第8話 I lone youをあなたに
文の両親に葬儀に出ろと言われて、両親は方々で文もなんであんなのを好きになったと言われた。
それよりもなぜもっと早く来なかったのか、なぜ最善の手を尽くさなかったのか、大きな後悔が小さな胸を襲った。
俺はアセクシャルで性別は女で男で性愛のある恋愛をしない。そういうセクシュアリティ。
なぜ文を愛してやれなかった。
そう言って通夜で文の両親は泣き崩れ、周りの親族はそれを遠巻きに見た。
最後の花を棺桶に入れる時に文を見た。さよならありがとうそう心で想って、俺は葬儀場を飛び出し広い駐車場を駆け抜けた。
レンタカーの座席に体の放ち、大声でひたすらに。
「なんでだよ。愛してあげたかった」
レンタカーということを忘れて、ハンドルを強く叩いた。
「でも俺は女で男で制限されてなくて自由のはずだろ」
「愛とか恋とか、そういうのじゃなくて」
ハンドルを叩く手を休めることは出来ない。
「一緒にきれいな花を可愛いって言い合いたかった」
「勝手に辛いと思ったのはお前だろ」
ただひたすらに違うという気持ちだった。
「全部全部、お前が悪いだろう」
違うそうじゃない。
「俺は僕は私は何も悪くないはずだろう」
「でも辛い。悲しいよ。自分勝手かもしれないけど」
「愛や恋と体を抜きにして君と生きていたかった」
そうなんだ。たったそれだけなんだ。
「さよなら、文」
俺は数時間車の中でいて、焼き場の煙が上がるのを見届けた。
ほら、一緒にいられないじゃないか。
そこから俺は文の病院へ行き全ての荷物を引き取った。
こういう映画で見る最後の手紙も無かった。
簡単な手続きのあと車で空港に行き喪服のまま大阪へ帰った。
文の両親から後日、自分の物を持って帰って欲しいと言われ、預かった合鍵で文の部屋を開いた。
何もない広い部屋と少しの荷物が文の自室にあった。
一緒に買ったぬいぐるみ、一緒に写った写真、着替えとプレゼントした香水。
ここで別れた時、いや文にちゃんと意識があって、会った瞬間に言うべきだったかもしれない。
全ては遅すぎたのだ。
I love youをあなたにと。夏が終わる。