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第12話 いきて

 高校二年の五月、陸上部だった僕は走り幅跳びの選手で、好きになった先輩は長距離走の選手でした。彼のひたむきな姿や汗をぬぐう姿が魅力的で、今まで女の子に向けてきた気持ちと同じ気持ちになりました。夏休みに最後の大会があって、その時に僕が走り幅跳びで一位獲ったら告白しようと思っていました。


 いつか彼がいや彼じゃないかもしれないけど、家に来てお父さんの前に立つと思うと、その時にカミングアウトするより、今ちゃんと話そう。本当に三か月も何週間も考えて言おうか言わないか考えたけど、たった一人のお父さんには話したいと思って大会の一週間前にお父さんに言う決心をしました。


 家に帰るといつも明るい家が真っ暗でした。お父さんに恋人がいるのは知っていたし、今日もデートかなって思ったんです。それにしても飯どうするか相談してくれよなと思って、夜寝て朝起きても帰って来た形跡はない。僕も当時高校生だったから理解はしていたし、禁欲的より健康かと思っていました。

 お父さんが帰って来ない三日が過ぎ一週間が来て、僕は結局一位をとれず告白は叶いませんでした。


 自分の恋よりお父さんの事が気にかかっていました。お父さんが帰って来ない、もしかして自分を捨てて彼女と新しい生活を送っているのだと思ったこともありました。でもね、ユウシさん。もしかしてってあるんですよ。十一月になって、帰るとテーブルの上に一枚の紙があったんです。



「彼女とその子どもと一緒に暮らす。お前は一人でも生きていけるよ」

 


 今思えば、随分身勝手な親ですよ。でもね、今になっても僕はその女が許せないんです。僕の男性への初恋も結局女の子がかっさらってしまった。僕の運命はいつだって、女に奪われるんです。お父さんがいない生活は僕にとって最低の毎日でした。


 僕はさっきユウシさんに女の子を好きになる可能性があるって言いました。僕の葛藤です。もし僕が女性を好きだったら、お父さんの事もっと分かって上げられたかなって思うんです。


 先輩もお父さんも女に奪われました。僕はもう奪われたくない、女なんか大嫌いだ。もし、彼を女に奪われたら僕はどうやって生きて行ったらいいんだ。



 ヤンにかけてやれる言葉は無かった。ただ、ただ。



「ヤン。いきて」


「そんな無責任な」


「ヤン。あんたは頑張ったよ。苦労も十分したよ。だから今は生きることを」

 ヤンは右手でテーブルを叩いた。それなりに大きな音が出て客が注目するのを感じた。


「そんな無責任な事、異性愛者はいつだって僕たちを少数者として特別視するんだ。僕たちは何も特別じゃない。ただ僕たちは当たり前に生きているんだ。誰かに自分の事をカミングアウトして、偏見を受けるなんて笑わせる。僕は僕の当然を生きている。だから、僕は、ぼくは」



 そう言って、うなだれた。俺は迷った。俺も少数者なんだ。



 でもこういうことをカミングアウトすることで俺はヤンを余計に追い詰めてしまうのではないかと思った。


 カミングアウトしないで済む社会を期待するヤンにあまりに不誠実で、ヤンの心を傷つけてしまうことを恐れた。後から思えば、言ってやるべきだった。


 二人のフラペチーノはすっかり空になった。スタバの中はたくさんのカップルであふれていた。この中に俺たちはいない。俺たちはきっと友達として見られている。


 もしかして全員、少数者で、たくさんの性のうちの一つだとしても、ここに友人以上に親密な男性カップルはいない。


 手を繋ぎ、体を寄せ合い、甘い笑顔を見せる。そんな人間はいない。


 どうして男女がそれをするのは自然なのに俺たちがそれをするとまだ今は不自然になる。 もう二十年も生きて来た。

 ヤンはもっと生きただろう。辛い想いや苦しい恋をした。でもいいじゃないか、幸せに生きる権利はあるはずだ。もしそれを邪魔されるのなら、邪魔したそいつを俺は凶器を持ってして制圧してやる。

「ヤン、君は」

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