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夕立の詩(うた)  作者: 富永真一
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帰宅すると、直樹は幸男と登美子に近藤から学童の退職と小学校のサポート職員への転職を勧められたことを話した。学童の退職については好意的に受け止めた両親だったが、小学校のサポート職員という耳慣れない仕事にはさすがに芳しくない反応だった。


「学童で見てる子どもらへの思いはねえのか? 子どもがかわいいとかあれだけ言ってたじゃないか」


幸男が確かめるように聞く。


「そこは、いちおうな、“まほろば”に来てる子どもらはみんな猪俣小だから、問題ない」


「そんなもんか」


「小学校のサポート職員になって、その後のことは考えてるの? 学童の職員と一緒で先が見えない仕事に変えてもねえ」

登美子も冴えない冴えない表情そのままに、消え入りそうな声でそう問う。


「・・・・・・それはそうだけど、いちおう準公務員みたいなもんだって近藤さんからは言われた」


「子どもが休みの夏休みは仕事あんのか? 学童は年中仕事があったけどよ。その職員ってのはよ、学校の長期休暇はどうなってんだ? また、うちのコンビ二手伝ってくれたりできんのか?」

幸男は少しおどけるようにして、探るような視線を向ける。


「夏休みは完全に休みになるらしい。その代わり副業してもいいから、学童でバイトするかもだな。もちろんコンビ二に出るのもありだな」


「その間は給料は出ねえってことだな。なんだか、待遇面では学童の方がいかったかもしんねえな。」


幸男は自分で言った言葉を聞いてさらに顔色を曇らせて、テーブルの麦茶に視線を落とした。


「そんで、契約は複数年でしてもらえんのか?」


「一年ごとの契約なんだって。今年度は中途で真面目に勤めれば来年度は継続になることが多いらしい。辞めさせられることはないだろうと。そして、学校のサポートの職員は今後増えてゆくことはあっても減ることはないんだって。待遇もそのうちもっと見直されていって安定してくるって、その近藤さんが言ってた」


直樹は近藤から説得を受けるときには感じなかった自分の胸の中にある不安や新しい職への見通しの甘さが両親に説明しながら痛いほど感じられてきた。


しばらく黙って二人の会話を聞いていた登美子が言った。


「直樹がやりたいと思うことを、お母さんはやってほしいと思ってる」


予期せぬ母の言葉に直樹は不意に目頭が熱くなるのを感じた。


自分の見通しの甘さをやんわりと教えてくれた幸男の言葉も、登美子から送られた温かく背中を押してくれる言葉も、これからの自分が進む道を照らしてくる灯りのように直樹には思えた。


               つづく

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