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夕立の詩(うた)  作者: 富永真一
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タクミ


大学卒業を前に直樹は企業への就職活動をせず、卒業してもしばらくは自分にあった働き口を探すことに決めていた。


ボランティアや家業に近いバイトの経験で得た感覚は、社会に出る段になって、周りの学生達と同じような道に進むことを良しとしなかった。


というより、それぞれに違う居心地の良さに慣れ、“厳しい”社会に出て行くことに臆病になってしまっただけのかも知れなかった。


いずれにせよ、直樹はバイトとボランティアをたして二で割ったような学童保育で働くというとりあえずは、免責されそうな働き方を選んだ。


そこへは毎日学校帰りの小学生たちがやって来る。子ども達の多くは親が共働きであったり、幼い弟や妹がいて親が面倒を見る時間がとれないというケースが多かった。


そこに預けられる子どもたちは、大学生時代に出会った子達とは違い、皆保護者である親がいたが、一様に大人を求めているのは施設の子ども達と同じだった。


その一方で素直に大人に自分の欲求を表現できない子どももいた。そんなある少年との出会いが直樹のその後に影響を与えた。。


タクミという少年は、いつも一人で遊ぶ子どもだった。直樹が大学卒業直後から学童で働くようになったとき、タクミは小学五年生だった。タクミは自分の好きな玩具で遊ぶ。その玩具選びには彼特有の流行り廃りがあった。


一週間ほどおもちゃの電車で遊んだかと思うと、しばらくするとトランプの神経衰弱だったりした。使う遊具やおもちゃ自体は他の小学生と変わらないが、その特異なのは遊びかただった。どんな時も一人で遊ぶのだった。


トランプの神経衰弱も、五十四枚のトランプをきれいに揃えて並べて、一人で一枚ずつめくって同じ数字を当てていく。


徐々に並べられているトランプが減っていく。その過程を喜ぶのであった。


時折、大人を誘って二人ですることもあるが、必ずタクミの性格を理解していて、心地よく彼に勝ちを譲ることができる相手をタクミ自身が選ぶ。


大学生のボランティアの中には、子ども相手に本気を出して楽しむ者が数人いた。


もちろん彼らとしては、それが子どもに対する誠意だと捉えているのだが、タクミはそういう相手を遊ぶ相手には決して選ばなかった。


同僚から聞いた話では子どもと遊ばせると必ずトラブルを起こすので、一人で遊ぶように仕向けているうちに、次第に一人遊びに没頭するようになったということだった。


三年生から入所したタクミだが、子どもだけで遊ばせると喧嘩が多く、他の子どもの保護者からのクレームが増えた。


タクミがいたら安心して通わせることが出来ない。学童を他に変える。などと訴えてくる保護者が出てきたため、タクミの母親と話し合い、原則的に一人で遊ばせるということになっているのだそうだ。


少しするとタクミと呼ばれている彼が須藤拓海という名前だと知った。五十名近くいる子ども達の全員の本名を知りたいとは思わなかったが、なぜか直樹はタクミのことが少し知りたくなったのだった。


氏名が分かると直樹は拓海自身のことがもう少し知りたくなり、外堀を埋めていくように情報を集めて行った。


同じ保育園で育った子どもに、幼児だった頃の拓海のエピソードを聞いた。すると、予想していた通り拓海は幼児の時からひとり遊びを好んでしていたそうだった。


一人で砂場で遊ぶ。

絵を描く。

玩具で遊ぶ。

拓海には一人大人がついていたのか、それとも誰もついていなかったのかは、その子の話からは判断がつかなかった。

いずれにせよ同年代の子どもと遊んだり、協力して何かに取り組むことを経験してこなかったということは分かった。


それを知って、直樹は一層拓海に良心的に関わろうとしてきた。当初ははただのわがままだと思っていたこともあったが。


                 つづく

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