第11話 お父さんのお陰で
「ユウシさん、次はどこに行きますか?」
「ヤンの行きたいところ。ちょうどお昼時ね、君もそれも考えておかないと本番失敗するよ」
アセアセとするヤンが可愛く見えた。
ヤンの心の中の男の子は大切な存在らしい。
「この近くのヘップなら飲食店があるし、映画館もある。一緒に楽しむこと出来るんじゃない?」
文と来たことがあったので、梅田経験値はある方だったが、今でも胸が疼く。
「大丈夫ですか」
ヤンは立ち止まって後ろを振り返った。こんな男の子に心配させているようではレンタル何とか失格ね。
「いいよ。大丈夫」
ヤンの目はある方向に向いていた。小さな喫茶店だった。
「僕、オムライス好きなんですよ。人生で四番目くらい」
「四番目って微妙だね」
「ふわとろ、じゃなくて、しっかりしたやつ」
「そういう人もいるよね」
「ユウシさん、良かったら今度。あ、今度は無いのか」
ハハとヤンは笑った。
「フラれたら俺を指名してよ。また来よう」
「考えときます。でも彼は串カツが好きなので」
串カツ屋は並んだ。でも並んでいる間に色々話を聞いた。
彼は大学の後輩であること、好きになったのは研究室合同の飲み会で彼がカシオレを飲んで自分の肩に頭を寄せてきたからで、ある時から自分は男性も好きになれると気づいた。
「男性も?」
「今後自分は女性も好きになるかもしれないって考えた方がいいと思うんですよ。お得だし」
ヤンは大学院生だそうで、学部の講義室に彼がいる時はこっそり大教室に忍び込んだ。
会ったら偶然だねと言い、一緒に食堂に行くこともあった。というか俺より年上かよ。
「それで満足しなかったんだね」
言った後で同意を求められたらどうしよう。仕事だし、嘘をつくか。
いや嘘をついてバレたら。色々考え自らの失言を恥じた。
ヤンは一言、「はい」と小さくつぶやいた。
串カツは美味しかったし、ウインドウショッピングは楽しかった。ヴィレッジヴァンガードにも行って、楽器店にも行った。文との記憶に上塗りするために。
昼過ぎになり、スタバで休憩している時、ヤンは「こういう話聞きたいか分からないけど」と言うので、一応話してみてと俺はヤンに言った。
僕、中学生の頃にお父さんと住んでいたんです。お母さんはフィリピン人で小さい頃に死んじゃって、日本人のお父さんとずっと暮らしていました。お父さんは学校の先生で絵本や本で日本語を教えてくれました。こんなに日本語を話す事が出来るのはお父さんのお陰です。
そう言ったヤンはとても誇らしげだった。




