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第9話:自由気まま

 さほど広い砂漠ではないとはいえ、一度はぐれてしまった仲間を砂漠の中から探し出すのは、さすがに不可能というものだ。

 俺はひとまず目的地である、この階層の中心に走る壁を目指すことにした。

 そもそも砂漠が狭いため、2,3度の戦闘のみで、俺は簡単に壁までたどり着くことができている。

 ただ、この壁までたどり着いてからも長い。

 なにせフロアを分断するほどの大きさなのだ。


 「ふぅー……」


 ため息が出る。

 砂漠ではほとんど敵と出会わなかったというのに、壁まで来てからこれで5度目だ。


 目の前には『ヘラクロスナイト』というカブトムシのような角と硬そうな表皮を持つ2足歩行のモンスターが1匹いる。

 敵は一切の武装をしていないが、あの角や爪が武器となり、体はそのまま鎧だ。

 厄介なことに、五月雨がほとんど通らない。


 「キシシシ」


 ヘラクロスナイトは、体勢を低くし、角を俺の下に潜り込ませる。

 ――速い、反応が遅れた。


 咄嗟に俺は角に両足を乗せ、投げ飛ばされる勢いに体を任せた。


 さすがに無傷とはいかないが、俺は距離をとる。HPバーはほんの僅かに減っている。


 これだけ距離をとれば、おそらく離脱できる。しかし、しない。

 刀を下ろし、力を抜く。


 俺の状態は、奴から見れば無防備だろう。その証拠に、勝機だといわんばかりにヘラクレスナイトは背中の羽を羽ばたかせ、こちらに直線で突っ込んでくる。

 角は硬い、表皮も断ち切れない。だが全身が鋼鉄であれば、あんなふうには動けない。

 生物の動きを忠実に再現してあるのが、このフェアリーラビリンス。絶対に、もろいポイントがある。


 俺は一気に体を緊張させ、五月雨を振り上げた。


 「ギ!?」


 ヘラクレスナイトのHPバーが一撃で消滅する。


 「バーカ、直線で突っ込んでどうすんだよ」


 この言葉は通じたか、まぁ通じていないだろう。

 ヘラクラスナイトはすでに死んでいる、ともいえるが仮に生きていても俺の言葉を理解はしないだろう。

 それができるのは、あのルナ、そしてサラマンダー。やはり彼女たちと戦っているほどの楽しさはこいつから得ることはできない。


 ヘラクレスナイトの体が爆散し、消滅した。


 さて、疲れた。こんなダンジョンのど真ん中に安息の地があるのかは微妙だ、というか無いだろう、無ければ作れば良い。


 その場にしゃがみ込み、ちょっと休もうかなぁとか思ったまさにその瞬間。木の陰からプレイヤーが出てきた。


 「黒神、か?」


 俺は五月雨に手を掛けた。だがプレイヤーは慌ててそれを制する。


 「いや、別にプレイヤーキルしようって訳じゃない。あんたを探している奴がいるんだよ」


 「俺を探してる……シャナか?」


 「そう、そうだ。今俺たちのところにいる。お前にも話があるから、来てもらえるな?」


 プレイヤーの性別は男。結構ガタイがよく、装備は背中に背負ったごつい斧。

 鋭い目に、シャープな輪郭。見た目には強そうな感じだ。


 「いいだろう」


 俺は男の背中について、歩いていった。

 

 途中現れたヘラクレスナイトは、男の斧の一撃で簡単に倒されていた。

 武器による特性などもあるが、かなりのハイレベルプレイヤーだろう。


 男に案内されたのは、テントが張られた即席の集落のような場所だ。場所的にも、ボスモンスター討伐部隊といった感じだろう。

 ざっとプレイヤーは10人くらい。テントの中にもいるだろうから、多くて20人ほどか。

 そして中央では火が燈されている。


 そこには肉をほおばって幸せそうな笑顔を見せる、シャナの姿があった。


 「よぉ、シャナ。無事だったか」


 「あっ! 黒神くん! 当たり前なのだよっ」


 まあ、ゲームオーバーになるようなことはないと思っていたが。


 「フリーダムはいないのか」


 「うん……はぐれちゃって、見つからない」


 「まぁほっといても大丈夫だろ」


 「だねっ」


 シャナは新たなる肉をほおばりながら、笑顔で俺に賛同する。

 まぁ、いいんだけど。お前は心配してやればいいのになー、と思ったりもする。


 「黒神はお前か?」


 後ろから声を掛けられた。

 長髪の男のPC。特徴的な巨大な鎌のような形状の武器を背中にのせている。


 「そうだ」


 「お前もボス討伐だろう? だったら、俺のパーティに入れ」


 「お前のパーティ? この集団が?」


 「そうだ。もちろん、ドロップアイテムは分配するし、それに俺たちはボスの情報を持っているぞ」


 「……別にいらんけど」


 「……まぁ、その答えは予想できたが、この50層目のボス。というかこの先のボスについて想像されることだが、ここからはソロでは厳しくなるぞ。絶対にパーティを組むべきだ」


 この男は何を言っているのか、まさか俺はソロプレイにこだわり続けるバカだと思われているのだろうか。そういえばフリーダムもそんなこと言ってたが……


 「分かった、ただし、この戦闘が終われば俺は抜ける」


 「ふん、構わないが、お前はきっと残ると思うぞ」


 「ないない」


 首を振り否定する。

 俺はこだわっているわけじゃないが、やっぱりソロの方がやりやすいのだ。連係とかめんどくさいし、アイテムも分配になる。

 経験値稼ぎの割合も悪くなるし、あまり利益は無い。


 一応MMORPGだから、人との関わりも楽しみなんだが、ソロプレイ向きだっていうのだけは変えられない。


 「では、そろそろ」


 「いやまあ、ちょっと待ってくれ。もしかしたら、俺の連れが来るかもしれない」


 「フリーダムという奴か?」


 「そうだ、ちょっと位置情報を送るから少し待ってくれ」


 メニュー画面を開き、メッセージを作成する。

 メッセージBOXには、なんだかツールからお怒りのメッセージが届いているのだが、無視する。新規メッセージの作成をタップし、送信先をフリーダムとする。


 差出人:黒神

 件名 :なし

 添付 :位置情報

 本文 :今すぐ来れるか?


 返信はすぐだった。


 差出人:フリーダム

 件名 :Re:なし

 本文 :了解っス∠( ̄◇ ̄)


 顔文字が好きな奴だ。

 

 「来るみたいだ」


 「そうか、では少し待つか」


 「……そういや名前は……カーターか」


 「そうだ、よろしく頼むぞ」


 特に話すことも無いので、俺はボーっと火を眺めながら座っていた。

 リアルだ。火の揺らめきも輝きも。暖かささえも。

 熱さはほぼ感じないが、暖かさは伝わってくる。


 火の前で肉を喰らい続けるシャナ。まぁ、実際に食ってるわけじゃないけど、一応満腹中枢は刺激されている、よな……?


 「うましっ!」


 「はしたないな」


 「ガーンッ! 乙女になんてことをっ」


 「うるせえ」


 何が乙女だ。そんな嬉しそうに骨付き肉にむしゃぶりつく乙女がいてたまるか。


 「あら、おいしいですわ。この骨付き肉」


 「どんなシチュエーションだよ。逆に違和感あるっての」


 というかその貴族口調は似合っていない。

 

 「うーん、トレビアン?」


 「知らん」


 「シルブプレ?」


 「意味分からないが……」


 「なんか優雅じゃない?」


 「むしろバカっぽい」


 揺らめく火を背にして、シャナは考え込み始めた。

 うんうん唸っているが、一体何にそこまで悩むのか。


 「私さ、バカっぽいってよく言われるのよ」


 「そうだなぁ……的を得ている」


 「ガーンッ!」


 その効果音的なものが、バカっぽさを倍増させているという忠告はまたの機会にしておこう。


 「うおおおおおおおお!」


 突然、集落に轟いた男の声。

 俺の丁度後ろの方から、誰かがこっちに走ってくる。その顔はひどく焦っているようだが、俺の顔を見ると笑顔になった。

 黄金の装備に黄金の槍を振り回す、フリーダムだ。頭でも金髪の短い髪が風で揺れている。しかしなぜ走っているんだ? なぜ、何に慌てているんだ?


 「来たァ!」


 「何が?」


 「ワームが!」


 「え?」


 直後、フリーダムの背後の地面が割れ、砂漠で対峙した巨大モンスター。『デザートワーム』が姿を現した。HPバーは、半分ほどまで減っている。

 フリーダムが1人で闘ったのだろうか、よく見ればフリーダムのHPバーは2割ほどだ。


 「ぎゃああああ! まだ追ってきてる!」


 「怒ってるんじゃねえか?」


 「冷静に分析してないで助けろぉ!」


 やれやれ。


 俺は腰を浮かせ、五月雨を抜いた。

 そして一歩目を踏み出す、その前に、俺の横を誰かが走り抜けて行った。

 長髪を風になびかせ、大型の鎌を持つ、カーターだ。


 カーターは途中でジャンプすると、そのままデザートワームの頭めがけて飛び、鎌を構えた。そして振り下ろす。


 「はっ!」


 「! ギギギギギ!」


 デザートワームが苦しみだし、そして動かなくなった。

 HPバーが消滅している。少しした後、体が爆散し、消滅した。


 俺は鎌の武器を初めて見たし、その職業もわからない。ただHPバーを半分ほど残したデザートワームを一撃で倒す攻撃というのは、相当な威力だと予測できる。


 「たっ、助かった! はー……」


 フリーダムは安堵に胸を撫で下ろしていた。

 

 構えた五月雨を鞘にしまいなおす。あまりに一瞬、闘う暇は無かった。


 「お前がフリーダムだな」


 「へ? あぁ、そうだぜ」


 「ボスを討伐するんだな?」


 「ああ!」


 「では、俺のパーティに入れ」


 「は?」


 予想外だった。フリーダムは1つ返事で了承すると思っていたのだが、そうもいっていないらしい。なぜか俺のほうを見ているが、理由は分からん。


 「黒神も了承済みだ、別に断るなら強制はしない」


 「マジで?」


 「ああ、そうだ。といっても、今だけだけどな」


 フリーダムは腕を組み、しばらく考え込んだ後に、首を縦に振った。


 「では、15分後に行くぞ」


 カーターは、出立時刻を宣言すると、座り込みメニュー画面を操作し始めた。


 フリーダムは、すこし止まっていたが、俺のほうへと走ってきた。


 「ほんとにパーティ加入するのか?」


 その声は若干の怒気が含まれていたように感じる。


 「だから、一時的だ。俺はやっぱりソロが好きだ。その方が良い。自由気ままにやりたいんだ、フリーダムもだろ?」


 俺が言うと、フリーダムはまた考え込んでしまう。

 しかし、今度は笑顔で顔を上げた。


 「そうだな! 自由気ままに、ゲームくらいな」


 「おお? なんか元気になってねえ? まぁ、いいや。そうだな」


 フリーダムは満足したのか、座り込むとメニュー画面の操作を始めた。シャナもいつの間にか肉を食べ終わり、メニュー画面を両手で触りながら操作している。

 俺もメニュー画面を開くことにする。

 メッセージBOXがピコピコ光っているが、やはりスルー。

 俺はアイテム一覧から、『加護』を見る。サラマンダーの加護だ。


 どうしようか迷うところだ。そもそもルナの加護がそうだったが、加護は装備したらずっと発動しているわけでもないらしい。

 ルナの加護は、多分俺がピンチに陥って発動した。


 ――やっぱ、攻めないと楽しくないか。


 サラマンダーの加護を装備することにした。

 

 これで準備は完了した。

 あとは出発の15分後を待つだけだ。 

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