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廃人末期のサイクリング
「久しぶりにサイクリングでも行かないか?」
突然来た友人のメールに俺は驚いた。ゲーム廃人である彼からアウトドアな誘いが来るとは思わなかったのだ。サイクリング好きな俺が断る理由はない。承諾すると彼はスケジュールを立てて送ってくれる。彼が提示したサイクリングルートは思っていた以上に長いものだった。
「こんなに長旅で大丈夫か?体力ないだろ」「愛の力でなんとかする」
意味不明なことを言ってきたが、彼がいいならば何も言うまい。
明朝、スケジュール通り彼とサイクリングをした。俺はマイバイクで、彼は昨日買ったママチャリでそれぞれ走る。俺の予想に反して彼は長旅を特に休むこともなく走り切った。旅を終え、友人は「ふ〜」と一息つき、バッグの中を探る。不意に彼の表情が曇る。「どうした?」と聞くと、彼はバッグに入っていた卵を一つ取り出す。思わず怪訝な表情を向けた。
「あんなに走ったのに、孵化しないんだけど……」




