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第19話:エグゼキューショナー

 1日、24時間という時間が流れる。

 現実世界では、日が昇り、そして日が落ち夜になるという流れが一度だけ。だがフェアリーラビリンスという仮想世界において、一日は6時間というサイクルで流れるため、4日が経過したということになる。

 そして、今はあの日から3日が流れた。

 あの日、というのは、俺が2日連続で脳を酷使しすぎてゲーム中に眠りこけてしまった時の2日目のことだ。

 フェアリーラビリンスでは、12日が流れた。

 俺は51層目のボスを倒し、突破。そして52層目はカーターたちが突破してしまっていた。

 たったの3日で2つの階層が突破されるというのは、発売初期からこの世界のいる俺からしても異例の事態であり、かなり驚いてはいたのだ。突破したのは俺か、俺の知り合いではあるが。


 ――だが、それよりも異例、そして異常な事態が、フェアリーラビリンスでは起こっている。


 俺は今日も、フェアリーラビリンスにログインする。


 全ての感覚が断たれる。最初はこれに恐怖すら感じたものだが、今ではこれも普通。そして10秒もすれば、あたりは白い光に包まれ、さらに数秒待てば、そこはバーチャルリアリティ。

 フェアリーラビリンスの中だ。

 

 ここは『ターミナル』

 50層目という、フェアリーラビリンスの中間地点にある巨大な町、というか都市であり、俺は現在ここを拠点としてゲームを攻略している。


 「おう、黒神」


 「ん、あぁ、ツール。お前もここに来たのか」


 「まぁな、これだけでかい都市となると、商売魂が騒ぐぜ」


 「なんだよここでもインチキ商売やんのかよ」


 「なっ! バカ黒神! 客が来なくなっただどーすんだ!」


 俺の口を塞ごうと、伸ばされたツールの手を軽く避ける。

 ほんの4日前、ターミナルはガラガラだったが、今では随分と活気が良くなっている。

 50層はかなり深いが、ターミナルまでたどり着いてしまえば安全だし、ここにはコロシアムもあれば、カジノなど娯楽の施設もある。

 多分かなり長い時間、ターミナルに居っぱなしのプレイヤーもいるだろう。


 「あぁ、そうだ。ツール、五月雨がまた随分ぼろぼろでさあ、直してくれないか?」


 「……しょうがねぇなー。ただしお代は取るぜ」


 「じゃあイザナギの時のドロップアイテムやるから」


 「……いいのか? この『クサナギノツルギ』ってのは相当のレアっぽいぞ?」


 「それ名前は武器っぽいけど、装備できないんだよな」


 「うーん、確かにそうみたいだな」


 草薙の剣。たしか日本の神話に出てくる剣の名前だったはずだ。


 「じゃあクサナギノツルギはダメ」


 「ちっ、まぁいいぜ。俺がどうにかできそうにも無い。じゃあ五月雨かせ」


 五月雨を鞘ごと抜き、ツールに渡す。

 ツールはかなり高い鍛冶スキルを持っている。だがまぁスキル任せのこの世界で鍛冶というのは、別に高温に刀を熱してカンカンたたく事はしない。

 スキル任せに金槌で刀を叩くと、なぜか綺麗に仕上がるのだ。

 俺のようなスキルの無いものがどれだけがんばって叩こうと、刀は鈍にしかならない。


 「ほらよ」


 「おっと、流石だな。仕事が速い」


 「ふん、スキルがあれば誰でもできるがな」


 「いやいや感謝している」


 メニュー画面を開き、イザナギのドロップアイテムを送る。


 「しかし、どう考えてもぼったくりだよな」


 「まぁそうだな」


 「おい待てハゲ。お前が認めてどうするんだよ、このインチキ野郎」


 「なっ、腕は確かだぜ! あとハゲじゃない!」


 「どうだか、現実では、頭ツルツルのツールさんなんじゃねぇの?」


 目の前の男は、今は白い特攻服に身を包み、戦いとなればメリケンサックを使用する、なんだか全時代的なヤンキーのような男だ。

 しかも目のしたには刺青、見た目だけで言えば相当厳つい。

 だが実態は、35のおっさんだ。

 それを知ってしまうと、もはやこいつの服装や外見はギャグでしかない。


 「ぐっ……黒神てめぇ」


 「悪かったよ、ジョークだ」


 五月雨の刃を見る。

 今は刃こぼれ1つ無く、美しく、怪しく光を反射している。攻撃補正は+4。


 「そういえば黒神、知ってるよな? あの噂」


 「……処刑人のやつか?」


 「ああ、後はもう一個旬の話題も仕入れてるがな」


 「旬の話題?」


 「まぁそっちはいい、とにかく処刑人のほうだ」


 処刑人。

 今フェアリーラビリンスの都市伝説のようなものとなっている。

 3日前から突然広まりだした噂で、巨大な大剣を装備したプレイヤーがあらゆる敵を一撃で処刑しながらダンジョンをどんどん進んでいるというものだ。

 敵となるのは、モンスターだけではなく、道を塞ぐPCプレイヤーキャラクターも問答無用で切り伏せていくらしい。

 俺のような戦闘狂……というわけじゃないらしい。戦闘を楽しむような様子も無く、どんな敵も機械的に倒していくそうだ。


 正直、最初はくだらない噂だと思ったが、目撃情報はすごく多く……少し前には、俺の知り合いがそいつにやられている。

 俺のフレンド登録したPCの1人であるシャナ……

 やられたのは昨日、そしてそれからまだログインした様子が無い。

 だが俺に一通、メッセージが送られていた。


 差出人:シャナ

 件名 :気をつけて

 本文 :処刑人は黒神くんを狙っているみたい……


 意味が分からないが、俺を狙っているというのなら、いつでも来いという話だ。

 

 シャナが自分から別のPCに仕掛けるはずが無い。

 つまり、その処刑人とやらは自分からシャナにプレイヤーキルを仕掛けたわけだ。

 ――仲間の敵討ちとか、柄でもないし、これはゲーム。楽しめばいいんだ。


 ……けど、ちょっと違うだろう。

 とりあえず処刑人とやらとは一度手合わせしたいな。


 「それで処刑人だけど、名前が『ああああ』だそうだ」


 「ああああ? ふざけすぎだろ」


 「ふざけてるというか、適当だな」


 「まぁ名前にケチつけようとは思わないけど……見つけたら、決闘だな」


 「お? 怒ってんの黒神」


 「怒ってないよ」


 でも出会ったら容赦はしない。


 「さっき大変だったぜ」


 「? なにが?」


 「この話をフリーダムも聞いてな。ありえないくらい怒ってどこか走っていった」


 「フリーダムが?」


 ……とりあえず、あいつにメッセージでも送ってみるか。


 メニュー画面を開き、メッセージを作成。

 送り先をフリーダムにするが……その表示色は赤。属性DEAD。つまり死亡を表している。


 「さっきっていつ頃だ?」


 「うーん、黒神が来るほんの数分前だ」


 「近いな……ちょっと行ってくる」


 「は? どこに?」


 「トイレだ」


 「いやいや、ここは仮想世界……ってマジでどこ行くんだ!」


 後ろで何か言っているツールを無視して、俺はギルドを出た。


 ターミナルはものすごく広い。

 敵がこの都市の外にいようと、中にいようと、出会える可能性は低い。

 だから考えろ。

 フリーダムは、十中八九、ああああを探していた。そしてああああは、どんどんダンジョンを下に進んでいるんだ。

 つまり探そうと思えば、こちらはダンジョンを上っていけばいい。


 つまりターミナルを、49層に上がれる地点を目指して一直線に進めばいい。


 長いターミナルの道路を一直線に走っていく。


 途中、見知った顔を見つけた。

 

 「カーター!」


 「お、黒神。……お前もか」


 黒の長髪をなびかせながら、カーターは走っていた。

 背中には巨大な鎌を背負っている。


 「こっちにいるのか?」


 「分からん。だが、目撃情報があるのは向こうだ」


 2人並んで都市の中心を全速力で走っていく。

 随分と人通りも増えたため、歩いていたプレイヤーは何事かとこちらを振り返っている。中には俺とカーターがを知っているのか、後ろをついてこようとするプレイヤーまでいる。

 だが普通に走っているだけで、そいつらは振り切れてしまう。


 俺もかなりスピードを上げている方だが、カーターもやはり速い。


 さらに進む、ついに都市の中央の広場までたどり着いた。

 そこでは今、決闘が行われている。


 「あれは……誰だ?」


 「知らない顔だが、3対1だな……。っ! あの1人の方……!」


 「ああああか! ふざけた名前しやがって!」


 「そこなのかよ」


 「いや、全てふざけている!」


 決闘の周りのギャラリーを掻き分け、近づく。

 ああああというプレイヤーは、黒い鎧、顔も黒いヘルムで隠されているが、浮かび上がるプレイヤー名は『ああああ』。HPはまだ完全に残っている。

 どうやら決闘はまだ始まってすぐらしい。


 「ああああとかいう奴……3対1の決闘を受けたんだな」


 カーターが呟く。

 確かにそのとおりだ。ここは街中、決闘を受けさえしなければ、互いに無敵属性なので戦闘にはならない。

 しかし奴は受けたんだ。この不利な条件での決闘を。


 「相当の自信があるんだろうな」


 ああああが剣を抜いた。

 その刹那、ああああの体がぶれた。

 世界最高とも言える、最高レベルのグラフィック性能をもつフェアリーラビリンスではあり得ないこととも思える現象だった。

 ポリゴンが僅かに欠ける。何か変だ。

 速すぎる……


 そしてものすごい速さで剣が振られる。

 剣のポリゴンも僅かに崩れている。


 「「「うあぁあああ!」」」


 3人は吹き飛んだ。

 3人とも全員の腹部に斬撃の後が光っている。そしてエフェクトが僅かに遅れて弾けとんだ。


 「……おかしい」


 「あぁ、ポリゴンが欠けるほどの速さか……」


 「いや違う。カーター、よく考えてみろ。フェアリーラビリンスのポリゴンの性能は、おそらく世界最高。あれよりもハイスピードな動きにも対応する事は容易であるはずなんだ」


 「……だが実際に」


 「そうだ、実際にポリゴンは追いついていない……あれは、本来システムが設定した速度を超えているんだ」


 システムは、人間の脳の反射にも対応できるはず。つまり意図的に体を操作する信号で、それを上回る速さを……

 なんなんだ、あれは。

 まさか人間じゃない……? あいつは、AIか? AIであるならば、説明はつく。だがそうなると、一般のPCが狙われたことの説明がつかない。

 それにシステムが用意したAIが、システムの設定範囲を超えたアクションを起こすだろうか……


 そうなると、あいつの脳の信号の速度は純粋に人を超えているということなのか……?


 「冗談キツイな、勝てないぜ、あれ」


 「同感だな、正直勝てる気がしないのだが……」


 「俺はやるぜ」


 「当然俺もだ」


 「……だが、サシで勝てるとは思えない。共闘と行こうぜ」


 「そうだな」


 負けた3人が消滅する。

 決闘のルールがなんだったか知らないが、一撃でHPを削りきられてしまっては、まぁゲームオーバーになっちまうよな。


 ギャラリーから一歩前に出る。

 ああああがこちらを向いた。

 するとああああが口を開いた。といっても顔は隠れているから、表情とかは全く読み取ることができない。


 「黒神か……」


 「そうだ、俺を狙っているそうだな」


 「分かっていて出てきたのか?」


 「当然だ、俺は戦うのが好きだからな」


 「……悪い事は言わない、フェアリーラビリンスを去れ」


 「はぁ?」


 「お前がここにいる限り、俺の邪魔をする限り何度でも倒す」


 ああああは剣をこちらに向けた。


 俺はメニュー画面を開き、決闘の申し込みをする。

 

 「2対1だが、受けるよな?」


 「いいだろう」


 俺の後ろからカーターが出てくる。

 それに気付いたああああが、さらに言葉を続ける。


 「なんだ、もう1人とはお前か」


 「俺を知っているのか?」


 「いや、有名なだけだ。フェアリーラビリンスの2トップとしてな」


 俺とカーターも武器を構える。

 ああああは、メニュー画面を一瞬操作していた。

 

 直後に、決闘が始まった。

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