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夕立の詩(うた)  作者: 富永真一
9/26

両輪

4―3

「うまいっすね~」


「やめらんねえだ、これが。仕事の後の豚汁」


秋元がにかっと笑う。


「これが旨いんだ、こういうのがいーんだ」


甘谷がくしゃくしゃに相好を崩して豚汁の、汁を飲み込んだ。直樹は息も着かずに一杯目を飲み干した。三人がしばらく黙って豚汁を賞味していると、おもむろに秋元が直樹に訊いた。


「お前、明日香に惚れてんだろ?」


「は?」


呆気にとられた直樹は、否定の意味もこめてそう答えたが、二人には見透かされていることも分かった。


先輩二人曰く、多くの男子学生は明日香を目当てに入会する。しかし、明日香には彼氏がいて、それを知ると気配を消すように彼らの多くは幽霊部員となり、やがて退会していく。


そんな話を聞きながら、そういうことにさせないために、二人は自分を今朝の炊き出しに呼んだと直樹は察した。確かに自分は明日香に秘かに思いを寄せていた。万に一つの可能性でもいい、明日香も自分に関心の欠片でももっていて欲しいと心の隅で期待していたが、もちろんそんな期待通りに欲しいものを与えてくれるほど自分の人生は甘くもないことは知っている。


二人の話を聞いて特段落ち込む必要もないのだが、少し追い討ちをかけたのは、明日香の彼氏が、直樹が最も嫌いな“ちゃら男”と言われる男らしいことだった。


直樹は軽いノリでピアスをつけ脚を引きずりながらあるく“ちゃら男”が大嫌いだった。コンビニに“ちゃら男”が数人で押しかけてくる時などは、早く帰れと念じてしまう。


でもはなから明日香と自分が付き合えることなど望むべきではなかったのだ。同じサークルに所属できていることだけでも幸運だと思うことにした。


欲張らず、身の丈にあった願いを持とう。


満たされることが計算できる欲や、叶えられることが予測できる願いを。二人の頼れる兄のような眼差しと、胃袋に溜まった豚汁が、直樹をそう諭していた。


 当初小さい邪まな気持ちで始めたボランティア活動だったが、秋元と甘谷が飲みに連れ出してくれたり、


炊き出しをはじめいくつかのボランティアを経験させてくれたりしたお陰で、直樹は自分の生活に入り込んでいくのを快く感じるようになっていった。


平日は授業が終ったらバイト、土日は電車を乗り継いでボランティア。その二つが両輪となって直樹の学生生活は走り出したのだった。


              つづく         


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