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夕立の詩(うた)  作者: 富永真一
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近藤

怪我から一週間が経ち、会話もスムーズになってきた頃、学童長の近藤が面会に来た。


昼食を終え、六人部屋の患者各々が自分の時間を持て余しているような気だるい空気に遠慮するように近藤は病室に入ってきた。


「おっす~ オガちゃん」


「こんちは」


近藤は、ベッドを降りて椅子を出そうとする直樹を制し、自分でパイプ椅子を運んで座る。学童の責任者として直樹に謝罪をしにきたと告げた。


「話したことあるかも知れないけど、俺も学生時代に野球部でさ、ここをやったよ」


近藤は顔をしかめて、人差し指で鼻頭を軽く叩いた。それを見ているだけで直樹は自分の鼻が痛くなる思いがする。近藤は構わず続ける。


「グラウンドが硬くてさ、強い当たりのゴロがイレギュラーして、ここに。よけるひまなんてなかったよ」


「さいあくっすね」


直樹も顔をしかめようとするが、鼻の奥がつっている様でうまくしかめ面をつくれない。


「あー。そうだろ。このやばさは、やった奴にしかわかんねえよな、オガちゃん」


「はい・・・・・・」


 二人で苦笑いする。しばし和やかな沈黙が訪れる。この痛みを分かち合える者の初めての出現に直樹の気持ちは大いに和んだ。


「昔と手術の仕方は変わらないのか?」

「さあ、どうでしょう。自分は昔のは知らないんで」

「医者が、銀色の細長い棒を鼻の穴につっこんで」

「そうっす!」

「バキバキバキバキ~って!」

「あ~」


 直樹は、体をくねらせて悶える。思い出すだけでも体の細胞一つ一つが悲鳴を上げる。


「看護婦が三人がかりで俺のことを抑えてたぞ」

「ぼくは二人でした」

「オガちゃんもよく耐えたな~」


労わりと同情の色が近藤の体から滲む。


「耐えるもなにも・・・・・・」


 近藤が見舞いに持参した洋菓子を二人で食べながら少し取るに足らない話で時間が過ぎた。


少しして直樹は改めて拓海が起こした件のいきさつについて説明しようと思い切り出した。

「おれが、カードゲームで本気を出さなければあんなことにはならなかったと思います」


「いやあ、それはまた別の話じゃない?」


「いえ、拓海の性格を考えたら、そうすべきじゃなかった。冷静にしていれば、走り回る子達を静かに廊下に出すなり、諭して他の遊びをさせるなり機転が利いたはずです。拓海としても、おれに負けまいとしてボルテージが上がっていたのは事実です」


「それは小河くんが本気で拓海との遊びを楽しんでいた証でもあるしね」


「それこそ、別の話ですよ。他の子がカードを蹴飛ばしたって、風で飛ばしたって落ち着いている時の拓海ならば我慢できたかも知れない」


直樹は自分の関わりが遠因になって起きたことだと近藤に伝えたかった。それが拓海の助けになればと願いがある。


近藤は真摯に直樹の話に耳を傾けてくれた。そして、自分以外の学童の関係者は見舞いに来られないと、申し訳なさの滲む表情を浮かべて説明した。


学童で働くのは主婦か、大学や専門学校を卒業後定職に就いていない直樹のような若者がほとんどだった。日中は家事や他のバイトに勤しむ。昼食を摂ったあとから各々が集まって来て、子ども達を迎える準備をする。


学校の夏休みや冬休みなどの長期休暇も子ども達を預かるために学童を開けておかなければならないので、一年中忙しい仕事だと主婦達からは聞かされているので直樹は、そのことについては何も感じてはいないと伝え、逆に自分が欠員になってしまっていることで、他の職員に負担をかけていないか気になっていると伝えた。


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