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夕立の詩(うた)  作者: 富永真一
7/26

ホームレス街

4―3

 「本当にここでまちがっていないのか?」

直樹はポツリと呟いた。

ホームレスと思しき男たちが音もなく歩いている。

色の褪せたカラー写真でしか見られない昭和の貧しい匿名の街並みの空気をその街は醸しだしていた。


サークルでの活動に慣れてくると、池に広がる波紋のように直樹の活動範囲は自然と広がっていくようだった。

その日は、先輩から誘いがあり、サークルとは別のボランティア活動に参加していた。


横浜のスタジアムの周辺にある繁華街から程近い一角に、過去のどこかの時点で時の流れが止められてしまったかのような場所があるのかと、直樹は驚きと慄き抱えながら歩みを進めた。


「おーい!」


後ろからの掛け声に、

直樹は背筋を伸ばして反応した。

後ろを向いたら大柄な中年の男が立っている。

どうやら声を上げたのは嗄れのようだ。ただ直樹を呼んだわけでもないようで、すぐにふらふらと横を向いて歩き出した。

直樹の鼓動は速まり、背中からは汗が滲んでくる。

直樹はすぐに、甘谷に電話をかけた。

スマートフォンごしに慣れた先輩の眠そうな声が聞こえてくる。

甘谷の指示は、「そのまま進め」だった。ほっとして目に涙が滲む。人の声で、これほど安堵したことがあっただろうか。直樹は気を取り直し、グーグルマップに示された経路を進んだ。

安堵のためか、少し体に重みを覚えた。昨晩の深酒が抜けきっていないのだ。

この街に入り込んだ時に感じた風邪の引き始めの様な気だるさが蘇えり、ここに来たことを悔いた。

甘谷の誘いを断る理由はいくらでも作れたはずだった。今からでも甘谷に断りの連絡を入れようか。逡巡しているうちに、直樹の醒めたどこかが、街の奥にある気配を感じ取った。

さっきまで直視できなかった街並みを見据える。飲み屋や定食屋の店構えが一変して、これまで見たことのない様相を呈していた。

古材を寄せ集めて建てたような店や古びた鉄筋で支えられた建物も散見される。

せっかくここまで来たのだ、もう少し知らない世界を覗いてみよう、直樹の心は微かに沸き立った。


一目でそれと分かるホームレスたちが背中を寄せ合って歩いている。

人波を泳ぐように歩幅を大きくとって男達の間を進む。


男達の中をしばらく行って、喉の渇きを覚えた直樹は自販機にスマホを翳したが、硬貨を入れることでしかそこでは飲み物を買えないらしかった。小銭を取り出し、八〇円でミルクティを買う。プルタブを折り曲げる。乾いた音が小さく響いた。


ここでなければ嬉しいが、どうやらここに違いない。そんな思いで、グーグルが案内する細長いビルの入り口をくぐる。


暗く細い廊下に忍び込んでいき、突き当たりにある階段を上っていく。


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