぁっ!」


 投剣スキル。

 本来、手裏剣みたいな小さな武器で不意打ちを狙うような、技。致命傷にはなりえないが、当たればダメージはある。

 後はカーターを信じるしかない。


 五月雨が一直線にああああの首めがけて飛ぶ。

 そのまま貫ければ、レベルの差は大きいが、そこそこダメージはあるだろう。


 だが、五月雨は直前でああああの腕に阻まれた。

 刀身は腕に突き刺さったが、これではダメージはほとんど無かっただろう。

 

 「……ぐっ」


 ああああが僅かに揺らいだが、すぐにまた体勢を戻し、腕に刺さったままの五月雨を、腕を振り遠くに飛ばす。


 直後に、俺の胸に突き刺さっていた大剣が引き抜かれた。

 体に力が入らなくなり、地面に倒れこむ。徐々に暗くなっていく視界には、『You are Dead』と、俺の敗北を知らせるメッセージが浮かび上がっていた。

 これで俺はデスペナルティを背負い、また町のギルドから再開……

 だが、あいつは俺がログインする限り、また倒しに来るという。無理だ、敵わないぞ、あれ。数字が全て……じゃないはずだけど。


 でも、アレは無いだろう……

 チートじゃねぇか。

 

 ――まぁ、だからって俺がこの世界から去る事は無いけどな。


 全ての感覚は失われ、真っ暗になる。



 ※




 少しすると、徐々に視界ははっきりしてくる。

 だが体は無い。

 俺は1年くらいフェアリーラビリンスをやっているが、この画面を見るのは初めてだ。

 青い世界に、ウインドウだけが浮かんでいる。俺のこれまでに稼いだ経験値が差っ引かれていき、手持ちのコルも減り、手持ちのアイテムからもいくつかをランダムにロストする。

 貴重な回復アイテムが無くなる。

 

 ……なんだか、これは嫌だな。

 ああああには絶対にリベンジしたいが、今のまま何の作戦もなしに挑んでも勝ち目は無い。

 ……少し考えないとな。


 コンティニューするか? というシステムからの問いかけに、俺はノーで答えた。

 再び視界が真っ暗になっていく。




 ※




 「……はぁ」


 意識が覚醒した。

 身体的な疲労感は当然無い、そして精神的疲労感も今は感じていない。なによりも、ショックだ。

 俺は勝つことも負けることも、戦うことも逃げることも、ゲームの中の一部分だと思っているが、敵はどう考えても同じフィールドでゲームをしている相手ではなかった。

 負けた、というよりも、ゲームにすらなっていなかったことがショックだ。


 どうするか。俺があの土俵に上がるか、敵をこちらの土俵に引きずり落とすか……


 「難しいかなー」


 とりあえず、ログインするだけなら大丈夫だ。

 町のエリアから出ない限り、決闘を承認しなければ相手も自分も無敵状態だから、やられる事はない。


 ただ、仮に勝てても意味が無い。

 あいつの目的が分からないと、どうしようもないんだよな……


 「ふぅー」


 再びコードオールギアのスイッチを入れる。

 そしてまた机に突っ伏す。

 脳から体への信号は遮断され、そして全てがコードオールギアへ、そして日本のどこかにあるフェアリーラビリンスのサーバーへと繋がる。

 そしてサーバーの中に創り上げられている、仮想世界へと俺はもう一度向かった。




 ※




 白い光の柱に包まれて、俺は『ターミナル』のシステム運営ギルドの中に出現した。


 目の前には、白い特攻服姿のPCプレイヤーキャラクター、ツールが立っている。

 ツールは俺の姿を見ると、信じられないものを見たような顔になった。


 「……黒神が、負けるほどなのか……」


 「反則だよ、アレは無い」


 近くの椅子に腰掛け、腰の愛刀、五月雨を抜く。

 ゲームオーバー直前にああああ目掛けて投げつけたが、ちゃんと俺の手元に帰ってきているようで、とりあえずは一安心だ。


 「あいつは、俺がここに来る限り、何度でも倒すと言った」


 「……なんだそりゃ、お前恨まれるようなことしたかよ」


 「してない――というか、多分そういう問題じゃないんだ。俺ならともかく、同じようにあいつにやられたシャナまで人に恨まれるような事はしないだろう」


 「そうだな、黒神ならともかくな」


 「……あぁ」


 ちょっと引っ掛かったが、気にしないことにする。


 「でも、それならこんな場所にいていいのかよ」


 「……バカだなツール、町の中以上の安全地帯なんか存在しねぇよ」


 「あ、そうか。ここは非戦闘エリアだよな」


 だから、ずっと町の中にいれば、俺はああああに出合うことは会っても、倒される事はまずない。決闘を承認さえしなければいいのだ。

 

 「けど、俺はあいつを倒す!」


 「……黒神、まぁ気持ちは分かるけどよぉ。これはもう、管理者に通報した方がいいんじゃないか?」


 「そんな簡単にいくなら、とっくに誰かが通報しているだろう」


 ――とにかく分からないことが多いな。

 あいつが管理プレイヤーのアカウント、もしくはその引継ぎのデータを使用している理由。

 そして、あの尋常ではない反応速度。

 フェアリーラビリンスの開発、もしくは運営に関係のある人物であることは間違いないから、そこら辺の情報を何とか手に入れられればなぁ。


 フェアリーラビリンスの開発は、コードオールギア開発開始と並立して進んでいたプロジェクトであった、らしいというのは有名な話だ。

 だが、そうだからどうというわけでもない……


 開発は20年以上の時間を要している。

 

 ……ダメだ、やっぱり俺の手元の情報じゃ何の推測もできない。


 「誰かいないかなー」


 「誰って?」


 「フェアリーラビリンスの裏側に詳しそうな人」


 「う~ん、居たとして、一プレイヤーの俺達に情報をくれるかというとなぁ」


 「そうなんだよなぁ」


 基本的に、コードオールギアの構造的な事は、企業秘密とされている。

 人体に悪影響が無いということと、その理由などは全部公開された。

 脳から体の末端神経に送られる信号を変換し、機械が読み取る。それだけだから、体に悪影響は全く無い。やりすぎると、時々頭痛などがあるが、それは脳が疲労しただけ。ということだ。


 だが、どうやって脳からの信号を機械が読み取っているのか、逆に機械から脳に伝えているのかはトップシークレットらしい。


 さらにフェアリーラビリンスの方。

 これもほとんどが企業秘密とされている。

 サーバーの場所、開発された場所、プログラムの仕組みはそりゃ公開しないだろうが、開発者も、責任者を始め一部は公開されているが、全員は公開されていない。


 そりゃまぁ、超高度な技術だし、他企業に盗まれるのを嫌がるのは分かるけど……


 「何とかなら無いかなぁ」


 「……ハッキングとか?」


 「いや、それはまずいし、それにフェアリーラビリンスのサーバーは場所も分からない。開発企業の方は、日本最強の強固なセキュリティとか言われてるんだ。どっちにしろ、無理だよ」


 「うーん」


 しばらく考えていたが、名案は浮かばなかった。

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