第4話 あんたなんて、すぐに。
次の週、俺は阿倍野区のタワーマンション最上階のみるくに呼ばれた。愛しているのを捧げる為に。
「あー、分かっている。あんた男娼でしょ? セックス抜きとか言ってあんたも体目当てっしょ?」
みるくはインターフォンで唐突にそう話しかけた。俺のあとで待っていた配達員がぎょっとした目でこちらを見た。
「いえ、時田クリーンの者です」
名前はコロコロ変わる。あんまりこの種のサービスは表に出さないらしい。会員制にする狙いがあるのか。
「分かった。はいはい、五番のエレベーターを上がって来て、直通だから」
この態度の割には六時間コース。時間は昼の十二時を回ったくらいだ。
直通エレベーターを上がると目の前に小さな女性が立っていた。
「あの失礼しますがご年齢は?」
「失礼ね。二十歳よ」
そう言い、現金と年齢確認証を呈示、確かに二十歳になったばかりだった。
キャバ嬢をしているらしい。そう知ったのは別に資料からではなく彼女が話したことだった。横柄な態度、話し方。でもこの人は客だ。
「あの料理でも」
「いいわ。デリバリー頼むから、寿司? ステーキ?」
「コーヒーで」
わけあってお腹がいっぱいで苦しい。
「あんた無欲なのね。驚いた」
そういうつもりではないのだが、そう思ってもらえてラッキーだった。
「私もお腹減ってないからいいわ。そうだ私が作ったらダメなんでしょ?」
「先にお金をお願いします」
「現実的ね。とりあえず二万ね。水どんなの飲んでるの?」
出した水はコンビニの百円のお茶一リットルだった。
「へぇ、貧乏ね。なんならオプションつけてくれたら十万あげるけど」
結構ですと言うと、みるくは少し寂しそうな表情をした。
「いいわ。早く言って、ほら愛しているって」
「それは最後に言う言葉でして、言ったら契約終了なんですけど」
「そうなの。ちょっと待ってなさい」
そういって、リビングから見える複数のうちの一つの部屋に入って行った。
出て来た彼女の姿は一般受けしそうな際どい服というのか怪しいやつだった。
「こうやって隣で座って、体をくっつけるとムラムラするでしょ?」
正直心中、この女は何がしたいのかと疑問だった。内ももを触る手つき、上腕に押し付けられる胸、肩に乗せられる顔。
「さぁ、ベッドに行きましょう?」
手を引かれベッドルームに連れて行かれ、その時ようやく悟った。
そうか、異性愛者はここで興奮するのかと思い立ち、何か申し訳ない気持ちになった。
みるくはきっと衝動に任せて自らとセックスをさせ、何か対価を得ようとしているらしい。
「すみません、出来ません」
「何? ここまで来て紳士ぶって、あんたも男でしょ?」
「というか、興奮しないのです」
「え」
「私、簡単に言うとアセクシャルなので」
「へ? 何それ、とりあえず大きくなっているでしょ? え?」
みるくは俺の陰部を触り驚いた。その表情はまさに「ここまでしたのに」と、いったものだった。
「何、もしかして私がわざわざこんな格好をして、ベッドまで誘導したのにセックス出来ないの?」
「申し訳に上げくいのですが、先に届いた資料に」
「見てない。え、マジで?」
「はい、大マジです」
「着替えてくる」
そう言って部屋を出ていき帰って来た彼女は身長の割には少し大きなスウェットでベッドルームに戻ってきた。