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第18話:ある男と妖精たち

 「……まずいな……」


 ディスプレイにはある世界が映っている。

 ここはとある仮想世界。そしてディスプレイに映っているのは、フェアリーラビリンスという1つの仮想世界。

 妖精たちが住み、プレイヤーはダンジョンの最下層を目指して冒険を続ける。VRMMORPGという概念の元に作られたそこでは、今日もプレイヤー同士、もしくはプレイヤーとNPCが戦い続けている。

 だがディスプレイに映っているのは、戦っているプレイヤーではない。

 そこにはNPCしか映っていない。

 だがそれは、NPCとは言えない。


 「クロ……カミ、か」


 ため息がこぼれた。

 ついに、俺がじきじきに動く時が来てしまった……

 当然覚悟はしていたが、こんな事はしたくは無かったんだ。しかし、最悪のシナリオを避けるために俺はここで踏ん張らないとならない……

 無限に続くかも知れない。

 無意味かもしれない。

 それでも俺は、やるしかないんだ……


 己の犯した大きな過ちに、これがただ1つ報えることなんだ。


 ――そう、信じるしかない




 ※



 

 『あぁん、もう! どうしてわたしはスルーされちゃったのよ!』


 真っ白の空間。

 どこまで続いているかを視覚では認識できない、完全な白。その中に、いくつかの光の玉が浮かび、会話をしている。それぞれは別々の色に輝いている。


 『しょうがねぇって。そんな場所にいるんだから』


 『ほんとだよー……わたしもサラマンダーみたいに分かりやすい場所だったらなぁ』


 『ははは、私のは砂漠にあるからね。たしかフラウのは――』


 『滝壺の……底。なんでこんな場所なのよーっ!』


 『デザイナーに文句言ってくれ』


 薄い水色の光の玉の叫びを、赤い光の玉が聞き流しつつなだめるという、実におかしな状況。

 そこにふわふわと、黒と薄いクリーム色の光の玉が近づいていく。

 最初に声を出したのは黒の光の玉だ。


 『まぁ……そう叫ばないで……』


 『だってぇ……暇なんだもん、シャドウぅ……』


 『私なんて辺りをプレイヤーが通るのを見たことも無いわ』


 『そ、そっか……シャドウはすごく深い階層にいるもんね』


 次に声を出したのは、薄いクリーム色の光の玉。


 『でもフラウの場所は何でそんな場所なんだろうねー』


 それに黒い光の玉、シャドウが答える。


 『それはきっと……デザイナーがフウラを虐めたかったからじゃないの?』


 『絶対違うよっ! わたしは40層目にしては強すぎるからで……』


 『それならルナだって強いわよ……?』


 『うぐぅ……わたしの方が強いの!』


 『はいはい……でもどちらにしても、ルナだって45層目相当のレベルのプレイヤーではまず敵わないと思うけど?』


 『あ、でも私負けちゃいましたよ』


 『あぁ、黒神くんでしたわね……私のところにも来ないかしら』


 『あはは、シャドウと黒神さんかぁ、どっちが強いだろう……でも大丈夫、きっと彼はそこまで行きますよ』


 『随分と、気に入ってるわね』


 『そ、そんなこと、ないよー?』




 ※




 「やぁっ!」


 ズバッ、とブロードソードがモンスターを斬り裂く。

 2足歩行で、なんだか人みたいな形でウサギの耳のついたモンスター、『兎人』はHPバーの全てを失って消滅した。

 そして同時に、今日2回目になるレベルアップの軽快なメロディーが頭の中に響いた。


 「やった! レベルアップ!」


 「大分慣れてきたね」


 すぐ後ろでは、かえでさんが杖をしまっていた。


 「これでレベルは3? だよね」


 「あ、そうですね……」


 「じゃあそろそろ次の階層に行ってみようか」


 「次の階層ですか?」


 「うん、ここは地下1層目だから、次は2層目。敵のレベルもちょっと上がるかなー」


 「は、はい。そうしましょう」


 「……でも、今日は疲れたでしょ? まだ初日だし、無理せず今日はこのくらいにしとこうか」


 「あ、もう時間結構経ってますね」


 「じゃあ一旦町に戻って、ログアウトしようか」


 「はい」


 ダンジョンの奥に背を向けて、町のあるほうへと向かって歩き出す。

 ……戦闘も大分慣れてきたなぁ。なんどか攻撃も受けてしまってけど、痛くはなかったし、途中からはそれほど怖くも無かった。

 それでも顔とか狙われるとやっぱり怖いけどね。

 剣技というのも使えるようになったし。次はもっとがんばれそう。そして、追いつくのかなぁ……


 「プッ!」


 「え、え? どうしたんですか……?」


 「あの人見て! 名前!」


 「名前……ですか?」


 プレイヤー1人に集中すると、ある程度のその人の情報が見える。

 HPの残量や、そのプレイヤーの名前とかなんだけど……


 『ああああ』?


 「なんていうか、ベタ?」


 「ベタすぎて逆にあんなの見ないよねー」


 「でもすごく大きな剣持ってますね……」


 「うん、そうだね。案外めちゃくちゃああいうのが強いのかもね」


 ああああさんは、私達の横を通ってダンジョンの奥へと消えていった。

 ……かえでさんの様子が変だ。


 「ねぇ、後追いかけてみない?」


 「や、やめましょうよ……」


 「いーや、行くー」


 「かえでさん……」


 かえでさんはすたすたと、ああああさんの後を追いかけていってしまう。

 ……仕方ないからついていこう。なんだか無視して帰っちゃうのは悪い気がする。


 ダンジョンを進んでいく。

 途中に何度か消滅していくモンスターを確認できたから、ああああさんは出会ったモンスターを全部倒してるんだけど……

 全くスピードが落ちていない。多分一撃かそれに近い速さで倒しているんだろう。やっぱりあんなに大きな剣を持っていたし、レベルの高い人なんだろうな。


 さらに進むと、開けた場所に出た。


 「そろそろ帰りましょうよ」


 「待って! あれ見て……」


 開けた場所で、ああああさんは立ち止まっている。

 ああああさんの行く手を、3人のプレイヤーが塞いでいたからだ。

 3人とも、私達よりもずっと強そうな装備をしていて、どう見ても始めてすぐといった感じじゃない……なにするんだろう。


 突然、1人が剣を抜いた。


 「フェアリーラビリンスは原則禁止なんだけど、プレイヤーキルも有りだからね~、あいつらやるかもよ♪」


 「か、かえでさん……?」


 「まぁ見てようよ」


 それに対抗してああああさんも剣を抜く。かなり大きいな……

 そして3人の残りの2人も武器を構えた。


 「そんな、3対1なんて……」


 「うん、それは卑怯かなー」


 「と、止めましょうよ」


 「う~ん、私達じゃ無理じゃない?」


 私が剣に手を掛けた時、3人のプレイヤーは吹き飛んだ。

 ああああさんが剣を横薙ぎに振るっていた。遅れてズシャァンと大きな音が響く。


 「え?」


 「お♪」


 3人は迷宮内の壁に激突し、地面に落ちた。HPバーが3人とも空っぽになっていて、しばらくした後に消滅した。


 「すごいねー」


 「そ、そうですね」


 ああああさんは何事も無かったように、すたすたとダンジョンを進んでいった。

 

 「じゃ、そろそろ帰ろっか」


 「は、はい。そうですね」


 私とかえでさんは町まで歩いて戻り、そしてログアウトした。


 視界が真っ白になり、そして真っ暗になる。

 音も光も何も無い数秒の後に、意識が覚醒する。ゲームにログインしたのと同じ、自分の部屋の机の前だ。


 ――ついに、行ったなぁ……


 思っていた何倍もリアルで、現実との区別がつかない。あの世界でなら、戦っているといわれても、確かにそのとおりだな、と思える。

 本当に戦っているみたいで、なんというか女の子らしくないけどわくわくした。

 お兄ちゃんは、あの世界でもっと先にいるんだよなぁ。


 「んー疲れた。ジュースでも飲もっと……」


 椅子から立ち、部屋を出る。

 廊下をのんびりと歩きながら、兄の部屋の前を通過する。だがその瞬間、部屋の中からドン、と結構な大きさの音がした。

 ……聞き覚えがある。デジャヴ? いや違う……

 思い出すだけで、顔が熱い。多分真っ赤になっているんだろうなぁ。お兄ちゃんと寝てしまうなんて何年ぶりだっただろうか。

 まぁでも、またゲームしながら寝ちゃったんだろうなぁ。


 ドアノブを掴んで回す。

 部屋の中では、やはりお兄ちゃんが床に寝転がっていた。頭から外れたコードオールギアも床を転がっている。


 ……今度は、上から乗られないようにしないと……




 ※




 『お、神殿に誰か来た』


 赤い光の玉、サラマンダーが言った。それに反応して、薄いクリーム色の光の玉、ルナが聞く。


 『誰ー?』


 『えっとなー……シャナだって』


 『え!? シャナちゃん!? 私シャナちゃんとも戦ってるんだよ』


 『それは聞いた。強いのか?』


 『うん、かなり強いよー』


 『へぇー、おもしれぇ。じゃあ行ってくる!』


 『『『いってらっしゃい』』』




 ※




 「たのもーっ!」


 砂漠の神殿。シャナの声が響き渡る。

 中は広い空洞となっていて、明かりは無い。しかし、明かりは神殿の主の意思によって炎の光で燈される。

 奥にある王座には、真っ赤な髪の女性が座っている。赤く長い髪に、赤く露出の多い動きやすそうな服。手には派手な装飾に、先端には炎がともり、それだけで近接戦闘もできそうな、刃物のついた物騒な杖を持っている。


 「いらっしゃーい、待ってたよ」


 「ふふっ、やっぱり当たりだ」


 「おおー、やる気満々か」


 「当たり前だよっ」


 シャナは腰に指した、切っ先を持たない魔法剣士の剣であるカーテナを抜いた。


 「手加減は、いらないよ」


 「当たり前だ、そんなつまんないことしないよ」


 お互いが宙に飛び、杖と剣が交差した。

 

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