ボランティアとの出会い
4‐1
無難な道を選んできた直樹のこれまでと違う世界を見せてくれたのは、サークル活動だった。
入学してから二週間、直樹はいくつかのサークルに顔を出し、どこに籍を置くか考えた。
テニスやフットサルサークルには素人である直樹でも入れなくはなかったが、運動で凌ぎを削る雰囲気と活動のあとのガツガツとした体育会系の先輩たちの仕切る飲み会には居場所を見つけることができそうになかった。
社会福祉学部のある大学には、ボランティアが日常的に展開されていた。
手話サークルがあり、
施設を慰問するサークルがあり、
外国人に日本語を教えるサークルがあった。体育会系のノリに合わない直樹が、その頃の流行りの言葉で草食系と呼ばれる男女の集まる福祉系サークルに親近感を覚えたのは極自然だったのかもしれない。
しかし、児童施設の子どもたちと遊ぶサークルに入会している学生の殆どが「シャフク」と呼ばれる社会福祉学部の学生だった。
部室にも“シャフク”の講義ノートが置かれ、シャフクの学生たち単位をとるための虎の巻や教授別にウケるレポートの書き方などが模造紙で壁に貼られたりしていて、直樹の様な社会福祉学部以外の学制はある意味で異色の存在だった。
直樹がそんなサークルに入会することにしたのは、大いによこしまな動機があった。
杉本明日香という先輩の存在が直樹の入会に背中を押したのだ。
現役で入学した社会福祉部二年生の明日香は一年間浪人した直樹にとって同い年の先輩だった。
サークルの勧誘が解禁になる入学式の翌日から、新入生たちは、たくさんの知らない先輩たちから声をかけられた。
4‐2 小さな恋
明日香と初めて会った時のことは、今でも色褪せずに浮かべることができる。
「新入生の方ですか?」
澄んだ声に振り返ると、ショートカットの小柄な女性が直樹を見上げていた。
小鹿みたいだなと直樹は思った。
気がつくと明日香に腕をとられ遠くのブースまで連れて行かれた。
強引に腕を組まれて、
もうサークルは決めたんですか?
学部はどこですか? などと訊かれながら、歩いているうちに現実と地続きになった夢の世界の入口に立たされた心持ちになり、自分に訪れる未知の可能性に心が躍った。
きっとそれらが次々に開花していくのではないかと訳のわからない万能感が全身を覆っていくに身を任せた。
有頂天になった直樹は、次から次へと明日里のような美人が自分の前に訪れる未来を夢想したのだ。
大きく膨らんだ風船がやがて縮み、萎れていくように、その夢想は幻に終ったが、あの頃から見た未来に立っている今も、あの時大学のキャンパスに映し出された幻想が、なお不思議と自分の奥底で、得体の知れない力を宿しているのかも知れない直樹は思っている。
結局、叶わなかった明日香への思いではあったが、彼女のお陰でそのサークルが大学という未知の場において、直樹の最初の居場所になった。
Big Brother and Sister、通称「BBS」が活動する児童養護施設には、様々な事情で親と一緒に住めなくなった子ども達が暮らしていた。
小学生から中学生までの子ども達だった。主に直樹たちが遊ぶのは小学生で、学校の校庭程もある広い園庭で、野球のバックネットがあったり、サッカーのゴールがあったりで子ども達の遊び場としては恵まれているようだった。
直樹たちはその広い庭で野球やサッカー、ドッチボールをしたり、鬼ごっこをしたりして汗を流した。雨の日は屋内でカードゲームをしたり、レクレーションを楽しんだ。
つづく