卒業のとき
大学の卒業式の日、サークルの後輩たちが祝いの席を設けてくれた。一軒目の居酒屋では、卒業生一人ひとりが皆に挨拶した。BBSでの楽しい思い出やほろ苦い失敗談など、何を話しても笑いに包まれる。
直樹はから揚げを頬張りながら、同期の面々との思い出が湧き出すように蘇えった。
特に四年生の先輩たちが就職活動を本格化させる四月以降、直樹たち三年生はサークル活動の運営を任される。
福祉系サークルの中では名の通った春日部凛が福祉系サークルをまとめる連絡会“シャフク連”をつくりそこの会長に就いた。
そしてBBSの部長も兼ねて大学全体から、サークル活動の活性化、学生の交流を拡大してきたことも思い出された。
副部長になった神川駿太郎は、明朗快活でいつも明るく憎まれない人柄で凛を支えていた。
サークル改革の過程で、これまで限られた人員で運営されてきたBBSの活動にも、他サークルからの参加が増えた。またBBSの学生も他のサークル活動に参加する者もいた。
目立った軋轢はないものの、環境の変化に違和感を訴えた学生たちがいた。ある期間漣がサークル内に起きたが、凛や駿太郎たち上手く収めてくれて、BBSは他サークルと共に揚々と新しい風を受けて海洋を進むヨットのように見えた。
キャンパス内を歩くボランティアサークルの学生たちは、それまで大人しくひっそりとした空気を漂わせ早足で歩いていた。
しかし最近は顔を上げてを快活な声で話しながら、時に大きな笑い声を上げている学生が増えたように直樹の目には映った。
大柄で筋肉質の運動部や洒落た服を着て髪の毛をカラフルに染めている軽音楽部の学生たちとは異なった光を放てるようになったのは、直樹達の同期の活躍があったからだと、後輩たちは身をもって感じているはずだった。
「つぎは、直樹先輩!」
後輩たちから拍手が沸き、直樹は掘りごたつ式の机から立ち上がった。
「えー自分は、BBSのユウレイ部員一号です」
大きな声で言って、場の笑いをとった。
「ちゃんと足が見えますよ! たしかにあんまり顔は見なかったけど!」
駿太郎のツッコミでさらに場が盛り上がった。
「あまり、BBSに貢献はできませんでしたが、自分はこの場が好きでした。この場があるから、他のボランティアに行って、いい経験をさせてもらえました。部費も滞納してたけど、今日払います!」
「おおー」歓声が上がる。
「卒業式のこの日まできて、ブヒブヒ言うな! 大丈夫だぞ、お前の部費は、俺が何とかしといたから!」駿太郎が煽る。
「そーだそーだー」後輩たちもここぞとばかり直樹をからかう。
直樹の部費の滞納癖は、皆の知るところとなっていた。その都度、会長の凛が立て替えていたことも皆知っている。
卒業生のほとんどは、就職し社会に出る。なかには専門学校や大学院への進学が決まっている者もいた。
中には一月前から会社に研修で出社している者もいて驚いた。一般企業にとつめるのもいたが、市役所や県庁の福祉課が多いのもそのBBS所属の学生らしいと直樹は他人事のように感じていた。
つづく