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第13話 ヤンの暴走

 俺は迷いながら、ヤンの方を向いたがヤンの視線はスタバの外に向かっていた。今座っている席は窓側で通りがよく見える。おそらく何かこの場にそぐわない物を見つけたのだ。俺の体や経験が警戒信号を鳴らした。



 ヤンは「あ」と、短くつぶやいた。



 俺にはたくさんの群衆しかいなかった。俺は聞くことが出来なかったけど、ヤンの目は彼の想い人が見えたのだろう。


 きっと女を連れていた。


「あ、あ、あ、あ」

 ぶるると、ヤンは小刻みに首を振った。考えないように、冷静に。そう言い聞かせている様にしか見えなかった。


 息は荒くなり肩を震わせた。俺はヤンに大丈夫と言ってやるべきか、気のせいだよと元気つけるべきか分からなかった。ヤンは両肘をつき頭を抱えた。


「もういいです。ありがとうございました」

 そう言ってヤンは六万円を置いて去った。俺は一先ず六万円を掴んでドリンクカップはそのままスタバを出た。


 出てすぐのマクドナルドの方からヤンの怒鳴り声が聞こえた。

 慌てて行くと、ヤンは女の髪を掴んでいた。

 男、ヤンの想い人は引いてしまって、女を助けることもヤンを引きはがすことも出来なかった。


 俺は小さく「なんとかしろよ、男」と言い、喧噪の中に突っ込んだ。ヤンを羽交い絞めにして、女から引きはがした。そこでやっと男が女を支えた。

 女は一言、「何なのコイツ」と叫び男もヤンを見た。

 男は怒ることも軽蔑の視線を送ることも無く、女の膝を払い。一言。

「頭狂っているよな」

 と、ヤンに言い女と去った。



 ヤンはまた叫びながら、追いかけようとしたが、俺は精一杯ヤンを押さえつけた。


「あの女が彼をたぶらかしたんだ」


「ダメだよ」


「彼はあんな派手で変な女と付き合わない」


「ダメだよ」


「見ていて分かるよ。品の無い女だよ」


「そうね。今のヤンがそうだよ」

 力の抵抗はスッと収まった。ヤンの体から力が抜けた。


「分かっていたさ」

 車道に座り込んだヤンをどうにか歩道に乗せた。さっきまでの騒動に集まっていた人はほとんどいなくなった。大声を出さないヤンに興味を失ったのだろう。


「分かっていた。彼が異性愛者で彼女がいたことくらい。でも現場は見たことなくて、アレを見たらその自分の中にこうぐわーっとした気持ちがグルグル出来てあんなことしました。ごめんなさい」


「違約金」

 ルールではキャスト、この場合は俺だけど。迷惑をかけたら、違約金として一万円支払うことになっている。

 誰が決めたか分からないルールだ。キャストを守るためのルールらしい。


「すみませんでした」

 そう言って、財布から一万円を取り出した。時計を見ると十六時。


「お金をもらったし、あと一時間だ」


「もうこれで終わりでも」


「飲もう」


「え?」


「洋風の立ち飲み居酒屋がある。そこで酒を浴びるほど飲もう」


「あのお金は」


「違約金で飲む」


「えぇでも」


「失恋記念日だ。失恋を祝おう。週明けに大学に行って気まずいかもしれない。でも飲んで忘れよう」

 そういってヤンの金で飲んだ。払うと言って聞かなかったのだ。

 一時間ヤンの想いを聞いて、俺は度数の高い酒を頼んではヤンに飲ませ、しっかり十七時には解散した。

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