第6話 仁さん、私もあなたを愛している。
子持ちよ。子どもが林間学校でいないらしいわ。六時間コースよ。満足させてあげなさい。
そう言われてきたのは中央区長屋町の集合住宅一番奥。
『ささき』
そう表札には書いてあった。
「あら、結構早いのね。そしてまたすごいイケメンね。さ、入って。何が好き? なんでも、あっ」
「そうなんです。前払いでして」
「そうよね。ごめんなさい。名前は?」
「お好きなように」
「じゃ、仁さんで」
仁さんと呼ぶたびに、さとかの声は華やいだ。仁さん見てきれいなお花でしょ? さっき公園で可愛い花見つけてきたの。
それ彼岸花ですよ。そう言うとさとかは「あら、ごめんなさい」と言ったが、それを見て実は、さとかが作った料理には無意識に毒が入っているのではないのかと思えた。
「さて、どこまで出来るの?」
俺に元気を払いソファに座らせえて、さとかは正座した。
「どこまで、ふーん。愛してるとハグまでです」
「お腹空いたらどうするの?」
「俺が作ります」
さきに昼食をとなった。俺は持ってきた生パスタと出汁にちょっと眠くなる薬を入れた。
「出来ました」
「美味しそう! なんで出汁?」
「実は結構合うんです」
「ホントに! 誰かに教えてもらったの?」
「ええ、友達に」
胸が痛んだ。
食後は中々眠らないので子どもの事、家庭環境、他の保護者の愚痴を聞いた。
そして仁さんの話。
学生の頃に付き合っていた初恋の男性。
付き合っている期間に事故に遭って亡くなってしまった仁さん。
その時だけ目じりに涙が浮かんだら、一言「もう昔の事だから」と、薄く笑った。
「でも驚きね。本当に要望していた通り、仁さんの格好で来るんだもん。死んだあとに化けて出てきたみたい」
「化けてないです」
「知っているわよ。でもそういうところもそっくり」
狙って言ったわけでもないのだが、さとかの目からボロボロと涙が流れた。
「え、やだ。ごめんなさい」
「いいんです」
そう言って腕を広げた。最後でもないけど、ここで言うのが一番だと思った。
胸に飛び込んださとかの体温は暖かかった。
「さとか愛している」
「仁さん、私もです」
三時間以内で終わってしまった。返金をしようとすると拒まれた。
仁さんと一緒にいれたの。だから要らないわ。
そう強く言われ怒られそうだったので、おとなしく受け取った。
ありがとうとたくさん感謝されたのに俺の心は晴れなかった。