第2話 新しいアルバイト
「真くん、お金ないでしょ?」
行きつけの立ち飲み屋で、ゲイだと噂のマッチョな店長が話しかけてきた。
「ない」
「おいおい今日は正直だね。あ、分かった。フラれたな」
「フったんだ」
この店長、俺がいないところでは男のケツ定めをしているらしいが、俺の前でそんな姿見せたことない。配慮してくれているのだろう。
「大体あなたね、今日は定休日よ。なんでいつも定休日に予約いれるのよ」
「大君が日曜なら店長空いているって言うから」
大君とはここのバーの人気ボーイで俺が知らないところで知らないことをしているらしい。
「仕事、する気あるの? ないの?」
「します! なんでもします!」
「なんでもって言ったわね。来週、またここに来なさい。こなかったら」
にやりと笑われて寒気がした。
真はトイレでご飯食べる系の大学生である。
清潔感のある出で立ちをしていると思う。醬油顔で実際、よくモテるし(嬉しくない)、よく声を掛けられる(迷惑)、冗談でケツを触られた時は変な声が出た。
何もいかがわしいことは言っていない。そう音にすると。
「ひゃら~」
となる。
人の視線には敏感であの学生とこの学生は付き合っているとか、あの学生は教授と仲睦まじい、あいつら付き合ってんな。いるもんだな女性同士の教授の熱い愛。
「これよ」
一週間はすぐに過ぎた。心持ちは初めてのアルバイト面接を思い出す。
あの居酒屋は酔っ払い親父に身体を毎日まさぐられて我慢ならずに一か月で辞めた。不安と期待に胸を膨らませていた。
「あのこのペラペラの紙きれ」
「悪いわね。今、あんたに出来るのはこれくらいよ」
「アイラブユーをあなたに?」
「仕事は簡単、セックス抜きで女の家に行ってアイラブユーをささやくだけの簡単なお仕事」
「あの俺三か月後に成人で現時点ではホテヘルアウトですよね」
「ホテルじゃないから大丈夫」
「いやいや、そういう問題じゃなくて」
「いいから明日、天王寺の西阿武マンションの二〇二号室十八時から、あんたも早く帰らないと大に食われるわよ」
冗談ではなさそうだったので、すぐさま退散した。
あの店長の事だ。安全な仕事しか持ってこない、多分そうだろ、そうに違いないだろ、いや待てよ、常連みたいに話しているけど、半月前まで話したことなかったぞ、オカマってすげぇ。
あの店長が渡した紙にはこうあった。
㊙仕事の簡単な内容
溝端真殿
ハーレクインバター店長
まずこれはグレーゾーンの仕事なので、見たらすぐに処分するように。
仕事としては女性宅に行き、すぐに抱きしめてキスはせずに話を聞いてあげる。まぁ、リフレのようなものよ。あれの逆バージョンね。
過去も未来も自分から話したらダメ、どんなに仲良くなってもよ。仲良くなっても依頼人と請負人の関係は崩してはダメ。その時点でこの仕事終わるから。キスもダメ。セックスは、あんたには関係ないわね。
依頼人の住所は私の携帯からあんたに送るわ。日程も同時にね、学業優先OK、時給じゃなくて出来高と歩合。
三時間コース八千円、六時間コース二万円、お泊りコース四万円、十分延長につき三千円。
こういうプラン現金前払いよ。客がごねたら私に連絡するの分かったわね。そうそうこういうのって、女が身体を求めてくる、心配なかったわね。それじゃ、頑張ってね。