表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

第8話 I lone youをあなたに

 文の両親に葬儀に出ろと言われて、両親は方々で文もなんであんなのを好きになったと言われた。

 それよりもなぜもっと早く来なかったのか、なぜ最善の手を尽くさなかったのか、大きな後悔が小さな胸を襲った。


 俺はアセクシャルで性別は女で男で性愛のある恋愛をしない。そういうセクシュアリティ。


 なぜ文を愛してやれなかった。

 そう言って通夜で文の両親は泣き崩れ、周りの親族はそれを遠巻きに見た。


 最後の花を棺桶に入れる時に文を見た。さよならありがとうそう心で想って、俺は葬儀場を飛び出し広い駐車場を駆け抜けた。



 レンタカーの座席に体の放ち、大声でひたすらに。

「なんでだよ。愛してあげたかった」

 レンタカーということを忘れて、ハンドルを強く叩いた。

「でも俺は女で男で制限されてなくて自由のはずだろ」

「愛とか恋とか、そういうのじゃなくて」

 ハンドルを叩く手を休めることは出来ない。

「一緒にきれいな花を可愛いって言い合いたかった」

「勝手に辛いと思ったのはお前だろ」

 ただひたすらに違うという気持ちだった。

「全部全部、お前が悪いだろう」

 

 違うそうじゃない。


「俺は僕は私は何も悪くないはずだろう」

「でも辛い。悲しいよ。自分勝手かもしれないけど」

「愛や恋と体を抜きにして君と生きていたかった」

 そうなんだ。たったそれだけなんだ。

「さよなら、文」



 俺は数時間車の中でいて、焼き場の煙が上がるのを見届けた。

 ほら、一緒にいられないじゃないか。

 そこから俺は文の病院へ行き全ての荷物を引き取った。

 こういう映画で見る最後の手紙も無かった。

 簡単な手続きのあと車で空港に行き喪服のまま大阪へ帰った。


 文の両親から後日、自分の物を持って帰って欲しいと言われ、預かった合鍵で文の部屋を開いた。

 何もない広い部屋と少しの荷物が文の自室にあった。

 一緒に買ったぬいぐるみ、一緒に写った写真、着替えとプレゼントした香水。

 ここで別れた時、いや文にちゃんと意識があって、会った瞬間に言うべきだったかもしれない。

 全ては遅すぎたのだ。



 I love youをあなたにと。夏が終わる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ