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第16話:毒に散る

 振り下ろされた巨大な刃、それが俺の体に到達する刹那。

 俺は自らの武器、『五月雨』を手放して後退し、一撃をやり過ごした。目の前を通過した刃が控え室の床にぶつかり、エフェクトを散らす。

 俺は現状、武器を失っている。

 まぁそれも、新しく構えればいいだけではあるが。俺はメニュー画面を開き、火縄銃風ライフルの『種子島EX』を装備、すぐさま弾を装填し放った。

 使用した弾丸は、『閃光炸裂弾』。ダメージは少ないが、強い光で相手の視界を塗りつぶし一時的に視力を奪うことができる。まぁ、逃げの手ではあるが本命の武器をなくしては致し方ない。


 閃光が控え室を包み込む。

 キーン、という高音の中に、ボージャンのうめき声がかすかに聞き取れた。目潰しには成功したらしい。

 種子島EXを背中に引っ掛けて、俺は素手でボージャンの懐までもぐりこむ。そして拳技『飛翔拳』で顎に右の強烈なアッパーを打ち込む。


 「ぐっ……」


 「返してもらうぞ」


 僅かに体勢を崩したボージャンの腕から、刺さりっ放しだった五月雨を一気に引き抜く。そしてそのままの間合いで、縦に一閃斬りつける。

 

 「ぐぁっ!」


 ボージャンのHPバーが減少する、しかし減り幅はかなり少ない。俺のことを軟弱というし、さらにこのガタイ。やはり身体的な能力ではかなり優秀らしい。

 だがスピードでは俺の方が上と見える。


 ボージャンが俺から距離をとり、斬馬刀を横薙ぎに振るう。

 俺はこれを、体勢を落としてやり過ごし、距離を詰め、横薙ぎに風を纏った刃を振るう『瞬風剣しゅんぷうけん』でボージャンの体を切裂き、さらに風圧で吹き飛ばす。

 部屋の中を転がり、無敵オブジェクトのロッカーに激突してボージャンは動きを止めた。

 立ち上がり、斬馬刀を縦に振るう。


 ――この距離で?


 何かがあるのは確かだ。五月雨を構えて、防御の準備をする。


 前方から、空気の塊のような圧力が俺の体にのしかかった。

 こんな細い刀の防御では止められない、全身に均等に掛かる重みに俺の体は押し切られ、今度は俺がロッカーに激突することとなった。


 「『剛風剣ごうふうけん』の威力、貴様の軟弱な体では受けきれまい!」


 「ちっ、さっき俺の技でお前も飛んでただろうが……」


 俺の瞬風剣と似ているようで全然違う、多分あいつの剛風剣のほうが単純に強い。

 吹き飛ばし力は高い俺の技は、近距離で刃をぶつける必要があるが、剛風剣はおそらく吹き飛ばすのではなく押し切る。スピードを捨てた巨大な空気の塊を押し付ける技だから、距離は関係ない。


 「アッハッハッハッハ! 次で殺しやるッ」


 ボージャンが一気にこちらに直進し、巨大な斬馬刀を上段から振り下ろす。


 ――なんだこいつ、むちゃくちゃ速い!

 辛うじて横に体をずらし、刃をかわした――だが俺の体は斬撃を受け吹き飛ばされた。

 おそらく、刃が何かの力を纏っていた。そして刃はかわしたが、それが俺を切裂いた。

 俺のHPバーはまだ8割ほど残っているが、残撃はボージャンのほうが多く受けているはずなのにHP残量はほぼ同じ。とにかく手数で攻めないとやばいな。


 「うおぉおお!」


 五月雨を構え、真正面からボージャンに斬りかかる。

 だが斬馬刀で受けられる。

 でも、終わらない。剣技『飛燕』につなげ、斬り上げながら、俺の体はボージャンの頭上へと飛翔する。そしてそこから、『紅蓮破斬』で炎を纏った斬り落としで追撃する、がこれも防がれる。


 「はぁっ!」


 『旋光連華』で追撃する。体を回転させながら、ボージャンに8連発の突きを放つ。

 だがその1発目を、ボージャンは肩で受け、五月雨を強靭な筋肉でガッチリと捕まえた。押しても引いても、抜けない。


 「アッハッハ! 肉を切らせて――」


 しかしまぁ、そうなるという予測の上での攻撃ではあったが。

 その目障りな口、空気穴にしてやる。

 

 肩に突き刺さって固定された五月雨を中心にして、体をボージャンの背中側に回し、背中に引っ掛けていた種子島EXを抜き、『爆裂弾』をボージャンの首に銃口を突きつけて放った。

 

 「――骨を」


 その続きは、爆音で遮られた。

 人形プレイヤーの弱点である頭、そしてそこに最も近い位置に打ち込まれた爆弾が爆発したのだ、ダメージはかなりのものであるはず。

 想像通り、ボージャンのHPバーは一撃で3割を割っていた。だが、そこで止まるか……怖ろしい耐久力だ。


 ――しかし、結果として決闘は終わりだ。


 クリティカルヒットのエフェクトがはじけ飛び、花火のように消えていく。

 

 「……アッハッハ! 見事だ!」


 ボージャンはそれだけ言うと、何も無かったかのように元の立ち居地に戻った。

 

 ボージャンが去った後に、ドロップアイテムを手に入れた。やはり、『斬馬刀』。そしてボージャンは、いつの間にやら斬馬刀ではない、また別の武器を装備している。

 形状から武器の名前は想像つかないが、巨大な刃を持つトマホークだ。

 今すぐもう一戦交え、あのトマホークも、と行きたいところではあるが、NPCではあるがHPバー残量はすぐには戻らないだろう。おそらく決闘は断られる。


 そしてドロップアイテムの中には、『エリクサー』が入っていた。まぁ、助かるな。この場所はコロシアムでの戦いを控えたプレイヤーしか入れないから、戦いでHPを失ってしまったプレイヤーには重宝するアイテムだろう。

 エリクサーは飲めばHPバーが限界まで回復する。


 まぁ、それほどダメージを受けたわけではないが、一応飲んでおく。

 HPバーは一瞬にして完全回復する。


 準備は、できた。

 ではコロシアムで、戦うとしよう。


 立ち上がり、控え室の奥。大きな扉がある場所まで歩いていく。

 俺が扉の前に立つと、かってに重たそうな扉が開いていく。

 コロシアムは広く、観客席もちゃんとある。これは、緊張するだろうな……いまは多分NPCしか見物人はいないのだろうけど。

 

 コロシアムの中心まで歩いていく。敵らしい影はまだ見えない。


 ――数秒後、俺が入ってきたのと反対側の扉が開いた。そしてそこから、巨大な、爬虫類のような何かが二足歩行で現れた。なんだあれは?


 鎧を身につけ、その腕には巨大なランスのような武器を持ち、逆の腕には盾を持つ。

 頭は蛇のようだが、龍にも見えなくは無い。全体として緑色の近いうろこに包まれていて、瞳は赤く、こちらをジッと睨みつけているようだ。

 モンスターの頭上にはHPバーが浮かび上がっている。そして、そのすぐ上にはモンスターの名前、『ドラゴンナイトロード』という表示がある。どうやら龍らしい。

 『ロード』というのは、支配者などという意味があるが、基本的に名前にロードとつくモンスターは、同種のモンスターの中で特に秀でた力を持つ。

 俺はドラゴンナイトというモンスターと対峙した事は無いが、あれは、ドラゴンナイトの中でもかなりの力を持つ種ということになる。


 まぁ、関係ないか。


 「5連戦だからな、さっくり倒してやる」


 五月雨を鞘から抜く、そして構えた。


 それを戦闘開始の合図ととったか、ドラゴンナイトロードもランスを振り上げ、おそらく収納されていた翼を広げてこちらに突っ込んできた。


 ガィン、と金属のぶつかる音。

 五月雨とランスがぶつかり、派手なエフェクトを散らす。さらにランスを間髪いれずにドラゴンナイトロードは突き入れてくるが、動きが大きい。

 極力無駄を削った最小限の動きで、俺はそれをかわし続ける。

 2発、3発と俺が避けきったところで、ランスがさらに大きく振りかぶられる。


 「はぁっ!」


 その隙に一気に懐に入り込み、五月雨で斬りつける。


 「グアァア!?」


 「動きが直線的すぎる。それでは当たらないな」


 ドラゴンナイトロードは後ろに大きく仰け反った。だが地面に倒れる前に、背中にある翼を使い飛翔した。

 高さは4,5メートルくらい……それで俺の攻撃範囲外に逃げたつもりだというのならば甘すぎる考えだな。地面を蹴り、飛び上がり、上空にいるドラゴンナイトロードのさらに上から頭を斬りつける。


 「ギ!」


 ドラゴンナイトロードは今度こそ地面に落下し、盛大に砂埃を巻き上げた。視界が砂埃で覆われるが、俺の目はしっかりとドラゴンナイトロードの全体像を捕らえている。俺のスキルを前に、砂埃では目くらましにもならない。

 一度距離をとり、砂埃の中のドラゴンナイトロードを観察する。

 HPバーは残り7割というところ。だが別段、慌てる様子も無い。

 モンスターはHPが減少すると、多種多様な変化を見せるが、こいつはこの程度のダメージはなんでもないと捕らえているのか、それともポーカーフェイスなだけか……

 どちらにせよ、5割を切れば結果は見えるだろう。


 ドラゴンナイトロードはランスを下ろし、戦闘の構えとは思えない状態だ。

 とはいえ、それは人であればなのだが。俺の経験上、あの手の龍人系のモンスターはブレス攻撃を行う。顔をこちらに突き出した今の奴の構えは、完全にブレス攻撃だ。

 問題は、それがどんなブレスなのか。


 黄龍の『酸化ブレス』のようなこちらに状態異常、状態変化などを起こすような攻撃なら、防御すらできない。


 何が来るのかは予測できないが、直撃どころか、掠る事すら危険な技……


 ドラゴンナイトロードが一瞬頭を後ろに引き、おそらく息を吸い込んだ。

 ――来る。


 口が開かれ、放たれたのはドス紫色の気体。間違いない。『毒ブレス』、もしくは『猛毒ブレス』。掠るどころか、近づくことすら危険すぎる。


 全力で真横に飛び、転がりながらもブレスの攻撃範囲から抜け出す。俺の立っていた場所の辺りは広範囲に変色し、溶かされたように削れている。

 あのレベルの毒。『猛毒ブレス』の方だったか。解毒云々じゃなく、喰らえば体が溶ける。危険だが、そうそう連発もしてこないだろう……


 ――というのは、良識ある地下50層より上の階層だけか。

 また同じドス紫のブレスがこちらに迫っている。幸い攻撃の速度は遅いので、さっきみたいに転がるまでも無い。だがそれでも、全力のサイドステップで十分な距離をとる。

 あんな攻撃を持っているとなると、早々うかつにインファイトに持ち込むのは危険だ。

 

 メニューウインドウから、斬馬刀を取り出す。だが装備はしない。

 下級スキルな上に、熟練度も低いが……『投剣術』。つまり手裏剣だ。


 「せいっ!」


 斬馬刀がくるくる回りながら飛んでいく。


 まぁ、どうなるか分からないけど、どうせ不必要な武器だ。


 「ギィヤアア!」


 不意をつかれたらしく、ドラゴンナイトロードは慌ててかわそうとしたが、無意味に巨大な刀身がここで役に立ち、そのうろこを切裂いていった。

 チャンス! 奴の目は今完全に飛んでいってしまった斬馬刀に向いている。

 五月雨を思いっきり上段に構えて、ノーガードで飛び込む。普通は自殺行為だが、そもそもドラゴンナイトロードは武器を下ろして後ろを向くという、これ以上無い自殺行為でこちらに命を手渡そうとしているのだ。

 縦一文字に五月雨を振るい、堅いうろこの奥まで深く斬り裂く。エフェクトが弾け、ドラゴンナイトロードは悲鳴を上げる。


 全く、ロードの名が泣く。

 敵に振り返る隙を与えないように、連続で斬りまくる。この状況では威力より手数だ。


 だがドラゴンナイトロードには、背を向けても攻撃する手段が残されていた。

 突然翼が羽ばたき、


 「うわぁっ!?」


 意味不明の攻撃に吹き飛ばされた。


 HPバーが減少した。どうやら普通に攻撃を一発もらってしまったようだ。

 地面に片膝をついて、静止する。だがまずかった。もっと派手に転がって距離をとるべきだった。

 

 視界がドス紫に塗りつぶされる。


 「くっ……『飛龍旋華ひりゅうせんか』!」


 五月雨の刀身から闘気が吹き出し、龍を形成する。俺の十八番、刀の剣術奥義の1つ。

 俺が剣を振ると、龍は一直線にドス紫の猛毒ブレスの中に突っ込んでいき、気体であるブレスを巻き込み、自身の体をドス紫に変えながらドラゴンナイトロードに向かって進む。

 これはただの飛龍旋華ではない。なぜなら猛毒という凄まじい付加効果付きの剣技となっている。

 

 ドラゴンナイトロードは、自身のブレスを吸収した龍から何を感じたか、後ずさった。だが龍は容赦なくドラゴンナイトロードを喰らい、いつものように巻き込みながら飛翔はせずに、ただ溶かして抉り取った。

 HPバーが一撃で消滅し、ドラゴンナイトロードの残された体の部分も爆散した。


 「ふぅ……」


 息を1つ吐く。どうやら勝てたらしい。

 せっかくの斬馬刀は、なんかいつのまにか毒に巻き込まれて、溶けてしまっていた。


 「あと、4戦か……」


 さすがに苦しい、とも感じたが……


 俺の顔は、やはり笑っていた。やはり戦闘狂だな、でも仕方が無い。楽しくてしょうがないのだ。

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